ダンジョンマスター:2日目前半
暇だ…。何か色々やらなければいけないのだろうが、出来ることが無い…。現在所持DPはたったの13DP…。昨日の夜からクロ達ケット・シーの3匹がそれぞれ1匹ずつ食べた穴掘りネズミの討伐分しか増えてなかった。まあ当然と言えば当然で、そうポンポン増えるものでもない。だが進歩があったのも確かだ。ダンジョンは着実に穴掘りネズミによって広げられ、クラガリソウも増えてきた。ダンジョンの基盤が完成しつつある。ただライトモスの繁殖が若干追いついてなく、育ち易い湧き水の側に密集している形になってしまっていた。ただ、そこでは光も水分も豊富でクラガリソウの育ちも良く、ダンジョン内の秘密の泉みたいなことになっていた。ちょっと憧れる。そして私はと言うと暇だった。暇。ならやることは1つ。
「ねえ、クロ。ちょっとお散歩しましょ?」
「急に何を言い出すにゃ…。ぼくらは増えつつある穴掘りネズミが、クラガリソウを食べ尽くさないように見張ってないとまずい気がするにゃ…」
「ちょっとくらいいいの。それにダンジョンコアは直接ダンジョンマスターが持って移動させないといけないんでしょ?こんな浅いとこにいたらまずいし、移動も兼ねてで、丁度いいじゃない」
「うー、仕方ないにゃあ」
渋々承諾してくれたクロを連れてダンジョンの隠れスポットを目指す。ダンジョンコアはメニューの中に移動という項目があり、それを選択すると掌サイズになった。そして手をかざすのをやめれば消えて、再びかざすと現れるというかなり便利な仕様だった。そんなこんなで荷物なし、私はピクニック気分で出発した。が、そうはいかなかった。いくら私がダンジョンマスターであってもダンジョンにいるモンスターは野良モンスターだ。下手に近づけば容赦なく私達を襲ってくる。そしてズタボロの満身創痍になってしまった…。クロが。そうクロが。あとクロは弱かった。なにも襲いくるモンスターの群れから私も守ってズタボロにという訳ではない。たまたま逃げ場を失った穴掘りネズミが1匹、最後の抵抗を試みただけである。食料にしているくらいなのだから楽勝で狩れるのかと思っていたが、なんとか倒せるレベルの話だったらしい。
「ねぇ、クロ達ってご飯の度に毎回死にかけてるの…?」
「そんなことないにゃ…。今回はぼく一人だけだったからだにゃ。それに一応これでもぼくネームドだにゃ。他のみんなはたぶん一人じゃ、穴掘りネズミも狩れないと思うにゃ」
おっと、もっとヤバい話だったぞ?ってより昨日の夕飯はどうしたんだコイツら…!穴掘りネズミからドロップした『ネズミート』に美味しそうにかぶりつくクロを少し心配になって見つめる。その不安げな視線に気付いたのかクロが口元を拭って胸を張る。
「心配することないにゃ、ご主人!ぼくら弱くても知恵があるんだにゃ!頭を使えば穴掘りネズミなんて楽勝のちょちょいのちょいにゃ!昨日はファーマーラビット達に落とし穴をつくって貰って一網打尽だったにゃ!」
あぁ、なるほど。流石にそこまで脆弱ではなかったか。でもこうなると野良モンスターや冒険者のような積極的に襲ってくる敵がくるとひとたまりもないだろう。クロ達眷属の身を守るを方法も考えないといけなさそうだ。そんなことに頭を悩ませていると例の秘密の花園についた。花は咲いてなかったけれど。それに気付いたクロが中へ走っていく。
「にゃ…!ご主人!これは凄いにゃ…!」
「そう?クロも気に入った?ダンジョンマップで見たら綺麗だなっt…」
「違うにゃ、違う!そうじゃないにゃ…!ここには水属性のマナが溢れているにゃ…!」
そんなに凄いことなのか、クロは手足をバタバタさせ全身で喜びを表現するかの如く飛び跳ねていた。可愛い…!!なにこの子、めっちゃピュア…!!最高…!推せる!!私が尊みを感じていると、それに気付いたのかクロが飛び跳ねるのをやめてこちらにトコトコと寄ってきた。
「ご主人!とりあえずだいぶマナを集めてきたにゃ…!それよりここにコアルームを設置するんじゃなかったのかにゃ?」
「あぁ、そうね。コアルーム、コアルーム…」
正直コアルームとかどうでもよかった。私は殆ど上の空でコアを操作し、近くにコアルームを設置した。それよりもクロの言った「マナを集めてきた」…!これは聞き逃せない情報だ!マナを集めた。たった今。では、どうやって。どうやってクロはマナを集めたか?勿論、飛び跳ねてだ。自明。It's obvious ! 証明完了。Q.E.D. なら、次の問い。ケット・シー3匹にマナ集めをさせたらどうなるか?簡単だ。答えは見えているっ…!!
