勇者:20日目


「おおう、なんだこれ?」


隣でラッシュが思わずそんなことを漏らす。なんだこれってそんなもの見れば分かるだろう。城壁だ。そうダンジョンの中に城壁があるのだ。地下の空間にバカでかい、それこそ東京ドーム何個分とかそういう表現が似合いそうな程のエリアが広がり、その半分がそれで仕切られている。つまりは「ダンジョンに潜入できる、いやダンジョン内で統率がとれる程度の人数で、城を攻め落としてみろ」と。全く、無茶な話だ。上級魔法を何発か撃てるように最高級エリクサーを沢山用意し、ゴリ押しで楽勝!とかいう算段はどうにも甘かったわけだ。


昨日のコロシアムで行われたラッシュとの一騎打ち、それはおれの華々しい見事な勝利で幕を下ろした。そしてその戦いは中々に好評を博し、結構な額の報酬金を貰って、その金をエリクサーに注ぎ込み、今日再び綾のダンジョンの攻略を試みていると言ったところだ。コロシアムでは随分とちやほやされていたおれ達は、まあなんというか図に乗っていたかもしれない。対等な戦いを行うコロシアムとはそもそもから違う、互いに置かれた状況が、それぞれが持つアドバンテージが違う。向こうは圧倒的な地形的アドバンテージを持っているのに対しこちら、ダンジョンの潜入側が一般にとれるアドバンテージは攻略対象やタイミングの選択とかそういうものだろうか。だがおれたちの置かれた状況は、綾のダンジョンを1ヶ月以内に攻略をしなければならない。つまりはそんなアドバンテージは殆ど無いのだ。だから歴然とそびえるアドバンテージの差、城壁を改めて眺める。防衛つったらやっぱり城壁だよなぁ…。防壁ってより防波堤、いやここは防魔堤とでも言うべきだろうか?ただ言えることは、あれは絶対に分厚い。こちらが持つ攻城兵器とでもいうべきものへの対策だろうな。でも、無駄な気がしてもそれでも、なんとなく撃ってみたい。スカッとしたい。


「なぁおい、ラッシュ…」


「あぁ…」


すぅ…


「『ブラストノヴァ』!!!」

「『エアリアルレイジ』!!!」


ズドーン!


オラアアア!やはりここは安定の開幕上級魔法。腹の奥底に響く重低音が気持ち良い。やはり上級魔法を撃ち込むのは気分爽快だ。だが撃ち込む相手が悪い。しゅうううという土煙と2つのクレーター程度じゃ物足りない。やはりこう城壁が瓦解してくれないと…


「皆さん今です!出撃!!上級魔法を使った今なら魔力切れの筈です!回復される前に攻勢を!」


あ、やっば。城壁の向こうから弓矢が放たれて降り注いでくる。そこまで数は多くないものの、風を纏った矢ならば弾幕として充分だ。それもラッシュように雑で乱暴な嵐のような風ではなく、こう、一糸乱れず面として襲ってくるような風だ。…。ふっ、やらかしたな。


「引くぞソウ!!『風走り』!!!」


ラッシュは『風の加護』を纏うと、おれの首根っこを掴み、弾幕の勢力圏を脱する。しかし殴りつけるように地面を襲った風はそのエネルギーを拡散させ地を這う。なんか敷布団とかを倒した時のバフンっ!ってなるやつ。あんな感じの風が大地を疾駆する。まあそれに巻き込まれる蟻みたいな虫とかはこんな気分だろうなあ。風はそのままおれ達を巻き込んで吹き荒ぶ。


「ぐっ…そ…!『灼炎の加護:陽炎ノ型』!!!」


風が巻き起こした砂塵が引く前に、残り少ない魔力で目くらましの加護を発動させ、エリクサー使用のための時間を稼ぐ。すぐさまラッシュは最高級エリクサーをおれに振りかけ、自分用のものを取り出そうとするが、突如視界が奪われる。


