第5話 彰人、戦人と勘違いされる

 日が大分傾いてきた。


 今俺は大鳥車に乗っている。

 エシューゼは俺の世界より500年は遅れている―― タマはそう言ってたが、大鳥車にはバネのサスペンションが付いていて、思っていたよりも乗り心地は悪くない。


――――――――


 あの後、盗賊共がどうなったかというと――


 ボスはヤケクソで彰人に向かっていったが、彰人の棍であっさりと倒された。

 ダリモに引き摺られた2人を追っていた奴らも、戻って来たところを彰人に叩きのめされた。

 そして『ゲルナの疾風団』は、気絶したまま12人全員ロープで縛りあげられて、後ろの大鳥車に押し込まれている。

 盗賊共が乗っていたダリモは、6羽ずつをロープで繋いで、大鳥車の左右を並走させている。


――――――――


「本当に、ありがとうございました! このお礼は、町に着いてから存分にさせて頂きますので!」


 商人のおっさんは、俺の手を握って何度も何度も礼を言ってきた。

 俺はおっさん以外にも、御者2人と4人の従者からも次々に礼を言われた。

 女性は1人もいない。20~40代くらいと思われる男ばかり―― フラグが立つことはない。立ったら嫌だ。


「気にすること、ありますか? 私は、仕事した、かもです?(気にするな。俺は仕事をこなしただけだ)」


《惜しいです。発音と抑揚が少し違いました》


《またかよ…… タマ! お前わざと変に教えてないか?》


《そんなことは、絶対にございません》


 くそっ! ぶっつけで喋るのは難しいぜ。


「申し遅れましたが、私はマカラで服飾品を扱う商売を営んでおります【マルデオ】と申します。失礼でございますが、貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 そういや、まだ名前も言ってなかったな。


「アキト」


 偽名を使う必要はない。俺は堂々と名乗る。


「おお! アキト殿でございますか! アキト殿は異国の方とお見受けしますが、どちらからお越しになられたのですか?」


「ニホン」


 これも嘘をつく必要はない。


「ニホン? 聞いたことございませんな。きっと、【レミール公国】よりも遠いところなのでしょうね……

 もしや、その衣装! アキト殿は、西方の地【ジャルモダ】の方から来られたのではありませんか?」


「そうだ」


 俺の世界は、その『レミール公国』よりずっと遠いだろうし、『ジャルモダ』は全然知らんが、俺は西の方から歩いてきたので、何一つ嘘を言っていない。


「おお! やはりそうですか!」


 マルデオは、何か知らんが興奮しているようだ。


《彰人様。ばっちり会話できていますね》


 さすがに単語一言だけならな…… でもこれが会話と言えるのか?


《タマ。お前、俺をバカにしてるのか?》


《滅相もございません》


 俺がタマを睨んでいると、マルデオと目があった。


「どうかなさいましたか? アキト殿?」


 マルデオが少しうろたえ気味に聞いてくる。


「何でもない。心配するな(何でもない。心配するな)」


《え? 今のは完璧でした》


 当然だ! 俺は『できる子』だからな!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「※$%! ■〇※×▲#$●!」


 御者が大きな声で何か呼びかけてきた。


「△□※▲×! ※◆〇%$※▼&■×!」


 マルデオも大声で応える。


 タマは、今は通常モードに戻っていて、俺に対する会話だけは同時通訳してくれるが他は一切無視なので、俺には彼らが何を言ってるのかさっぱりわからない。


《タマ。何かあったのか?》


《いえ。マカラが見えてきただけです。マルデオは、盗賊を引き渡すので門兵に伝えるように御者に指示していました》


 そうか。ようやくマカラに到着か。


 それにしても、他人の会話を一々タマに確認するのも面倒だ。


《タマ。すまないが、俺が「もういい」というまでは、俺への会話以外でも、半径15m以内の話し声を全部同時通訳してくれると助かる》


《了解しました。では早速!》


「おなかすいた」「のどかわいた」「おなかすいた」「エサほしい」「けりたい」……


 いきなり、すごい数の声が聞こえてくる。


《な、なんだこれは?》


《ダリモ達の鳴き声を通訳しました》


《ごめん…… 通訳の対象は、人間だけでお願いします……》


……


 俺たちの乗った大鳥車は、マカラの北門の前に到着した。


――――――――


【エシューゼ豆知識】

 マカラは周囲を高い石の壁で囲まれた城塞型の町である。

 というよりも、マカラだけでなく、エシューゼの人の住む町は、大抵が『壁』か『堀』で囲まれているのだ。

 それは戦争のためではなく、恐竜に対する防衛のためという理由である。


 中型恐竜のミドサウロスの危険度でも、ファンタジー小説に出てくる中級の魔物クラスであり、20m級の大型恐竜となるとその危険度は相当なものなのだ。


――――――――


 入口には2人の門兵が立っている。

 門兵2人はこちらに気付くと、御者が声を掛ける前に近付いてくる。


「お、おいっ! なんだそのダリモの群れは!?」


 門兵2人は、大鳥車の横にズラリと並んだダリモの群れに驚いていたが、御者が彼らに事情を話すと、


「な、なんだって!!」


 更に驚いた門兵2人は、慌てて後方の大鳥車へ行く。


「こ、これは!? た、大変だ! すぐに隊長に報告しなくては!」


 門兵2人は大慌てで門の方へ戻っていった。そのため、俺達は暫くその場で待ちぼうけする羽目になった。


……


 暫くして門兵2人が戻って来た。後ろからは十数人の兵士がついてきている。


「隊長! こちらです! 後ろの大鳥車です!」


 隊長は、門兵2人に促されて後ろの大鳥車の中を見て、そして呟く。


「信じられん…… あの『ゲルナの疾風団』を捕えてくるとは……」


――――――――


『ゲルナの疾風団』は3年前に突如ゲルナ荒野に現れ、瞬く間にゲルナ荒野を縄張りとする最も恐れられる盗賊団となった。

 以来、いくつもの町で討伐隊が結成されたが、これまで1人として捕らえることができないでいた。

 ダリモは機動性が高く馬以上のスピードで走るものの、乗りこなすのが非常に難しいため、討伐隊には『ダリモ乗り』はほとんどいなかった。

 それに対し、全員が腕利きのダリモ乗りである『ゲルナの疾風団』が相手では、捕らえることができないのは当然の結果だった。

 しかも、ボスを筆頭に戦闘能力もすこぶる高く、討伐隊が返り討ちに合うことも珍しくなかったのだ。


――――――――


「マルデオ様! 一体どうやって連中を捕まえたのですか? 奴らの姿をこの目で確認しても、まだ信じられません!」


 隊長は、興奮気味にマルデオに話しかけた。俺も一応当事者なんで、マルデオの横に立って話を聞いていた。


「それは―― こちらにいらっしゃるアキト殿が、1人で退治してしまわれたのです」


「な!? 本当ですか? それこそもっと信じられません…… このような変な格好をした少年が?」


 隊長は、相当に疑った目で俺を見てくる。


「ラークマン隊長。それはアキト殿に対し失礼ですよ。アキト殿がどうやって退治されたのかは、私共も見ていないので分かりませんが、恐らくアキト殿は【戦人せんにん】に違いありません」


「戦人ですと!? あの伝説の!?」


「そうです。なにせアキト殿は、あのジャルモダから来られたそうですから!」


「ジャルモダ! そういえばその衣装―― 不思議な魅力が感じられますな」


 さっき『変な格好』って言ってたよね!


 ラークマンはマルデオの話を疑いもなく信じているようだ。マルデオって、もしかするとここじゃあ『結構な顔』なのかもしれない。


 マルデオとラークマンとの間で話が勝手に進んでいき、俺はいつの間にか『ジャルモダから来た戦人』ということになっていた。


《タマ。『戦人』ってなんだ?》


《はい。戦人というのは、『巫女の一族』に使える戦いに長けた男衆おとこしゅうのことで、巫女のために戦では先頭に立って戦う者達のことです》


《『巫女の一族』って、元『扉の管理者』だったという?》


《そうです。巫女の一族は、今もジャルモダの国を統治しております。

 ジャルモダは古来より『神聖地』として崇拝されている場所で、巫女や戦人の逸話は、今もなお大陸全土にお伽噺のように伝承されております》


《もしかして『巫女の一族』って、結構な影響力を持ってるのか?》


《勿論です。今では『扉の管理者』までの力を持つ者こそおりませんが、それでもなお多くの者が特別な力を持ち、六大国ですら畏怖の念を持っていて、ジャルモダには手を出すことはございません》


『巫女の一族』か―― ちょっと興味が出てきたぞ。ジャルモダには、一度行ってみる価値がありそうだ。

 何なら魔王軍と戦うときに、ちょっと手を貸してもらいたいところだ。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 兵士達は、ゲルナの疾風団の連中を牢屋に運んで行った。

 まだ、ほとんどが気絶していたが、何人かは意識を取り戻したようで、これから連中の尋問をするそうだ。

 俺はとっとと食事に有り付きたいところだったが、何故かラークマンが尋問に同席することを勧めてきて、マルデオと一緒に尋問部屋に連れていかれた。


 暫くして、尋問部屋に兵士に引っ張られて盗賊の1人が入ってきた。連れてこられたのは、凸凹の禿頭をした皮鎧を着た男だ。


 ラークマンの尋問が始まる。


「お前がゲルナの疾風団の首領ボスだな!」


「さあな」


「名前は?」


「さあな」


 ラークマンの質問を完全無視する禿男。

 これでは尋問は進みそうにないな。俺はそう思ったのだが、ラークマンは余裕の表情で不敵な笑みを浮かべた。


「ふふふ、とぼけても無駄だ。その禿頭と歪な頭の形―― お前が『ゲルナの疾風団』の首領ボスの【アルバート】だな!」


 ラークマンが名前を言った瞬間、禿男は驚いたようにギョッと目を見開いた。


「何故俺の名を!?」


「さあな」


「おい! てめぇ、答えやがれ! 誰に聞いた!」


「さあな」


 何で質問者が代わってるんだよ。ラークマン! ちゃっちゃと尋問を済ませてくれよ。俺は早くここを出て飯を食いたいんだ! 俺は目の前の出来の悪いコントにイライラしてくる。


 睨み合う2人に向かってマルデオが声を掛けた。


「ラークマン隊長、尋問を続けてくださいな」


「これは失礼しました、マルデオ様」


「ちっ! まあ名前くらいどうでもいいか……」


 禿男も大人しくなった。


「では続けるぞ。おい『ハゲテル』! キサマらのアジトの場所はどこだ?」


「誰が『ハゲテル』だ! 俺の名は『アルバート』だ!」


「そうだったか? で『ハゲテル』、アジトはどこだ?」


「誰が『ハゲテル』だ! 俺の名は『アルバート』だって言ってるだろうが!」


 禿てる―― 確かに『アルバート』なんかより、遥かにコイツにピッタリだ。

 でも、本当にそういう意味なのだろうか?


《タマ。エシューゼでも禿は『ハゲ』と発音するのか?》


《はい。不思議なことに、エシューゼで使用されている言語のほとんどで、禿は共通して『ハゲ』と発音されます。エシューゼ三大不思議の1つです。因みにハゲテルは、この辺りで使われている言語で『禿男』の意味になります》


 確かにスゲェ偶然だな…… この世界どころか、ニホン語とも同じとは。


 しかし、この調子では尋問が全然進みそうにない。


「名前なんかどうでもいい。さっさとアジトの場所を吐け! 言わないなら、力尽くで吐かせるぞ!」


「拷問か? ハハハハハハハ」


 ハゲテルの奴がいきなり笑い出した。気でもふれたか?


