ダンジョンマスター:2日目後半
眠ったクロ達を撫でながら私はコアメニューから今の状況を整理する。今日は色々あった。といってもまだお昼を少し過ぎたところだ。みんなが寝てしまってるからといって私まで休んでいい訳がない。むしろその分私が頑張らないといけない。とりあえずサーペント戦での戦果を確認する。皆が持ってきてくれたサーペントのドロップ素材『毒蛇の牙』と『蛇模様の皮』、『爬虫類の尻尾』はどうしたらいいか分からないし、コアの中のアイテム倉庫にしまっておいた。それよりもサーペント討伐で得た一番の戦利品は『毒のマナ』。かなり微量ながらも上手く扱えば必ず武器になる筈だ。単純に考えればクロ達に状態異常という武器が手に入ったと考えていいだろう。だが今付与してしまえば起こしてしまうことになるし、何より量が少ない。これはクロが起きてから相談だ。あとは戦果とは違うが数匹のホーンラビットがダンジョン内にはいってきていた。どうやらサーペントはこのホーンラビットを追いかけてこのダンジョンに迷いこんだみたいだ。ホーンラビットは穴掘りネズミよりも強いと言えど、基本的に襲ってくるモンスターではないし、何よりドロップ素材の『柔らかモモ肉』は人間でも調理すれば食べられるらしい。これはなんとも喜ばしい。私の食事の度に50DPもとられていては、とてもじゃないがダンジョンの運営なんて出来ない。それに普通に毎食おにぎりは飽きる…。あとは…、とメニューの中を確認しているとマナの中に『土属性のマナ』というのが増えていた。それに私が首を傾げていると、隣でクロが伸びをしてムクリと起き上がる。いや、ムクリと言うよりも、こう伸びをして、伸びきってそのままコロンって…!ネコの、ネコによる、ネコらしい仕草…!やはり、この子達には癒される。
「にゃ〜、すっかり眠ってしまったにゃ。何か変わりごとはないかにゃ、ご主人?」
「あっ、それなんだけどね…」
私はクロが寝ている間に整理をした情報を伝える。私が全部話し終えると毛繕いをしながら聞いていたクロが頷く。
「土のマナは、ファーマーラビット達の耕した土からちょっとだけとれたらしいにゃ。毒も土もマナは増やしておいて損はないし、苔に吸わせてみて培養するのはどうかにゃ?」
早速私は起き始めていた皆にお願いして、苔を育てる準備を始めた。毒のマナを使うってこともあり、こちらは隔離して育てることになった。そこで穴掘りネズミの巣穴が必要になるのだが、そこの住人には残念ながら居なくなってもらう他ない。巣穴の傍にファーマーラビットが小さな落とし穴を掘ると、クロが穴掘りネズミを水魔法で驚かして見事に罠に嵌める。実際見事な手際で私が関心していると、皆でその落とし穴の中に飛び込んで乱闘を始めた。彼らには仕留める手立てがないため、最終的には実力行使にでるよりない。結局ズタボロじゃないか、クロ…。生きるって大変だ…。私が健気な眷属達に頭を痛めていると、苔の育てる準備が整った。
「準備完了だにゃ、ご主人!」
クロに言われてそこに毒のマナを流し込むと、一部こライトモスが『ポイズンモス』という毒々しい紫色の光を放つ苔へと変化した。これで順調に育ってくれれば、このダンジョンにも毒のマナという新しい武器ができる。それから私は土のマナもライトモスに与えてみた。すると『ミドリゴケ』という普段目にするような苔らしい苔に変化した。元々土属性の性質を持つスタンダードな苔に戻ったってところだろうか。これは、これで良しとする。残りのマナもクロ達にとりあえず割り振っておこうとすると、クロが慌てて注意してくる。
「にゃにゃ、ご主人!眷属には扱える属性に制限があるにゃ!だからやたらめったら振っても無駄になっちゃうにゃ…!」
なるほど。ゲームらしい仕様だ。ファーマーラビットは扱える属性は一つということで、2匹にはそれぞれ土と水を分担して貰うことにした。そしてケット・シーは魔法の扱いに多少の適正があるため2種の属性を、クロに関してはネームドということもあって3種類の属性を扱えるらしいので、クロに毒と水と土3つ全部を、他の子達には水と土の魔法をお願いした。これで毒のマナは全部使い切ってしまった。だがクロだけでも毒魔法という武器を得たのは大きい。そこで、ふと疑問が浮かぶ。
