と天才は紙一重

カゲトモ

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「おっとだいじょう「うわぁぁぁっ!!」

 突然ぶつかった背中に声を掛けただけなのに、予想外の声量にこっちが驚く。真昼間なんだからそんな声出さないでっ!

「ちょ大丈夫?」

「ひっ、はっはいっだ、だいじょぶですっ」

 振り向いたのは黒縁の眼鏡が印象的な女の子だった。まさか女の子だったとは・・・叫び声から男の子かと。

「本当に大丈夫?」

 うんうん、と何度も頷いて“大丈夫”をアピールはしてくれるけどその表情は全然大丈夫ではない感じ。だってキョロキョロとしきりに周りを気にしているし、動きもなんか変だ。挙動不審とはまさにこの事だろう。

 一体に何しているんだ? 鬼ごっこの鬼から逃げているとか? 中学生になっても本気で鬼ごっこするとか、意外と今どきの中学生も可愛いところあるんだな。

「失礼な、こう見えて私、高校生なんですけど」

「あ・・・それはごめん」

 てっきりもっと子供なのかと。んで、一体ここで何をしているんだ?

「見て分かりませんか」

 いや、分かんねぇよ。

彼女は一瞬だけ視線を合わせて、また辺りをキョロキョロ。俺に聞こえない様に舌打ちをして(聞こえているけど)から言った。

「母から逃げているんです」

「え」

 中○生日記? なんてね。おしゃれとは言い難い服装の彼女はどうやら追って来ているかもしれない母親を警戒して不審な動きをしていたらしい。親子喧嘩でもしたの?

「喧嘩とかじゃなくて、その、家出? みたいな?」

「家出!? そんな軽装で?」

 所持品だってせいぜい財布とスマホくらいだろ。だって鞄一つ持っていないじゃないか。家出なめてんの?

「や、ちがっ、これは急いで出て来たから! 本当、嘘じゃないんですっ」

 眼鏡の奥の瞳でじっと見つめて言う。別に信じるも信じないも、どっちでもいいんだけどね。親子喧嘩で家出なんて青春してるなぁ、とかぼんやり思うだけで。

「何があったかは知らないけれど、親御さんきっと心配してるだろうから、暗くならないうちに早く帰りなよ。じゃ」

 俺はこれから仕事あるしね。本気で家出しないつもりなら、さっさと帰った方が良い。世の中物騒なんだから。

 つってても夕食までに家に帰るんだろうなぁ。学生の時の家出なんてそんなもんだよな。

 ぐきゅぅ。

 なんて彼女に背を向けた途端、こんなことって本当にあるのかよってくらいのタイミングで腹の虫が鳴いた。まじか。

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