「な…!煙幕!!!」


突然のことで対応が遅れ、来るであろう攻撃に備えるが、自分一人の身を守るので精一杯だ。ラッシュのカバーまでは出来そうもない。


「失礼致す!」


「ぐあっ!」


白い煙の中を一瞬、影のようなものが駆け、クルリと舞ったかと思うと強烈な回し蹴りを繰り出し、ラッシュが吹き飛ばされる。ラッシュの様子が気になるが、すぐに『気配予知』が攻撃の気配を報せてくる。


「くそっ!『灼炎の加護』『フレイムスラッシュ』!!!」


素早く目くらましに使っていた加護を剣に纏わせて、炎の渦で煙幕ごと薙ぎ払う。影が払いきれなかった煙幕の中へ逃げ込み撤退したのを確認するとおれはすぐにラッシュのそばに駆け寄り、剣を構え警戒したまま様子を確認する。無論そこまでのダメージではない筈だ。ラッシュもすぐに立ち上がり、エリクサーとポーションを使用する。そして眼前では煙幕が晴れ始め、潜んでいた影が姿を現す。漆黒を纏ったような黒い毛並みのリス、シノビリス…、ではないな。これは…


「『隠密の遣い』…!また新たな眷属でも召喚しやがったか」


「否。拙者は新たに召喚されてなどいませぬよ。」


「はんっ!敵の疑問に丁寧に答えるとは随分と律儀な奴だな」


「この命…、見逃して頂いた恩人に礼を欠くわけにはいきますまい。」


「ん?あー、そういうことか。お前はこの前のシノビリスか!」


「如何にも。然して恩人と言えども加減は致しませぬ。どうかお覚悟を…!」


刹那、影が揺らめいた。だが『気配予知』へとスキルを進化させたおれは、素早く左へ跳んだ影を見逃さない。そしてそのまま一直線にこちらへと突っ込んでくる。


「ラッシュ、来るぞ!左だ!!」


「おう!わかってるぜ、ソウ!おれも見えてる!」


…。おれも見えてる…??ふと違和感が首をもたげた。おれもラッシュも隠密の遣いを捉えられている?何故…?何故ラッシュまでもが隠密の遣いの『潜伏』と『縮地』の合わせ技に対応できる??ラッシュの『鷹の目』などの『看破』系のスキルは索敵には優れても、撒かれる。一瞬の目くらましといったスキルには致命的に相性が悪い筈だ。動物としての本能か、それとも攻撃感知に多用してきた気配予知のおかげか、兎に角何かが警鐘を鳴らす。


「ラッシュ、違う!上だ!!躱せぇ!!」


「なに…?!くっ、…、」


ラッシュに叫びかけながら横に弾けるように回避した直後、ついさっきまでいた場所に槍の雨が降りしきる。間一髪だった。不穏な空気を感じて気配予知の効果範囲を広くした瞬間、上空からの攻撃の気配を察知したのだ。だがこれで敵の攻撃が終わったわけではない。陽動役であった隠密の遣いがそのまま攻勢へと転じ、回避の隙を狙ってくる。


「させるか!『炎の加護』!!!」


おれは炎の壁を作り出し隠密の遣いの進路を阻む。潜伏などからの奇襲が得意な隠密の遣いにはこういう単純な防壁がかなり効果的だ。おかげで少しばかりだろうが敵の攻撃の手が止む。


「ソウ!反撃に出るぞ!上から攻める!加護を頼む!いくぜっ、『龍走り』!」


「おうよ、任せろ!『灼炎の加護』!!!」


すぐさま反撃に転じ、嵐を蹴りつけ飛び立つラッシュの矢におれは陽炎の如き揺らめく炎を纏わせる。炎での威力の高い攻撃を風の力で広範囲に及ぼすことができるコンボ攻撃だ。空高く舞い上がったラッシュが矢を番え、いつの間にか宙を舞っていた『鼻歌鳥』とそれに跨る『兵隊イタチ』達に狙いを定める。しかしその矢が放たれるより先に、白い影が空を駆ける。正確には鼻歌鳥の背中を素早く飛び移り、ラッシュに襲いかかる白い一筋の影。


「させませんよっ!!」


一閃。空を裂くように細剣が高く振り抜かれる。剣が振り上げれ、顕になった白い毛並みの顔、あれはノーブルラビット…、いや進化した『白兎の騎士』か!白兎の騎士の思わぬ奇襲を、加護の力で身体を逸らし躱したラッシュは改めて矢を番え白兎の騎士に狙いを定める。が、回避のために加護を使ってしまったラッシュの矢からは『灼炎の加護』が失われていた。


「ディレトーレどのっ!!」


白兎の騎士がそう叫ぶと、空の一部が歪み1羽の黒い鳥、『燕尾の妖鳥』が姿を現す。幻惑!空からの攻撃がなかなか感知に引っかからなかったのはこのせいか!だがラッシュなら…!