「クロ…!この水のマナ凄いわ…!もっと集めて欲しいの!他の子達と一緒にマナを集めてくれない…!?」
「任せるにゃ!!」
クロは元気いっぱいに敬礼をすると、他のケット・シーを呼びに駆けていく。数分後、私の前には楽園が広がっていた。群生しているライトモスに照らされ、3匹の子猫が生い茂る草の中で元気いっぱいに跳ねている。最高か!ヤバい!語彙!私に語彙をくれ!なんDPですかっ!?おっといけない、よだれが…。私はよだれを拭くととりあえずコアメニューからマナの用途を調べてみた。主な使い道はダンジョン内に流すこととダンジョンギミックの強化、眷属に与えて強化ってことも出来るらしい。あとは微々たるものだがDPにも変換出来るらしい。だからこまめに回収しておいて損するものでもなさそうだ。ってより絶対大事だ。マナの運用は多分死活問題だ。とりあえず眷属にも与えられるようだがクロ達、ケット・シーはたがが知れてる気がする。だが一応3匹に水属性のマナを与えてみた。
「「みゃあっ!?」」
「にゃ、にゃんだご主人か…」
「クロ…、なんであなただけリアクション違うのよ。他の子達のが可愛いかったわ」
他の2匹と違って澄ました反応のクロにちょっとだけ文句をいう。だがクロもなんだか慣れてきてしまったのか、ため息をついて首を振る。
「無茶言わにゃいでよ、ご主人…。それよりぼく自身もご主人から悪戯されるのに慣れかけてるのが怖いにゃ。それより今のは集めたマナをぼく達に割り振ったのにゃ?」
「うん、そうよ。他にあげる子もいないし、実験?何か変わった?」
私が訊ねるとクロは自分の手をちょっと眺めてから「こうかにゃ…?」など色々と呟きスっと、前に手を伸ばすと…
「ウォーターにゃ!」
クロの呪文に合わせ、淡い水色の光に包まれ小さな魔法陣が現れる。そしてパシャッと水飛沫がとぶ。こうペットボトルの口を開けてパシャッパシャッやるみたいな。うん、武器にはならないな、これ。
「こ、これはしゅごいでしゅ、主しゃま!」
クロと同じく初めての魔法を試していたケット・シーが興奮する。
「れす、れす!これらら水やりとかもすごく楽ににゃるれす、だんにゃ!」
なんだこの子達、拙なっ!拙い言葉使い可愛い!何より魔法の使い方!水やりとか、マジ天使!平和の使者の考えそのもの!いきなり戦いに使えないとか考えてごめんなさい!もうマジ可愛い…!!
「にゃぁ…。またご主人、変なことかんがえてるにゃ…?それよりこれファーマーラビット達にも分けてあげたのかにゃ?たぶんアイツらのが必要な魔法にゃ」
「あっ、そうね!」
クロに指摘されて私はまたコアメニューの操作に戻る。にしても、もう私が妄想してるのに気付くとはやるな、クロ!と、さて…。ファーマーラビットにも水のマナを分けたところで残りはどうしたものか…。眷属にはマナを与えてしまったわけだし、そこから更に戦闘員でもない彼らにあげても多分無駄だろう…。そこで少し野良モンスターの様子を確認してみる。彼らには直接付与こそできないがそばのダンジョン内にマナを放出してやればある程度は吸収してくれる。特に苔系やスライム系はよく吸って、時には変質もしてくれるらしい。え?待って。苔系??えーと、水のマナはこの湧き水の周辺にあって、天井にはライトモスが…!私はバッと上を見上げる。そこはライトモスの黄色い光…だけでなく、所々に青色の光が瞬いていた。私は慌ててダンジョンマップで確認する。
『青空ゴケ』
「…!!クロ!!上!上みて上!!ライトモスモスが変化してる!!」
「にゃ!ほんとだにゃ!お前達!この青空ゴケをファーマーラビット達のとこに持っていってやるにゃ!きっとアイツら喜ぶにゃ!」
「わかったにゃ、たいちょう!!」
2匹のケット・シーがクロに敬礼をし、床近くの壁から生えていた青空ゴケを周りの壁ごとそっと剥がしてファーマーラビットに届けにいく。今までみたいに4本足で駆けて行かず、2本足で苔を大事そうにもって、トコトコと。危なっかしい!!そして微笑ましいわね!私は静かに涙を流す。あとクロ。何、あの子達に隊長って呼ばれてる?最っっ高。この子達、私を殺す気かしら。私が暫く感動に浸っているとクロが現実に引き戻す。
「おーい、ご主人?にゃ!やっと気付いたにゃ…。これ見るにゃ、これ。この辺りのクラガリソウもほんのちょっとにゃけど『ミズタマリソウ』になってるにゃ。いい傾向だny…」
クロの言葉を遮ってケット・シーの子が慌てふためいて飛び込んでくる。
「にゃあああ!大変れす!大変れす、だんにゃ!いりりちに『サーペント』が出たれすっ!」
