クロ27日目
冒険者一行の迎撃に備えダンジョン内が慌ただしくて落ち着きがない。迎え撃つ冒険者たちはもちろんご主人の仇敵ソウとラッシュの2人組にゃ。まあ、恨みつらみがあるわけじゃないからほんとは好敵手ぐらいがぴったりだにゃ。そんな彼らがこのダンジョンへ再来したのは数十分前、ダンジョンの入口を見張っていた『シノビリス』の警備チームから伝令があった。以前までの彼らのダンジョン攻略ペースからみて、この決戦のために用意したエリアにもうすぐ到着する頃だにゃ。もう準備することにゃんてない筈なのだけど、この落ち着きのにゃさはきっと皆強くなったと言ってもまだまだ経験が足りないって証拠かにゃ。僕と一緒にダンジョンの様子を眺めているハーゼさんもヤレヤレと首を振る。まあほんとは
だから、今この部屋にやってきたソウ達冒険者は「なんだこの部屋?」「物置か?」なんて油断しているけど、こちらからは丸見えなんだにゃ。まずは作戦通り不意打ちを仕掛けるにゃ。素早く『隠密の遣い』の指揮の元に『シノビリス』の部隊が静かに散開し、一斉に闇の加護を纏った『魔槍』を投げる。360°、全方位から回避することを許さずに不意に襲いかかる筈だった槍は、しかし不自然に速度を失い、空中に静止する。
「どうやら、ここで正解だったみたいだな、ラッシュ。なにか見えるか?」
「いや、無理だ。これはただの暗闇じゃねぇな。『鷹の洞察』でもダメだ。闇魔法の結界ってとこか。ソウ、感知頼むぜ?」
不意打ち失敗…、というよりもあれは何にゃ…?
「忍者さん、いるかにゃ?一体何があったんだにゃ…?」
「はっ、ここに。」
ぼくの声に応え、『隠密の遣い』がシュッと姿を表すにゃ。
「恐らくは敵の感知兼罠スキルに引っかかったものかと。陽炎の術にて隠蔽されている上、彼ら自体のマナも揺らがされているため、攻撃の予兆も分かりづらく、無理に接近を試みればあのスキルの餌食になってしまうものかと。」
「やっぱりそういうことかにゃ。それに少しずつだけど、周囲のマナを吸収してるみたいなんだにゃ。これは長期戦になると不味いかもだから、短期決戦のプランBに移行してもう″アレ″をやるにゃ。ブラン達の騎士隊に準備するように伝達お願いにゃ。」
「は!承知!」
そう言うと忍者さんは闇に溶けていくようにその場を後にする。隣でそのやり取りを眺めていたハーゼさんが、ゆっくりと腰をあげて声を張り上げる。
「おぅ、てめら!ここからが本番だ!気ぃ引き締めろ!!」
そしてハーゼさんが「おらぁっ!」と踏みしめた地面は大きく亀裂が走り、ダンジョンの床が砕ける。ハーゼさんのスキル『裂衝』だにゃ。勿論ぼくたちの作戦『プランB』はこれだけで終わりではないにゃ。まだ大地の震えが止みもしないうちから今度はルーシュとレースが続く。揺れる大地に舞い踊るように姿を表した金と銀の一対の狐達はスキルを行使して更なる震えを引き起こす。太陽を司る眷属モンスター、『焔九尾』のルーシュは、その熱を支配する権能で地下の岩をマグマに変えて、常世全ての流体を司るレースがそのマグマをコントロールし、地面から全てを呑み込む深紅が飛び出して、ぼくのスキル『魔天』の下で妖しく輝く。これがプランB、皆で強力して発動する結界スキル『摩天楼』を展開し、勝負かける作戦だにゃ。真っ赤な蛇のように唸りをあげるマグマが冒険者の2人に襲いかかる。だけど、攻撃が当たるよりも早く2人はぴょんと高く飛び上がり、避けてしまう。まあここまでは想定通りにゃ。でもこの結界の天を掻くという異名もまた伊達じゃないのにゃ。レースがマグマを水刃のように鋭く撃ち払い、そこからルーシュが熱を奪い、鋭利な岩石の刃が空中の身動きがとれない2人に追撃を仕掛ける。絶対当たる筈だった攻撃は、でもまたも不自然に何かに引っ張られた2人に避けられてしまう。きっとどっちかの展開してるスキルかにゃ…。むー、『魔天』との重ねがけはマナの消耗が激しいんだけど、やっぱり使わないと不味いかにゃ…。
「『深淵の加護』にゃ!」
『魔天』の上から更にルーンの加護を重ねて、虚空にルーンを刻んでいくにゃ。
そんな風に色々とルーンを刻み加護を付与し終わり、一息つくと改めて戦場を眺める。今ぼくのマナは大体半分くらい使った所で、
ふぅむ。そろそろ相手が仕掛けてきて、最終局面に突入って感じかにゃ…。
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