「甘ぇな!おれは幻惑系には相性がいいんだ!『鷹ノ洞察』!!」


コロシアムでラッシュが獲得した『鷹の目』の派生系スキル。これにより幻惑も効かずしっかり狙いを定められる筈…


「げっ、ヤバ…」


「行くレス!『ハードスコール』レス!!」


「…は?」


声が聞こえた。そう声だけは。ハードスコール。水と風の複合魔法。まあ普通に対処出来なくはないけど。ただ問題なのはそれが急に何もない空間から現れて襲ってくるってことだ。そうなれば話が違う。そう、その魔法を行使したモンスター(多分)をおれは認識できていない。おれはスキル幻惑により気配予知を妨害されているのだ。くそ!ただでさえ、おれの炎魔法は相性が悪いってのに!この状況で全部捌ききれるかっ?!目前に迫った降りしきる水の魔弾を片手剣で弾く。いや、弾こうとした。間違いなく剣で捉えた筈だ。だけどこうブワッっと消えやがった。ああ、これも幻惑か。


「ぐわあああああ!」


「大丈夫か、ソウ!」


高位の魔法を食らったおれに、風の加護で難を凌いだラッシュが降り立ち駆け寄る。おれは直ぐにポーションを取り出し回復しようとするが、それは敵にしてみれば好機以外の何者でもない。


「行きますよ皆さん、追撃です!」


ってくるよなぁ、普通は。


「…ふ。ふはははは!!そうくると思ったぜぇ?!『敵に知られた好機は最早好機ではない。』ボンジョルノ先輩の言葉を忘れたかっ!?」


ラッシュがドヤる。それはコロシアムで出会った先輩剣闘士、ボンジョルノさんの言葉だ。まあ綾の眷属達にしてみれば誰だそいつはという人物。だがその教訓は確かなものだ。相手にできた隙を好機とばかりに飛びつけばカウンターを貰う。敵も隙を隙として簡単に晒すものではない、頭の片隅に罠の可能性をいれとけ!という教えだ。そしてそれは裏を返せば、つまりは窮地に陥った方こそ、ピンチをチャンスに変えろということだ。。おれはポーションではなく取り出したエリクサーを手に密かに笑みを浮かべる。そうこれは誘いこんだおれ達の作戦勝ちだ。


「『エアリアルレイジ』!!!」


十分に敵の軍勢を引き付け、そのど真ん中に上級魔法を叩き込む。


「しまったレス、『水陣封技』!!!」


空間から突如姿を現した真っ白な子狐のようなモンスター、サワマモリがラッシュの放った魔弾を水の封印魔法で押さえ込もうとする。だがしかし中級魔法で上級魔法を抑えきれる筈もない。ラッシュの魔法は十分な威力を保ったまま炸裂し、大気が揺れる。おれはすぐにMPを使い切ったラッシュにエリクサーを振りかけ、大ダメージを負って撃墜された敵に追い討ちをかける。


「ラッシュ!」


「おう!『暴風の加護』!」


「吹き荒べ!『灼激』!!!」


炎を上げずただ空気を揺らめかせるだけの純粋な熱の塊、それが嵐の槍となってさらに空間を歪ませる。形が無くとも見えるその槍が空中から落ちるだけで逃げ場のないサワマモリへ向け一直線に襲いかかる。