「ねえ、クロ。毒とかで仕留めたモンスターのお肉とかって食べられるの?」
「それは大丈夫にゃ。基本的にモンスターと素材は切り離されてるからにゃ」
それは良かった。ご飯確保にクロの毒魔法が使えそうで一安心する。そこでもうお昼すぎになっていたことを思い出す。今日は朝から何も食べていないからお腹がペコペコだ。クロ達と食料調達に出かけ…。
「にゃぁ…、ご主人?確かに『柔らかモモ肉』は確かに人間も食べれるけど生は無理にゃ…。ぼくら火の魔法は使えないし、調理が出来ないにゃ…」
「へっ…?」
いやいやいやいやいや…!えっ?マジで!?もうDPないのですけれど?私の顔からサーと血の気が引いていく。ま、まあダイエットってことで…、いや無理だ…。昨日の夕飯もおにぎり3つだけだったのにこれ以上は無理だ。慌てて残っていた水と土のマナ全部とサーペントの素材の『爬虫類の尻尾』を売却すると44DPになった。あと6…!残りのDPはクロ達に穴掘りネズミを倒して貰って稼ごう。
「にゃー!お前達!ご主人のお腹がペコペコになる前に急いでDPを稼いでくるにゃ!」
クロの威勢のいい号令がかかると皆が一斉にダンジョンに駆けていく。微笑ましい!そして結局威勢よくダンジョンに駆けていったもののその戦闘は微笑ましいものだった。クロの毒魔法という新たな武器を手に入れたとは言え、やはり決定打には遠く及ばす皆で乱闘をして仕留めていくスタイルだった。そしてどうにかこうにか満身創痍の皆は穴掘りネズミ4匹とホーンラビット1匹を仕留めてDPを稼いできてくれた。私の所へ戻ってくるとみんなでお昼ご飯にした。ケット・シーの皆は穴掘りネズミからドロップさせたネズミートを、ファーマーラビットの子達はクラガリソウやミズタマリソウを美味しそうに食べていた。ミズタマリソウはサラダとかにもよく使われるような植物らしくて私も少しだけわけて貰い、DPで購入したおにぎりと一緒に食べてみた。見た目はチューリップやネギと言った感じのちょっと分厚目の葉っぱで肉厚の割にはシャキシャキとしていて美味しかった。それぞれのお昼ご飯を平らげてしまうと、クロが思い出したように何かを取り出す。
「ご主人、これ!ホーンラビットと穴掘りネズミのドロップ素材にゃ」
クロが差し出したそれは『小さな角』と『木の枝』というアイテムだった。と、それより穴掘りネズミのドロップ素材?見た感じ木の枝がそうなのだろうけれど…
「ねぇ、クロ?今まで穴掘りネズミからは『ネズミート』しかドロップしてなかったけど…?」
「にゃ?やっぱりネズミートで食料を確保しておいた方がよかったかにゃ?木の枝とかつかってなにか武器がつくれにゃいかと思ったのにゃ…」
「え?うん?武器??それよりドロップって選べるのっ!?」
色々と新しい情報が多く混乱してきた頭を一旦整理する。まずドロップ素材は選べる。どうやら確定枠とレア枠に分かれていて、討伐後にそこから素材を選ぶという仕組みらしい。レア枠はたまにしかないが、確定枠なら対象のモンスターを討伐すれば確実にドロップさせることができる。なんとも親切な仕様だ。またモンスターによっては何枠か分選べたり、素材によっては数枠分の上位素材とかもあったりするらしい。これは斬新でなんともありがたい仕様だ。低級素材マラソンとか苦行でしかないから助かる。そして武器作り。これは経験値からスキルというものを獲得できるらしく、そこから『アイテム作成』というスキルを獲得すると素材を調合させてつくれるようになるらしい。とりあえずクロにお願いしてこのスキルを獲得してもらった。
「にゃにゃ!なんだか凄い創作意欲が湧いてきたにゃ!いまなら凄いものがつくれる気がするにゃ!」
クロは私から『小さな角』と『木の枝』を受け取ると、ジーっと眺めたあと急にその2つを勢いよくぶつけた。こう、リンゴやパイナップルにペンをぶっ刺す例の人みたいに。するとクロの手は小さな光に包まれ、その手には別のアイテムが出来ていた。『小さな槍』。それは木の枝に尖った石を括りくけた簡単な武器。もう一度言おう。『角』ではなく『石』の槍…。この異世界大丈夫か…?
「にゃ!これポイズンモスを使えばもっといいのが出来るにゃ!」
そう言うとクロはポイズンモスを採取してきて再びアイテム作成を続ける。こうまた、ポイズンモスと小さな槍を両手にもって…。いや、危ない危ない危ない!それやったら手に槍がぶっ刺さるっ!!だがクロはやった。何事もないように。なんなら「勢いが大事なのにゃ!」とか通ぶったことをいいながら思いっきり手にぶっ刺した。だがさも当然のようにクロの手元が輝き、『毒の小槍』が出来ていた。早く異世界常識に慣れなければ…。まあそれは兎も角としてこのダンジョン初の有効な攻撃手段の獲得だ!たぶん…。これは効くはず…。なので実戦投入と他の子達の武器も作るためにクロ達には再びモンスター討伐に赴いて貰った。そして…
「はぁ…。やっぱり先が思いやられる…」
私は頭を抱えていた。それもその筈、いつものように穴掘りネズミを落とし穴に嵌める所まではいい。そこから槍の出番ということでクロが槍で突こうとするが、なんせ小さな槍だ。届かないし、届いたとしてもチョンと触る程度で攻撃にはならない。そこでクロが槍を構えて特攻を試みた。落とし穴へと飛び込んだクロの槍が穴掘りネズミに深々と突き刺さる。これは大きなダメージが入ったようだが致命傷とはならなかった。そしてクロは槍を抜く前に穴掘りネズミから振り落とされてしまった。つまり、武器を失った。あとは察する通りの乱闘だ。だがその乱闘も以前より幾分か早く決着がつくようになったのも事実だ。次の穴掘りネズミの討伐は、その前にクロが『木の枝』と『毒蛇の牙』から更にもう一本『毒の小槍』を作成して2本で、戦いに望んだ。2本なら仕留められるかと思ったのだが、クロと槍を持ったケット・シーの子2人とも特攻を外した。実は中々に難しかったらしく。その後も動き回る相手に上手く槍を突き刺せず苦労し、槍を命中させるまでに5回程突進を食らってしまっていた。これでは今までの乱闘と大差がない…。まあやっと戦いらしい戦いになったと言えなくもないが…。もう一本の毒の小槍を完成させる頃には突進を躱して突くというそれらしい戦いを身に付けていた。ただそれでも他に何か撃退手段は考えるべきであろう。そこで私はメニューを適当にスクロールしながらダンジョンマップを眺めていると、何か違和感が首をもたげてきた。何かがおかしい…。丁度、討伐からボロボロで戻ってきたクロにも聞いてみる。
「ねぇ、クロ?なんかダンジョンが変な気がするのだけど、気の所為?」
「にゃ〜?ぼくにはわからないけど、でもほっとくのも良くないかもにゃ…」
そう言うとクロは私の肩に登って一緒にダンジョンマップとにらめっこをした。確実に何かがおかしい…。気がする。わからないけれど。そうして10分程クロとあーでもない、こーでもないと眺めていると、違和感の正体に気づいた。
「クロ!みてクラガリソウが食い潰されてる!!」
それは気付いてみれば単純なことだった。穴掘りネズミが掘るに任せてつくられたこのダンジョンは木の枝のように広がっており、一本道が分岐していくだけの単純な構造…。そこを穴掘りネズミがクラガリソウを食べながら歩いていくと、当然その後ろにはクラガリソウは残らない。つまり不毛の地と化していくわけである。多少はクロ達が狩りをしたりとかで掻き回していたのだが、あと少しでも気付くのが遅れていたらクラガリソウがローラー式に一気に食べ尽くされ、ダンジョンの生態系が崩壊していた可能性すらある。だが気付いてしまえばいくらでも対策のしようがある。とりあえずのところファーマーラビットに何本かの通路を繋げたり、小部屋のようなものを作って貰った。あとはたまたまではあるが『スナキャット』という野良モンスターがダンジョン内に住み着いてくれたのもいい対策となった。
そうこうするうちに日が暮れてきたのでご飯の調達をする。まだ私が食べられるものはミズタマリソウくらいしかダンジョン内からは確保出来ないが、ドロップ素材の売却という手段を見つけていた。穴掘りネズミからは『鼠の尻尾』という15DPで、ホーンラビットからは『ふさふさ毛皮』という20DPで売ることができる素材がドロップする。これならモンスターを無理に倒し過ぎず私のご飯を確保できた。まだおにぎり生活ではあるけれど…。お腹減ったなぁ…。とにかく、こうして私のダンジョンマスター2日目は暮れていった。
そして…
事件は次の日の朝に起きた…。私が朝ご飯を済ませた頃、ダンジョンに2つの人影がやってきた。もちろんその片方はよく見知った人物、そーちゃんだ…。ここであったが100年目、このダンジョンからは無事では帰さない…!!
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