「ほんとっ!?それは大変っ!」
私は慌ててコアメニューを確認すると入口付近に『サーペント』と表示がでていた。穴掘りネズミを餌とするモンスターでコイツに闊歩されると撃退手段を持たないうちの子達にとって非常に危険だ。追い払う手立てを考える。
「にゃあ!ご主人!とりあえずぼく達は被害が出ないうちに追い払ってくるにゃ!」
「気をつけてね!!」
だがそうだ、考えたところでこの子達に撃退して貰う他ない…。急いで入口に向かっていったクロ達の無事を祈る。クロ達は途中でもう1匹の子やファーマーラビット達とも合流し、5匹で迎撃に向かった。悲しいけれどこれが今のうちの最高戦力だ。仕方ない。クロ達が到着した時には穴掘りネズミが1匹食べられてしまっていた。だがそれが幸いだったかもしれない。『ネズミート』を丸呑みにしサーペントは動きが鈍くなっていた。お陰でクロ達は一気に接近されずに戦えた。クロ達はサーペントを取り囲むようにすると、覚えたての水魔法や転がってる石を投げつけて対抗していた。だが嫌がらせ程度の効果しかなく有効な攻撃手段にはなっていなかった。だがずっと続けていると多少は効いてるのか疲れてきたのかサーペントの動きが更に鈍くなってくる。そのうちクロやケット・シーの子達が引っ掻いては逃げての一撃離脱で更に攻撃を重ねていく。なんとかこのまま倒してくれることを祈りながら見守るがそうはいかなかった。少し攻撃を欲張ってしまった子が逃げ遅れ、サーペントに噛まれてしまう。すかさずクロがサーペントの頭を踏みつけ、押さえつけた頭を上から引っ掻きまわし、噛まれた子を逃がしてやる。もう1匹のケット・シーの子も胴体に飛び付き、ファーマーラビットと共に押さえつけて、引っ掻いたり噛み付く。だが噛みつかれた子はよろよろと少しサーペントから離れると倒れ込んでしまった。その様子に私はもう胸が苦しくて苦しくてたまらなかった。私に出来るのはその子の無事とこれ以上の被害がないよう祈るばかりだった。だがサーペントがぶるっと身を震わせると頭を押さえつけていたクロがバランスを崩し、サーペントが頭をグッと持ち上げるとそのままクロが弾き飛ばされてしまう。そしてサーペントはすぐに胴体に噛み付いているファーマーラビットにその牙を向ける。だがその牙がファーマーラビットを襲う前に横からクロがサーペントに飛びかかった。弾き飛ばされたクロはすぐに体勢を立て直したのだ。そして喉元にしっかり食らいついたクロは、じたばた暴れるサーペントに引き剥がされまいと奮闘していた。喉元に噛みつかれたサーペントの動きはどんどん鈍くなり、時期にピクリとも動かなくなる。それからも暫く噛み付いていたクロは、完全にサーペントが倒されたのを確認すると、一緒に噛み付いていたファーマーラビット達と安堵の息を漏らす。そして噛み付かれた子の様子を見にいったケット・シーがダンジョンマップ越しに私に話しかける。
「だんにゃ!こいつ毒にやられちゃってるれす!『ろくぬきのは』がいるれす!」
「それは大変!『毒抜きの葉』ね!すぐにそっちに送るわ!」
私はメニューから急いで『毒抜きの葉』を見つけクロ達のところに送ってやる。20DPと今の私のポイント全てだったが躊躇している余裕はない。それよりなんとか足りていて本当に助かった。昨日の残り10DPとクロ達のご飯の穴掘りネズミ3DP、ここに来るまでに仕留めたものとサーペントにやられた穴掘りネズミで2DP、それでサーペント討伐の5DPの計20DP。本当にギリギリすぎる…。それよりも噛み付かれた子が心配で心配でならなかった。私がオロオロとしているとクロに担がれて噛まれてしまった子がやってくる。それを見ると私はすぐに駆け寄った。
「ごめんね。大丈夫…??」
「名誉の負傷でしゅにゃ…」
弱々しくそんなことを言う子に私は抱きあげた。そして強く強く抱き締めてやる。
「ごめんね。ごめんね!そして本当にありがとっ!こんなに頑張って…!!でも無茶はしちゃダメ…!!絶対にダメ…!!」
涙が止まらなかった。でも私の腕の中でその子は弱々しくも安心しきった顔で満足気に微笑んでいた。泣いてばかりはいられないな…。私は涙を拭うと、なんとか笑顔をつくって微笑む。
「よく頑張ったね。ありがと」
労いの言葉をかけてやりながらその子をゆっくり撫でてやる。勿論、隣で丸くなったクロや他の子達も一緒に。今日みんなよく頑張ってくれた。ゆっくりと休んで貰おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます