第4話 彰人、盗賊団と戦う
「あなたたち、皆さん、けんめいに、倒す?(お前ら全員、ブッ倒す!)」
《タマ。うまく言えてたか?》
《惜しいです。発音と抑揚が少し違いました。でも、なんとなく意味は通じたような気がします》
「ふ、ふざけやがって! この野郎から始末してやる!」
本当に通じたのかどうか分からないが、怒らせることは成功したようだ。
盗賊の1人が刀を抜く。盗賊の使っている刀は刀身が太く湾曲した形をしていて、斬ることに特化したタイプだ。
盗賊はダリモに乗ったまま俺に近付いてくる。俺のことを見下しているのか、警戒している様子は全くない。
盗賊は俺の目の前にダリモを止めて、ダリモ上から右手に持った刀を俺に向かって振り下ろした!
安定感の悪いダリモ上からの『斬り下ろし攻撃』は、スピードも剣筋も大したことはなかった。俺は刀を難なく躱して懐に潜り、ダリモの胸を軽く棍で突き上げる。
ダリモは後ろに飛ばされる格好になり、乗っていた盗賊は完全にバランスを崩して地面に投げ出された。そして、驚いたダリモはパニック状態になったのか、全速力で走り出した。
盗賊は運の悪いことに手綱が足に絡まり、ダリモに引き摺られながらどこかへ去っていってしまった。
まあ、落ちる瞬間に手綱を足に絡まらせたのは俺だけどな!
ダリモの手綱、長いんだよ!
足に引っ掛けるのに、ちょうど良さそうな位置まで伸びていたら、思わず絡ませたくなるよな。
下は砂地だし、運が良ければ死にはしないだろう。
因みに、最初に商人のおっさんに斬りかかろうとした盗賊のときも、俺が同じようにダリモを棍で横から突き飛ばして驚かせ、バランスを崩した盗賊が地面に落下。
盗賊は運悪く手綱が足に絡まり、ダリモに引き摺られながらどこかへ消えていった。
勿論、手綱を足に絡まらせたのは俺だけどな!
下は砂地だし、運が良ければ死んではいないだろう。
俺は、商人のおっさんに指示する。
「中に、入ろうよ? 私が、連中を、きれいに、するかも?(中に入ってろ! 俺が奴らを片付けておく)」
《今度は、うまく言えたか?》
《惜しいです。もう少し発音と抑揚が正しければ、ばっちりでした》
それでも、商人のおっさんは分かってくれたようだ。
「え? 私共は、大鳥車の中に隠れておればよろしいのでしょうか?
分かりました…… あなたに命をお預けします! もし助かったなら、存分にお礼をさせていただきます!」
俺は頷く。物分かりのいいおっさんで助かる。
……
俺の視界の中にいる盗賊は8人。
2人足りないのは、引き摺られていった仲間を追いかけていったからだ。
今、盗賊共の目的が、完全に『俺の命』に変わっているのがわかる。大鳥車には目もくれず、全員が俺の逃げ道を塞ごうとしている。
勿論、俺は逃げる気なんか全くないし、この状況は俺にとっても好都合だ。
まずは、3人だけが迫ってくる。仲間が2人やられたことで相当怒っているようで、血走った目で俺を睨んでいる。
しかし、いきなり飛びかかってくるような馬鹿はいないようだ。
2人の『やられ方』を見ていたから、流石に警戒してダリモから下りて刀を構える。
俺としては、むしろ全員一斉にかかってきてくれた方が、同時に片付けられて良かったんだけどな。
後ろにいる奴ら、頼むから逃げないでくれよ。追いかけるの面倒だからな。
「てめぇ、舐めたマネしやがって! 俺達【ゲルナの疾風団】に楯突いたことを後悔させてやる!」
「地獄の苦しみを味わって死ね!」
「バラバラに切り刻んで、アリザットの餌にしてやる!」
しっかり俺に聞こえてくる3人分の声。
タマの特技、ハンパねぇ!
俺は自然とニヤケてしまう。
盗賊3人は、馬鹿にされたと思ったのだろう。俺への殺気が強くなる。そして、2人が左右に分かれ、3人で俺を囲む形を取った。
俺は一応棍を構え臨戦態勢を取る。
俺は右手で棍の中央を持ち、正面の奴に棍の先を向け、
俺との距離をじりじりと詰めてくる3人の盗賊。
4m位の距離になったとき、正面の奴が俺の周りをゆっくりと反時計回りに移動しはじめる。左右の奴らも同じように移動し、陣形を崩さないような位置を取る。
俺は目だけを動かし、相手の出方を窺う。
右側の奴が、俺に斬りかかろうと前へ出る! と同時に左後ろの奴も前に出る。
俺の意識を右に向けさせ、死角から仲間が襲う!
なかなか悪くない連携だが、俺には通用しない。
俺は振り向きもせずに、棍の後方で後ろの地面を強く突き、左後ろの奴が斬りかかろうとした手前の地面を爆散させる。
砂が飛び散り、左後ろの奴は一瞬で視界を奪われた状態になり、動きが止まった。
右側の奴も、驚きで動きが一瞬固まる。
それは当然致命的な隙となり、次の瞬間―― 右側の奴は前のめりに蹲って動かなくなっていた。
そして、左後ろの砂煙が晴れたときには、左後ろの奴も右側の奴と同じように、前のめりに蹲っている。
残りの1人は、何が起こったのか全く見えていなかった様子で、呆然としている。
当然、隙だらけの状態を俺は見逃してあげない。
次の瞬間には、そいつも前のめりに蹲って動かなくなった。
あっけなく戦闘終了!
《それにしても、『えげつない』攻撃ですね…… アレは、男性には可哀そうすぎる気がします》
ほお。タマには今の攻撃が分かったのか。
俺の攻撃は、棍で『男の大事なところ』を寸分違わず一瞬で突き抜いただけだ。
3人とも、口から泡を吹いて倒れている。
偉そうな口を利いてたから、ちょっと苛めてやった。
一応手加減したから死んではいないだろうが、今後使い物にならなくなったかもな。
さて、残りの奴らはどうでるかな?
残りの盗賊5人が近付いてくる。さっきの3人の比じゃないくらい怒っている。
しかもこいつら―― さっきの3人よりも強いな!
特にボスらしい奴は、頭ひとつ抜けているのが歩き方でわかる。
気絶している盗賊共が邪魔なんで、俺は少し横に移動して戦う場所を変える。
盗賊共は、俺の手前5mくらいのところで立ち止まり、そして、ボスらしい奴が手下共に何か言った。
「■〇×▲ $%#*……」
何言ってるか、全然わからねぇ……
《おい、タマ! あいつなんて言った? 言葉が分からないぞ》
《彰人様に対しての発言ではなかったので、通訳しませんでしたが、したほうが良かったでしょうか?》
なるほど。そういう基準なのか。
《すまんが、暫くは奴らの会話、全部通訳して教えてくれ》
《わかりました! ちなみに先ほど、あの男が言ったのは、
『お前ら、見てくれに騙されるなよ! あのクソ野郎―― ふざけた格好しているが、正騎士クラスの実力があると思え!』
です》
『ふざけた格好』か……
確かにその通りかもしれない。俺は道着のままでエシューゼに来てしまった。しかも、サンダル履いてるし……
でもな、この道着は『研究所製』で、見た目はありふれた道着だけど、びっくりするほど高価なんだぞ!
それにしても―― こんな盗賊をしている『人としてどうしようもないクズ』に、クソ野郎呼ばわりされて服装をディスられるとは……
なんか、ムカついてきた!
「お前ら、抜かるなよ!」
ボスの掛け声で、手下4人が刀を構える。刀はやっぱり刀身の太い湾曲タイプだ。
ボスは両手に刀を持つスタイル―― こいつの刀は手下の使っているのとは形が違い、刀身が細身で大きくカーブして円形に近い。
俺の正面にボスが立ち、手下4人は俺を囲むように左右に展開する。人数は違うが、さっきの3人と同じ戦法だ。
ただ、間合いは5mきっちり取って、俺の棍の届かない位置をキープしている。
棍の長さ(220cm)に、腕と肩と踏込の分を入れて、俺の間合いは最大4mくらいと見なしているようだ。
しかし、これでは相手も攻撃できない。
さて、どうするつもりだ?
と思っていると、左右の2人が俺に向かって同時に刀を投げてきた!
俺は軽くバックステップして、飛んできた刀を躱す。
当たらなかった刀は、軌道上に移動した盗賊2人がお互いにキャッチする。
すかさず、別の2人が俺に向かって刀を投げる。
俺はその刀も最小限の脚捌きで躱す。
軌道上に移動した2人が刀をキャッチし、別の2人が刀を投げる。
初めは俺の周りをゆっくりと移動しながら行っていたのが、4人が俺の周りを移動する速度も、刀を投げる間隔もどんどん速くなってくる。
移動しながら飛んで来る刀を受ける技術も然ることながら、刀同士がぶつからないように微妙にタイミングをずらして投げる技術もなかなかのものだ。
しかし、奴らの攻撃は単調で、躱すことは難しくない。今のこいつらの攻撃からは、俺を『殺す』という意思がほとんど感じられず、どちらかというと俺の動きを制限させるための『牽制』という感じだ。
ほとんど4本の刀が休むことなく飛び交う状況で、それでも俺は刀の軌道を読んで最小限の脚捌きと上体の動きだけで躱し続ける。
ボスは戦闘開始と同時に少し下がって距離を取り、ずっと俺の動きを観察している。
そろそろ、何か仕掛けてきそうだな。
突然、ボスが動いた! ボスは右手の刀を俺に向かって投げた!
