第八十話「龍脈の扉」

 ステファンたちが洞窟をぬけるとそこには巨大な樹の森が待ちかまえていた。

 しかも上から光がやさしく降りそそいでいる。


「な、なんだ、ここは!?」

「洞窟の中、だよね、ここ」

 椿は上を見あげたが空がみえるわけでもなく、たしかにここは洞窟の中だった。

「どこから光がきているのかしら」

「……二人とも、なにかここ、来たことないか?」

 流が考えながら二人にいった。

 椿はうなずいた。

「じつは私もそれを感じていたの。ステファン君は?」

 ステファンもこの巨大な樹々が記憶にでてきたものだと確信していた。

「おぼえがあります。きっとこの先には……」

 流がうなずいた。

「池があるな。よし、進んでみよう」

 三人は森をすすんでいった。森の中心に近づくほど光が強くなってくる。

「あっ!」

 ステファンたちが進む先に光をはなつ池がみえた。光は池から天に向かってはなたれている。

「見て、龍鈴が!」

 三人の龍鈴が光りはじめた。それはまるで共鳴しているようだった。


 三人は池の前まできた。すると池の横から声がきこえた。

「ついにきたか」

 振りむくとそこには、木の枝の帽子をかぶった木こりのような男がいた。

「あなたは?」

 男は、ふふっとわらった。

「三人とも初対面じゃないぜ。まあ、記憶は消させてもらったがな」

 男は帽子をかぶりなおした。そのとき腕に光るものがみえた。

「木の龍鈴……。あなたは勒角さんですか?」

 ステファンが尋ねると、勒角がまたわらった。

「ああ。前回も当てたな、俺のこと。そうだ、紅蓮と同じ四人衆の一人、勒角だ」

 ステファンは一歩前にでた。

「勒角さん、この光が龍脈の力ですよね。ここから龍鈴に力が送られているんですよね」

 勒角は、静かにうなずいた。

「勒角さん、この光を止めることはできますか?」

「止める? 力をつかえなくするということか」

「ええ」

「なぜだ?」

「マジェスタを、紫電を、倒すためです」

 勒角はじっと少年忍者の目をみた。

「なるほど、紫電様にまでたどりついたのか。お前なりになかなか苦労したんだな」

 勒角は少し考えたうえで、また口をひらいた。

「この力の流れを止めるには、この力以上の力をこの『龍脈の扉』におくればいい」

「この力以上の力」

 忍者たちのつぶやきに、勒角はうなずいた。

「ああ。ちなみにお前たち三人が死ぬ気で力をくわえても全然足りないぞ」

「全然足りない……」

「ああ、俺の読みだとお前たちが二十人くらいいたらなんとかなるかもしれんな」

 勒角は暗に不可能といっていた。その言葉はなぜか自嘲気味にもきこえた。


 そのときだった。

 急に池が猛烈に光りだした。

 勒角がふりむいた。

「噂をすればお客様登場だ」


 ザザザザザブーーーーン


 猛烈な光は、ある形になっていった。

「マ、マジェスタ!」

 三人は身がまえた。

 轟々としぶきが舞う中、光は完全にマジェスタの姿をあらわしていた。

 光のマジェスタが口をひらいた。ステファンの錬のときと違い、光の声が脳に響いてくる。

「勒角、こいつらに要らぬことを教えたな。なぜだ」

 すごい威圧感だったが、勒角は怯むことなくマジェスタをみた。

「紫電様、復活されたあなたにここを守るように言われて三十年以上たちます。龍脈の力に満ちたこの空間では、龍鈴のおかげで老いもせず病気にもなりません。そして、死にもしません」

 勒角はぐっと眼光をつよめた。

「しかし、私は不老なんてまったく興味がない。しかし、そうまでしてこの場所を守るのは、あなたが平和な国をおつくりになるためでした。だが、最近のあなたの行動は少しちがうのではありませんか?」

「どこがちがうのだ。私が国を安寧な時代を築こうとしているのだぞ」

「紫電様、私は木の龍鈴の力で彼らの記憶を見ることができます」

 マジェスタがじっと勒角を見下ろした。

「……なるほど。この洞窟をあけたのはお前か」

「ええ」

 するとマジェスタの光がさらに強くなった。

「どいつも、こいつも、好き勝手なことを言うようになって。昔の恩を仇でかえすのだからな」

「昔の紫電様は『私の恩のために道を曲げてはならぬ』とおっしゃっていました。やはり私が知っている紫電様はあの火事の時に亡くなったのです」

「ふん。勝手にするがいい。しかし、この龍脈の扉はだれにも閉じさせはしないがな」

 マジェスタがそういうと同時に地面が揺れだした。


 ゴゴゴォー


 と地響きが起こりはじめている。

 上からパラパラと小石や砂がふってきた。

「まずい、崩れる。おい、逃げるぞ、はしれ!」

 勒角は忍者たちをうながした。

 一行は来た道を走りだした。

 池の光がさらに強くなってきた。

 次の瞬間、


 グウォォォォォォーー


 巨大な光が飛びだし、マジェスタがさらに大きくなった。

「紫電様はまだまだ大きくなるつもりだ! 洞窟が崩れる! とにかくいそげ!」

 忍者たちはまた長い洞窟をかけぬけた。

 背後からは轟音とともに岩が崩れてくる。

「急がないと、生き埋めにされるぞ!」

 忍者たちは力の限りに走りつづけた。

 しかし、崩れ落ちる岩のほうもどんどん近づいてくる。

 思わずステファンは印をきろうとしたが、勒角に止められた。

「だめだ、ここで無駄な力は使うな! とにかくはしれ!」

「あっ、出口がみえたわ、みんな、いそいで!」

 前方に外の光がみえてきた。

 迫りくる落岩。

「もうすぐだ、とべ!」

 ステファンたちは出口の光にむかってとびだした!


 ドドドドーン


 洞窟が完全に崩れおちた。

 四人は間一髪で外に飛びだした。

 待っていた猿飛たちは唖然としている。

「だ、大丈夫か? 何があったんだ? それにこの人、だれだ?」

 ステファンはすぐにたちあがった。

「猿飛さん、説明はあとでします。流さん、赤丸を都へ!」

「わかった!」

 流は口笛をぴゅーっと吹いて鷹の赤丸を都に急いでとばした。


 ゴゴゴゴゴォォォー


 ステファンは竜山を見あげた。

 竜山全体が震えるようにゆれている。

 やがて頂上付近が崩れ、そこから光が見えはじめた。


「マックス、やっぱり君の出番がきたよ。頼む、急いでくれ」

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