勇者:14日目

3度目の正直。といったところだろうか。綾のダンジョン3度目の挑戦となればいい加減わかってくることもある。このダンジョンはモンスター自体は弱く容易に倒せるが、トラップがいやらしい。何を隠そう前回2戦共まともな戦闘をする前にトラップで撃退されている。だがそれらのトラップも慎重に行けば避けれたトラップだ。だから焦らず慎重に攻略すれば負けるはずがない。だから前方をとんでいる『アラートバード』も落ち着いて隠れ、やり過ごせばいい。そう、例えばこの岩陰に隠れてだな…


ガサガサ…!


隠れようとした岩陰から『カゲトカゲ』が逃げ出す。しまったと思うが、気付いた時にはもう手遅れだ。…ちくせぅ。


「ピィーイ、ピィー!!」


アラートバードが喧しく鳴いて逃げていく。しかしその喧しい鳴き声は他のモンスターを誘き寄せる。面倒なモンスターだ。


「っくそ!『フレイム』!ラッシュ、2つ目の曲がり角から『ポチウルフ』だ!」


後方から迫る『サーペント』の群れをまとめて焼き払いながらラッシュに指示する。「おうよ!」とラッシュは意気揚々と応じ風の矢を乱れ打ちして、ポチウルフを素早く仕留める。やっぱりこのダンジョンの敵、脅威って程じゃないんだよな…。鬱陶しいのはその数。


「おい、ラッシュ!まだまだモンスターがくる、一旦ここから離れるぞ!」


おれはとりあえず離脱しようとするが、ラッシュはすました顔で静止してくる。


「まーて、ソウ。そうやって焦って行動して何回失敗した?まーた罠に嵌るぞ?ここはまだ焦らずに行くべきだ」


「焦って失敗したのは1回だけだ。足滑らせヤロウ」


まあラッシュの言うことももっともだ。焦らず行動して確実に罠を回避することのが大事だろう。そして慎重に進もうとしたおれ達は『ハニービー』の大群に襲われる。素早く仕留めるがすぐに『フォレストボア』が猛チャージを仕掛けてる。さっさと倒し、すぐ潜伏を…。いや、『ポチウルフ』だ。


「だあっ!!なんだってんだクソ野郎!!全部狩り尽くしてやろうかぁ?!ああ?!!」


「これは失敗だ、ソウ!場所を移そう」


「ああ、だが『潜伏』は解くなよっ!」


次の敵がくる前におれ達は素早く駆け出す。途中待ち構えるように群れを為していた『ホーンラビット』をなるべく音がしないラッシュの矢で蹴散らして突破をするとすぐさま岩陰に身を潜め、状況が落ち着くのを待つ。が、それはこない。『ハニービー』。


「だああ!『フレイム』!!!」


鳥のように巨大な蜂の群れを火炎の渦が襲い、次々に地に叩き落としていく。でもどうせまだおわってないんだろ?!だからおれは潜伏を解除し、ダンジョンの天井に拳を突き出して吠えた。


「おい、綾!てめぇ、こっち見てんだろ!陰湿なことしやがって!」


叫び声がダンジョン内を木霊し、それに返すようにどこからともなく押し殺したような笑い声が返ってくる。


「ごめんごめん、そーちゃん。ちょっと面白かったから…!おいでよ、もっと奥に。そこでちゃんと倒してあげる。」


「やってみろよ。そっちこそ逃げ道もねーんだ。そこで首を洗って待ってろよ」


敵意剥き出しの言葉をあらかたぶつけ合うと、視線鋭くダンジョンの奥を睨みつけ歩き出す。


「あっ!違う、違う。そっち入口。」


…。綾のやつ、いきなり出鼻をくじきやがって…。


「あぁ、うっせぇな!んなことわかってんだよ!」


綾の声に怒鳴り返すと、方向転換して元来た道を引き返す。


「なあ、おいソウ。相手のいいなりに引き返していいのか?」


ラッシュが元の道を戻るおれを見送るようにして言う。くっそ…、、、。ムカつくがラッシュの言う通りだ。ラッシュの先導に従ってダンジョンを進む。そうしてしばらく進むと開けた場所に出た。そう入口に辿り着いたのである。


「あはははは!あんた達何やってるのよ!ほんとに入口てwww!私のこと信じないからそーなるのよ!」


「だぁーくそぉ!分かったよ!お前の言う通りにしてやらぁ!」


おれもラッシュもダンジョン攻略が上手くいかず半ばやけになりつつあった。もう罠だってモンスターだってなんだってこいだ。綾の指示通りにダンジョンを進み、襲いくるモンスターも経験値とかえる。落とし穴だとか、状態異常の苔だとかスライムなんてどうでもいい。おれたちに怖いものなんて今更ない!うがーー!!…、ん…?なんだ?


…。


何か音がする。

こう耳をそばだてると。


…。

…ゴロゴロ。

……ゴロゴロゴロゴロ!!!


…!何か転がってきやがる!いや、何かってより大岩だろうな!映画とかでよくあるやつ!調子にのってすみませんでした!さすがにこれは怖い、めっちゃ怖いです!!くっそー、綾の奴思っいきり嵌めやがって!


「あー!いいよ!お前がそのつもりならこっちだってポイント使ってやらぁ!こっちはたんまりポイントたまってんだよ!」


やけになったおれは手持ちのポイントをほぼ全て使い切り、中級魔法をすっ飛ばし、上級魔法スキル『ブラストノヴァ』を急遽取得する。火球を飛ばす『フレア』の最終派生先のスキル。その威力は語るに及ばないというやつだ。


「『ブラストノヴァ』!!!」


ズウウウン!!!


放たれた凶弾は大岩を砕き、ダンジョン内に不釣り合いな大爆発を巻き起こす。そう不釣り合いな大爆発。当たり前のように爆風の余波はおれたちを襲い、ダンジョンは崩落した。うん、これはやばいな。


「ここはおれの出番だな!ふははは!『エアリアルレイジ』!!」


ラッシュが前へ出ると聞き慣れないスキルを発動させる。なんだ、お前も上級スキルを取得したのか。ラッシュの巻き起こした暴風は襲いかかる岩のなだれを諸共に薙ぎ払う。無論、それだけにとどまらない嵐の膨大なエネルギーは逃げ場を求めて再びおれたちへと弾き返ってくる。


「「ぐっはぁああああ!!」」


吹き荒れる暴風は容赦なくおれたちを襲い、ダンジョン内を軽く100mは吹き飛ばし、壁に深々とおれたちを叩きつけた。ぐふっ…。これは、、、致命傷だな…。ガクッ。こんな時に余談ではあるが、元の世界では大岩なんぞに潰されれば即死であるが、この世界では即死することはない。酷くても即死級の″ダメージを受ける″だけだ。つまりは耐久力さえあればなんともない。というより、大岩のダメージはそこまで大きいものではない。それなりに冒険を重ねたおれたちなら2、3発くらってもまあ耐えられるだろう。戦況を左右するダメージではあるが致命傷ではない。だから″致命傷を負って″でも回避すべきダメージではないのだ。そう、大岩なんぞより至近距離で暴発にも等しい形で放たれた上級魔法2発のダメージのが深刻だ。そして更に運の悪いことに、レベルに見合わない上級魔法を放ったおれたちはMPも底をついていた。正に踏んだり蹴ったりというやつだ。或いは自業自得。いや、その両方か。思わずため息が漏れてしまう。


「ポーションとエリクサー足りっかなぁ…」

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