手下共の刀が俺の周りを高速で飛んでいて、俺は360度どの方向にも逃げ場なし!
仕方ない……
俺はジャンプして上空に避ける。
しかし! その位置にも大きく弧を描いて飛んでくる刀が!
ボスは左手の刀も同時に投げていたのだ。それも、俺の避ける位置を読んで時間差で襲うように!
今度こそ逃げ場なし! と思いきや!
「なにっ!?」
驚きの声を発する盗賊共。何事もなかったかのように着地する俺。
別に、大したことをしたわけでもなんでもない。
ただ空中で軽く棍を振って、飛んできた刀を弾き飛ばし、その弾いた刀を、ボスが最初に投げた刀(ブーメランのように軌道を変えて俺の背中に向かっていた)にぶつけて弾かせ、その弾いた2本の刀で、俺の周りを飛んでいた4本の刀まで弾き飛ばした。
それだけのことだ。
そして、弾かれた刀は全て盗賊共の足元の地面に刺さっている。
盗賊共はそれなりに高い技量を使っていただけに、今の攻撃があっさり防がれるとは思いもしていなかったのだろう。そして、刀が足元に戻っていることにも驚愕している。
盗賊共も戦闘に関して素人でないから、それが『偶然』に起きたことなのか『そうでない』のかは、すぐに気付いたようだ。
「信じられねぇが、正騎士どころか騎士団長クラスか……」
「どうします? お頭?」
「仕方ねぇ……『アレ』を使うぞ。すぐ用意しろ」
「へい! すぐに火を準備します」
俺は、思わず苦笑いを浮かべる。
それにしてもタマ…… あいつらの『ひそひそ話』まで教えてくれるのね。
タマは、普通では聞こえない大きさの声まで、認識できる大きさの声で再現してくれている。あいつらの会話を、『全部通訳してくれ』と頼んだのは俺だけど、ちょっとだけ相手に悪い気がしてきた。
足元に刺さった刀を拾い上げ、盗賊共は再び構えを取る。
とはいえ、さっきまでの威勢の良さは消え去り、緊張した面持ちに変わっている。
それでも、逃げずに向かってくるのは、まだ勝算が残っているからか。
悪いな…… お前らの作戦、全部筒抜けなんだよな。
ボスの目配せで、手下の1人が火の点いた黒い塊を投げた。
その黒い塊が手下の手を離れた瞬間、それは何故か真上に弾かれた!
盗賊共は一斉に上を向いて呆けた表情に変わる。そして――
ドカーーン!!
黒い塊の真下にいた手下と、近くにいた手下は、その衝撃により戦闘不能に。
呆然としていた残り2人の手下も、正気を取り戻す前に戦闘不能にする。
残るはボスのみ!
「な、な、なんで?」
ボスが、呆然自失で俺を見ている。
どうやら、俺に作戦が読まれたことが理解できないようだ。
それもそうか。
タマに聞いたところ、『爆弾』はエシューゼではまだほとんど知られていない秘密兵器らしいからな。こいつらの作戦では、爆弾で俺を仕留めるつもりだった。仮に殺せなくても、戦闘不能にはできると踏んでいたようだ。
でも、タマの通訳で、お前らの作戦は筒抜けでした!
はっきり言って『
作戦知らなくても、爆弾くらいは簡単に対処できたけど、知ってたから利用させていただきました!
手下が爆弾を投げた瞬間、俺は棍で足元の石を打ち飛ばして爆弾に命中させた。
石に弾かれて爆弾は真上に撥ね上がり、そして爆発!
爆発に巻き込まれた2人は戦闘不能に! でも、どうにか生きているようだ。なかなかしぶとい。
他の2人は、呆然としているところを『男の大事なアレ』を棍で突いて卒倒させた。
「ち、ちくしょう…… 今月の俺の運勢、最高だと占いに出てたのに……」
ボスは涙目で泣き言を吐く。
『占い』ねぇ…… こういう連中ほど、運勢とかジンクスに拘ったりするんだよな。
尤も、今日で盗賊から足を洗えるんだから、『最高』と言えなくもないだろう。
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