「全くだらしがないでしゅわね…!『炎天』!!!」


「なっ?!」


いつのまにか防壁の上に姿を現していたモンスターが使用したスキルは空間全体に加護をかける上級魔法、『結界』。ダンジョン内が陽光に包まれ真夏の炎天下となる。


「『火射し』でしゅわっ!」


眩く輝いた光の矢がおれの放った『灼激』を撃ち抜き相殺する。複合魔法と同等の威力、流石は結界下の魔法だ。そんな状況下でこれ以上無理に攻めるわけにもいくまい。一旦仕切り直しだ。防壁から距離をとって様子を伺う。上級魔法で崩された敵も同様に一旦引いて体勢を立て直すようだ。一呼吸おいて、並んだ綾の眷属達を眺める。一番多いのは子分うさぎと兵隊イタチ達、これは前と変わらない。だがその一団の先陣を切って指揮を執るのは前回と違い進化した『白兎の騎士』。その横には初めてみる眷属『サワマモリ』。空からは『燕尾の妖鳥』が戦場を見渡す。そして防壁の上にはこれまた進化を果たした『頭領うさぎ』と、新顔の『火芽狐』。しかも5匹ともネームドモンスターだ。前回は名無しだった頭領うさぎや白兎の騎士も名前を貰ってやがる。


「おいソウ、どうする?このままじゃ流石にジリ貧だぜ?」


「″アレ″か…、やるなら今回で決めなきゃな…」


綾もここまでの戦力を投入しているのだ。こちらの切り札も切っていかなければ突破は難しいだろう。だが切り札と言っても真っ向から撃っては無駄になってしまう。だからまずは陽動だ。少なくとも『サワマモリ』の『水陣封技』は封じておかなければ威力が減衰されてしまう。まずはそこから削る!幸いにして相性の悪さは敵の結界、『炎天』でこちらの炎魔法も恩恵を受けているおかげでなんとかなる。大きく息を吸い込むと、ラッシュから加護を貰いサワマモリへと攻撃を仕掛けにいく。


「喰らえ!『フレイムスラッシュ』!!」


「甘いれすね!『ストリームクロー』!!」


シュピン…!


おれの振るった剣はサワマモリの爪と激突することなくスルりと滑る。上手く威力をイナされたおれは前のめりになり、サワマモリに背後をとられる。だが追撃しようとしたサワマモリの眼前を二本の矢が空を裂き、慌てて躱したサワマモリの攻撃の機会を潰す。ラッシュからの援護だ。ラッシュは更に立て続けに矢を放つが、今度はサワマモリは躱すまでもなく、その前で鋭い剣戟により防がれる。


「加勢致しますよ、レースどの」


「ありがとうれす、ブラン!」


サワマモリを狙ったラッシュの攻撃を防いだ白兎の騎士はそのままサワマモリの加勢に加わる。これで2対1。ラッシュの援護を期待したいところだが、上空からの攻撃を仕掛けてきた『燕尾の妖鳥』と他数匹の『鼻歌鳥』に乗った『兵隊イタチ』達と交戦を開始していて、しっかりとした援護は望めそうもない。そうこのままでは予想通りジリ貧。しかし予想通りなのだ。一瞬でいい。たった一瞬、その刹那の活路に切り札となる″アレ″をねじ込めば…、


(待て、何かがおかしいぞ…?)


またしてもそんな予感が頭をよぎる。気配予知のおかげでおれは勘がよくなったのかもしれない。今回は過去からの忠告だ。薄らとした記憶が警鐘をならす。そうだ。綾のネームド。今応戦してるのが『ブラン』と『レース』…。確か燕尾の妖鳥は『ディレトーレ』だったか?頭領うさぎが『ハーゼ』、火芽狐は『ルーシュ』といった。ここいにいるネームドはこれだけだ。他にネームド格の眷属は見当たらない。そうこれだけ。だけど、なら…、ならば『クロ』とはどいつだ?!初めて綾のダンジョンに挑んだ時、綾がおれたちへの追撃を命じたが結局遭遇することなく終わった眷属モンスター。そんな昔からいるネームドモンスターが今ここにいないのなら、それは殿にしてまだ隠しておきたい切り札に他ならない…!


