ダンジョンマスター:27日目
「クロ!!」
私は未だ煙が立ち込めるダンジョンの中を走ってクロの元へと向かう。煙で辺りがよく分からなくともダンジョンマスターの私はコアの情報から見つけ出すことができる。横たわっていたクロに駆け寄り、抱き上げてやる。全身をぐったりとさせ動けないクロであったが意識はハッキリしている。
「にゃっ!ご主人!ダメにゃ!これは罠…にゃ…、ご主人?」
私に気付いたクロが慌てて制止する。だってそのままダメージを受けて倒されていた筈の自分が何故か倒されずに状態異常にかかり動けなくなっているのだから。でも私は首を振る。もういいのだ。だって頼みの綱のクロが戦えなくなったのだもの、もう頑張っても勝機は見つからなかった。
「お疲れ様クロ。もう私たちの負けだよ…。」
自然と頬に涙が伝っているのがわかる。それとは別に体にはもう力が入らなくなってきていた。私は状態異常にかかっていた。どんどん体には力が入らなくなるし、手足は少しだけ痺れてきていた。今はうっすらとだが吐き気もしてきている。毒に麻痺にと多重に襲いかかる状態異常も全て、この不自然な程にダンジョンに広がる煙玉の煙せいだ。さっきの攻撃はこっちが本命だったのだ。さっきの戦い、そーちゃんの言っていたスキルでも勝負が着いたのだろうが、そーちゃんはきっとそんなことはしない。多分勝った気がしないからとかそんな理由で。そしてそーちゃんはクロを騙して意識を逸らし、状態異常を与える煙を浴びせかけたのだろう。私はキッと歩みよってくる人影を睨みつける。
「あちゃ〜、やっぱこれもバレてたか。綾自身が敵だったら負けてたな、こりゃ。だが!おれ達の勝ちだ、綾!」
いつもの…、そう、昔のように、笑うそーちゃんがそこにはいた。私はただただ静かに肩を震わせる。
「…なんでよ。」
あぁ。やっぱりダメそうだ。もう、溢れてくる感情が止められない。だって、なんでなのか。なんで、なんで、なんで、なんで、なんでっ…!!
「なんでなのよっ!!私が死ねば良かっただけなのに!!なんで!!なんでそーちゃんが犠牲にならなきゃいけないのよっ!!」
怒りも、悲しみも、愛情も、無力感も、ゴチャゴチャになった感情を全てぶちまける。始まりは…、あの日、私がトラックに轢かれた時。その時、そーちゃんを巻き込んだ。1人で来る筈だった異世界にそーちゃんを連れて来てしまった。そして、男は、閻魔大王は言っていた。「間違えた」と。そして「この異世界に生きる権利を巡って争え」と。ただそれだけなら私は喜んでその権利をそーちゃんに譲る。違う。この戦いはそうじゃない。その後の閻魔大王の言葉が重要なのだ。「期限は1ヶ月。それ以上はワシの力でもお前達の肉体を魂無しでは保っておけんのでな…!!」。最初はこの異世界で2人を1ヶ月以上は生かしておくことが出来ないのかとも思ったが、そうではない。何故なら、今この体には魂がある。では魂の無い肉体とはなんなのか?簡単だ。きっと、私たちが元いた世界の体には魂が無くなっていて眠っているのだろう。そしてそれを生かしておけないから1ヶ月以内に決着を着けろとは、負けた方を元の世界に戻してやれなくなるから、早くしろと、そういうことだ。だって戻すつもりがないのなら死んでしまっていても問題がない筈だから。つまりこの戦いは…
「なんで…、そーちゃんが勝つのよ…。私のせいなんだから、そーちゃんが生き返ればいいじゃない…。」
「んなの決まってんだろ。死んでも救いたかった奴を、今度こそ本当に救えるチャンスなんだ。逃すわけねぇだろ」
そーちゃんが少しだけ顔を赤くして頬をかく。知ってる。そんなこと知ってる。そーちゃんがいつだって優しくて、私のヒーローで…、でも!だからって今回は訳が違うっ!
「バカ、バカ、バカ!そーちゃんのバカぁ…!うっ…うっ…、、、」
でも、それでもそーちゃんはきっと、私を助けてしまう。私にはもう何も出来ない。ただ泣くことしか出来ない。
「まぁ泣くなよ、綾。意外とこの世界だって楽しんだぞ?まあラッシュとか言う相方には不満はあるが、ラグさんとかルーイとか家族みたいなもんだし…」
「嘘よ、バカ…。本当の家族に会いたいから、そんなこと…言うんでしょ…」
「ハハハ、、、なんだよ。そこまでお見通しかよ…、悪ぃな綾。それでもおれはお前に生きて欲しい。」
あぁもぅ、何よそれ…。ズルいじゃない。私だって、まだまだ文句を言ってやりたいのに、口が…、動かなかなってきた…。目も霞んできたし、時間が残ってないのか…。頭もボーっとするし、色々伝えたいことはあるのに、なんて言えばいいのか分からないや…。
「ねぇ…、そーちゃん。ありがと…、好きだよ…、、、」
「あぁ…、お…もだ…、…や…」
……
…………
…あれ?なんだっけ…。
なんだか、今…温かい気持ちがするのだけど…、なにが…あったんだっけ…。
はっきりとしない意識の中、私は身体を起こそうとする。すると脇腹に痛みが走る。なんだか身体もやけに重たい。隣から聞きなれた甲高くてうるさい声が聞こえる
「あ、あああ、綾!!」
未だボーっする頭で、ベッドの私に突然抱きついてきた、そのポニーテールを抱きとめる。私は泣きじゃくっていたのであろう顔を押し付けてくるサツキの頭を撫でる。そのサツキの横にはもう1人が声をかけてくる。
「全く、トラックに轢かれたとか言うからビックリしたじゃない。本当、無事で良かったわ。」
ああ、カナも来てたのね。うっすらとクマが出来ている辺りちゃんと眠れなかったのだろう。きっと事故に遭ってから昏睡していた私を心配してくれてたのだろう。
「ねぇ…、私…、どれくらい寝てたの…?」
「はぁ…、全く。3日よ、3日!!寝坊に居眠り常習犯のあんたでもいくらなんでも寝すぎよ!!」
いつものように冗談を言うカナだけど、いつもより凄く疲れているようにも見えた。まあ私も私で3日も寝てたのか…。
あれ?3日…?
もっと、長かったような…?あれ、私は確か、トラックに轢かれて、それから…、それから?確か、それからがあったはずだ!徐々に頭にかかっていたモヤが取れていく。そう、確か、それから異世界に行って、クロ達を召喚して、ダンジョンを運営して、そーちゃん達と戦って…!!
「そーちゃん!そーちゃんはどこっ?!」
私はハッとしてカナに掴みかかるようにして問い詰める。突然のことにカナを驚いてヒッと両手を小さく上げる。
「ぁ…、えと…、佐々木ね。佐々木なら確か隣の病室よ…。まだ佐々木も目を覚ましてなくて…」
私はもうカナの話を聞いていなかった。そして身体が痛いのも無視して、ベッドから勢いよく飛び出して、廊下にでる。辺りを見渡すとナースのお姉さんが驚いた顔で私を見つめるが気にしない。すぐに隣の病室のネームプレートを確認すると「佐々木 奏」と書かれている。ここだ。私はバンと思いっきりドアをあける。そして病室の中を見渡して、言葉を失う。心電図の単調な音だけが聞こえた。
ピーーーーーーーー
「うおっ、ビックリした…」
そこにはビクッと肩を竦めるそーちゃんが立っていた。手には心電図のパッドとか握られている辺り無理やり引き剥がしたのだろう。
「な、なんでそーちゃんが生きてるのよ…、」
「聞くな。おれだって恥ずかしいんだ」
口を真一文字に結んで、そーちゃんはそんなことを言ってきた。その様子に私は首を傾げる。よく分からなかった私が答えを待っていると、そーちゃんは観念し、苦虫を噛み潰したように言った。
「まあ、その、なんだ…?あの後すぐにラッシュに殺されたんだよ。で、気付いたらここにいた。」
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