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「恐縮です。このご恩は必ず」

「いや別にいいって、安いもんだし」

「そういう訳にはいきません。でも今日はお金を持っていなかったので大変助かりました」

「中身のない財布って何て言うか知ってる? 無い布って言うんだよ」

 金の入っていない財布を持って家出なんて笑える話だ。

「知りませんでした。勉強になります」

「勉強しなくていい。で、なんで家出してきたの?」

 菓子パンとジュースの缶を持った少女と二人、公園のベンチに座る。家出少女を店に連れて行く訳には行かないし。それに『知らない人に付いて行ってはいけないと言われているので』とも言われたし。それなら俺が買ってきたパン受け取るなよとも思うけどな。

「母が嫌だったからです」

「嫌いなの?」

「母は好きです。でも最近は勉強しろって煩いので逃げてきました」

「勉強嫌いなんだ?」

 だから家出? まぁ分からなくもないけど。そんな理由で・・・

「いえ、好きです」

「好きなの!?」

「そんなに驚くことですか?」

 全人類皆勉強嫌いだって思っているタイプの人間だから・・・。

「勉強は好きです。知らないことを知って行けるのは楽しいです。でも、学校の勉強は退屈で。好きなことだけ研究していたい」

 話を良く聞くと、彼女は多分、凄く頭のいい天才なんだろう。IQが凄く高い系の人種だ。それも理数に限り。だから学校の文系の勉強はしたくないから逃げてきた、と。

 おいおい、凡人の俺には理解できねぇぞ。

「古典とかも勉強したら楽しいだろうに」

「言葉の羅列は退屈に感じちゃう。数字の羅列は楽しいけれど」

「や、でもこんな所で家出していたら、数字の羅列も研究できないんじゃないの?」

「そんなことないです。机も椅子もなくても頭の中で研究できます」

 まぁ言っていることは分かるけども。それは俺には無理だけど。

「でも、あったかいご飯もお風呂も布団もないんだぞ? そんな状態で、君は生きていけないでしょう? 連動して研究も出来ないはず。それにもったいないよ」

「もったいない?」

「いつか文系も好きになるかもしれないのに。勉強しないのはもったいない。嫌いかどうかは勉強してから考えても遅くないでしょ」

「・・・面白いお兄さんですね」

「能天気だからかもしれないよ」

 だからこそ見えて来るものもあるってね。

「大丈夫、君にもその素質はある」

「それはなんかヤダ」

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