「…!!!ラッシュ、不味いぞ!!″アレ″はやるなっ!!まだ出てきてないネームドがいるぞ!!!」


「マジかよっ?!!まだネームドがいるってのか!流石に″アレ″無しじゃこの状況は不味いぜ?どうするっ?!」


「撤退だ。引くぞ!この状況、作戦も無しに勝てるもんじゃねえ!」


そうと決まれば長居は無用だ。ラッシュが空から標的をおれの戦っていたサワマモリ達に切り替えて制圧射撃を行う。それで出来た隙に出口へと急ぐ。


「逃がさないでしゅわ!『火射し』!!!」


ガガガッ!!!


おれ達の退路に光の矢が幾つも突き刺さる。だがそれでもこれを突破しなければ脱出出来ない。


「くそっ!『フレイム』!!!」


おれは火炎の渦を展開させ、退路を襲う光の矢の相殺を試みる。が、流石に結界の加護を十全に活かしきった攻撃を殺しきることはできず、出口を目前にして足踏みを強いられる。


「そんな攻撃効かないでしゅ。ドン・ハーゼ、今のうちにお願いでしゅわっ!」


「おぅわかってるよ、ルーシュの姉御。」


ずっと防壁の上から戦況を眺めていた頭領うさぎはタンッとそこから飛び降り、ドシンと地面を踏みしめる。踏みしめた地面は割れ、光が溢れ出す。その光の筋はダンジョンの部屋の出口へと走り炸裂し、外へと繋がる通路は音を建てて崩落する。


「くそっ!また『ダンジョン崩し』か!ラッシュ、隙を作る!もう仕方ねぇ、『脱出煙玉』を使うぞ!」


「ちっ、高かったけど、背に腹は変えられねぇか!オラッ!『脱出煙玉』!!!」


ラッシュがすかさず取り出したアイテムを地面に投げつけ辺りに煙幕が立ち篭める。


「しまった!でも逃がさないれすよ!『ハードスコール』!!!」


サワマモリのレースが広範囲の制圧射撃に匹敵する魔法で仕掛けてくる。当然だ。この緊急脱出用のアイテムは、使えば無条件で脱出できるという優れものではない。まず発動中の魔法はキャンセル、使用直後から一切の魔法が新たに使用不能になり一部行動制限がかかった状態で、脱出完了までの10秒程度の間、敵とその攻撃に触れてはいけない。もし触れれば脱出がキャンセルになるどころか、反動で暫く行動制限がかかった状態での戦闘を強いられる。だから本来は敵から一旦距離をとったり退避できてから使うアイテムだ。そんなアイテムを不意を突く形とは言え目の前で使用されれば、敵としてはなんとしても阻止し、そのデメリットが働いているうちにトドメを刺してしまいたいだろう。まあ、だが実はこのアイテムのデメリットのルールには若干の穴がある。そう、"発動中"魔法のキャンセルと新たな魔法の"使用不可"。つまりはスキルは"使用した"がまだ"発動には至ってない"魔法、所謂"溜め"の段階にある魔法には適用されないという穴。無論、そんなに溜めの長い魔法なんてものはたった1発で10秒くらいは楽に稼げる魔法…。


「『ブラストノヴァ』…!!!」


ズォォォン…!!


煙幕で白く霞んだ視界の奥で紅い光が閃く。サワマモリの攻撃も巻き込んで炸裂した上級魔法。それに巻き込まれた綾の眷属達の悲鳴が木霊するダンジョンの中、その声も段々と遠くなり、視界も完全な真っ白になって何も見えなくなる。そしてそのままホワイトアウトした視界が一層明るくなったかと思うと、おれとラッシュは『最初の街』の噴水の辺りに立っていた。


「ぶはーー、死ぬかと思ったぁ!!」


ラッシュがそう言って大きく息を吐きながらドサッと座り込む。まあ仕方ない。今回ばかりは流石に結構やばかった。あそこまで綾のダンジョンにネームドモンスターがいるなんて思ってもみなかった。これは誤算だった。それはまあさておき、脱出完了したことにほっと胸をなで下ろす。


「にしてもどうすっかな…。予想以上に難敵だぜ、あのダンジョン…」


自然と安堵ともため息ともとれる息が漏れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る