「俺たちゃ、死ぬことなんぞとっくに覚悟できているぜ! 今更そんな脅しに屈すると思っているのか?」


 確かにハゲテルは覚悟を決めた顔をしている。本当に拷問にも屈することはないかもしれない。こういう奴らは、いざとなればすぐ命乞いすると思っていたのだが、案外この世界の連中は度胸が据わっているのかもしれない。


 俺はマルデオに耳打ちする。


「なぜ、アジト、聞く?」


 無理に会話しようとすると、発音やら抑揚やらが難しくて失敗する。俺はもう思い切って『片言』で話すことに決めた。


「それはですね、奴らのアジトには、今までに奪った物がしこたま隠されていると思われるからです。恐らく、【ゲルナンド】全体の被害額は、金貨10万枚分くらいになると思います。それを見過ごすわけには参りませんので」


――――――――


【エシューゼ豆知識】

 ゲルナンドとは、マカラなどゲルナ荒野周辺の10の町と、いくつかの村で構成されており、町の代表者達による合議制によって統治されている自治国家である。


――――――――


 エシューゼの金貨の価値はよくわからんが、とにかく大金なんだろう。

 それとは別に、俺も1つ気になることがある。


 それは『爆弾』だ!


 エシューゼでは、未だほとんど知られていないはずの兵器を、何故一介の盗賊団が持っていたのか? きっと、そのアジトに秘密があるはずだ。


《タマ。お前なら盗賊のアジトの場所も分かるんじゃないのか?》


《勿論分かりますが、細かい位置を言葉で説明するよりも、地図を用意してもらった方が早いです》


 確かにそうだ。


「マルデオ。ゲルナの、地図、ないか?」


「アキト殿? ゲルナ荒野の地図でございますか…… どうなさるおつもりですか?」


「アジトの、場所、わかる」


「ほ、本当でございますか!? ラークマン隊長!」


 マルデオはラークマンに声を掛け、地図を用意するように話した。


……


 タマは用意された地図に対し、


《この地図、随分杜撰ですね。縮尺もいい加減ですし、川の位置や湖の形も適当です。これでは正確とは言えませんが、アジトの場所は大体このあたりになるはずです》


 そう文句を言いながら、地図の上で跳ねた。


「この、あたり、アジト、ある」


 俺は、タマの跳ねた位置を指さす。


『分かるはずがない』という顔でほくそ笑んでいたハゲテルだったが、俺が指で示した位置を見て明らかに顔色を変える。どうやら図星だったようだ。


「な、なんで? あ、あんた何者だ! アジトの場所もそうだが、あの強さも尋常じゃなかった」


「フフフ…… 彼はなあ―― あのジャルモダの『戦人』なのだよ!」


 何故か、ラークマンが胸を張って自慢するように答える。


「せ、戦人だと!? そうか…… そうだったのか…… 全て納得いった」


 ハゲテルは勝手に納得し、がっくりと肩を落とした。そして――


「もう用はないだろ…… さっさと牢屋へ戻せ」


 ラークマンに向かって言った。


「そうだな…… 牢屋に戻してやれ」


 ラークマンは部下に命令する。


「人生の最期に伝説の戦人と戦えたわけか…… あの世で自慢できるぜ」


 ハゲテルが尋問部屋を出るとき、俺の方を向いてすごく清々しい顔でそう言った。


 俺は苦笑いを浮かべる。


 悪いな…… 俺は、その『戦人』じゃないんで、自慢できないかもな。


 それにしてもハゲテル―― 根っからの悪党のクセに、セリフは格好つけていたのが気に食わない。

 気に食わないが、人生最期らしいから、今回は大目に見てやることにした。

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