ラッシュ:27日目
「じゃあな…、ソウ。」
おれは本当の最後の一戦を終え、ソウに別れの言葉を告げる。最後の一戦。とは言ったもののほぼ援軍にきたルークにぃの瞬殺で幕を閉じた。時間の猶予がなかったためとは言え、余りにも余りな戦いだった。と言うのも閻魔大王が間違えて2人をこちらに連れてきてしまったことに端を発する今回の騒動、通常の転生とは違い元の世界にもまだ体が残っている若干イレギュラーなケースらしい。そのため今回の勝負が引き分け、相打ちに終わったのなら魂の容れ物となる身体は元の世界にしかないのだから2人とも元の世界に戻すしかなくなるということだ。と、ルークにぃとラグさんが言っていた。2人の話によると閻魔大王は適当な奴らしく、そんなすぐに元の世界の身体を殺すなんてことはしないだろうから、多分大丈夫とのことだ。ただこの画策のせいで閻魔大王は再び魂をこちらの世界に1つ持って来る仕事が増えてしまうのだが、適当な仕事をして2つもこちらの世界に魂を連れてきてしまった閻魔大王の自業自得とのことだ。なんにしろこれで2人とも元の世界に戻れたのだ。めでたし、めでたし、、、
「なぁ、これで良かったんだよな、、、」
「ん?やっぱり少し寂しーいー?ま!これで良かっただよ!2人にとっては戻るべき世界だし、戻りたかった世界の筈なんだからね。」
隣で幼女の皮を被ったルークにぃが無邪気に笑う。楽しそうだな、ほんと。ただそれも小さくこぼれ落ちた「俺たちとは違って…」という呟きを無視すればの話ではあるが。おれ達は…、昔を思い出してもいい記憶なんて殆ど見つからない。この世界に来るまで安らぎなんて言葉の意味はよく分からなかった。自然と流れた沈黙に、ラグさんがコホンと小さく咳払いをする。
「ルーイ、感傷に浸っている所、悪いのだが…」
「あっ!そうだね!忘れてた!ありがと、ラグ!」
ルークにぃは顔をパチンと叩いて立ち上がると、ダンジョンの奥へと一人静かに向かうダンジョンの眷属のネームドモンスター『クロ』の所へ駆けていき、ガバッと抱き上げる。
「捕まえた〜!あなたがクロでいいのよねっ!?」
「にゃにゃっ?!ちょ、何するにゃ!」
急に抱き上げられたクロは驚いて抗議の声を上げるがルークにぃは構わずにクロを撫でくり回す。これでもかと撫で回すルークにぃに、だがどこか慣れた様子のクロは観念し、不満を漏らす。
「にゃー…、最後くらいで一人で静かにいたかったにゃ…」
それもそうか。このクロに、先程まで戦っていた他の眷属も、ここのダンジョンマスターだったソウの幼なじみがいなくなった今、そのマナで構成されるコイツらは消えてなくなる。コイツらの主人を生き返らせてやるためとは言え、コイツらはその犠牲になるのだ。その言葉にルークにぃは両手を伸ばすようにしてクロを抱き直し、顔の正面に持ってくるとじっとその瞳を見つめる。
「これで最後じゃないよ…?ふふん!わたし達にはね!なんと、秘策があるのだ〜!」
自信満々に胸を張り、エッヘンと言うルークにぃにクロはキョトンとする。
「あのね!クロ達はね、今のままのマナの身体だと消えちゃうからわたしのスキルで新しい身体を再構成してあげれば、消えずにすむんだよ!あ、でもちょっとだけ痛いから我慢してね?」
満面の笑み。ルークにぃのその笑みが意味するのは間違いなく、ちょっと所じゃなく痛いのだろうな。だが哀れかな、このクロは恐らくルークにぃの正体を知らない。
「ほ、ほんとかにゃっ?!助かるのかにゃっ!?にゃ、にゃら!他のみんな!他のみんなはどうなるにゃっ!もうダンジョンコアは消えて…」
「安心したまえ、クロくん。ダンジョンコアが消滅した折に、他の眷属達の魂は消滅するまえに『セフィロト・ケージ』にてちゃんと保護しているとも。」
ラグさんはそう言うとパチンと指を鳴らし、セフィロトを顕現させる。丸く蔦が絡みあったような檻の中にいくつか光の玉がふよふよと浮かんでいる。あれがきっと眷属の魂なのだろう。
「にゃにゃにゃっ?!!す、すごい。これは凄いにゃ!ありがとう、ありがとうなのにゃ!」
クロは身体をクルっと捻り、ルークにぃの手からスルりと抜けると生命樹の檻の元まで来てその中を眺める。『叡智の魔猫』、というからにはおれなんかよりもよっぽとその檻の中の光が何かを理解し、感じ取っているのだろう。その目には涙が浮かんでいた。
「では、準備はいいかな、クロくん?まずは君から、新しい身体を錬成していこう。」
「大丈夫にゃ。よろしくお願いするにゃ!」
ラグさんの言葉にクロは嬉しそうに振り向き深く頷く。
「準備は良さそうだね。それじゃあとりあえず、今からの手順の説明といこう。まずはおれが『ユグドラシル・オリジン』でマナを初めに、身体の構成に必要な四元素を、周囲から剥離、精製し収集する。それを元にルーイが身体を錬成、そこにクロくんの魂を混ぜ込めば完了だ。ただ最後の過程では、クロくんの純粋な魂だけを混ぜないとならない。そのためクロくん、君には一度死んでもらう。いや、肉体の一片も残さないために死ぬよりも酷い目にあってもらう。」
「え?今なんて言ったにゃ…?」
クロの顔からサッと血の気が引く。ここに来てやっと自身の身に差し迫る危機に気付いたようだが、まあご愁傷様って所だ。
「なるべくサクッと済ませるから我慢してね〜。じゃ、行っくよ〜!」
可愛らしくそんな物騒なことを言うルークにぃの手から構えられているのはきっとルークにぃの本気の火力スキル。真っ黒に渦巻く炎のような、もう理解の範疇を超えたそれの威圧感は、本当に塵一つ残さないといったルークにぃの意気込みというか、ぶっちゃけ殺意と共に、クロに襲いかかり、完全に恐怖からクロを一歩も動けなく、というか逃げ出せなくしていた。
「にゃにゃ…、流石にそんなの聞いてないにゃ…。う、嘘だよにゃ…?ま、まだ心の準備が、待つにゃ!!それは絶句ヤバイにゃ!にゃあああ!嫌だにゃああああああああぁぁぁ!!!!」
それは、断末魔と呼ぶに相応しかった。
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