第八十一話「阿修羅城の秘密」

 そのころ都では、ベンが鼻歌を歌い義足でスキップしながら阿修羅城の庭にやってきた。


「マァ~ックス♪」

「どうしたんだよ、じいさん、鼻歌なんかうたって」

「お前がじいさん、と呼んでくれるときは機嫌がいいときだな♪」

「うるせい、じじい。どうしたんだって聞いてんだ」

「おぉ、そうじゃった。例の増幅器、直せたぞぃ」

 そういって背負っていた大きな箱をマックスに手わたした。

「あれ、渡したときよりデカくないか? それにまたデザインが……」

「はっは、気のせいじゃろう」

「まあ、あの天才科学者ウォールの手がけた発明品を再現するんだ。いくらじいさんでも同じものにはできないだろう」

「はっはっは、これは『ベンさんスペシャル』じゃ」

「『ベンさんスペシャル』ねぇ。名前だけは一人前じゃねぇか」

「それより、マックス、約束は忘れてないな?」

 マックスはギクッとした。

「あ、ああ、覚えているよ。花織ちゃんとチキン南蛮を食べるんだろ」

 ベンは顔を赤らめた。

「そうじゃ。わしはそのために寝る間も惜しんで頑張ったんだからな。それで、いつじゃ、いつじゃ、いつじゃ!?」

「えっ、そ、それは相手の都合を聞いたうえで。あっ!」

 マックスはベンの後ろの上空を指さした。

「こら、マックス、都合が悪くなったからって、今流行りの『あっ、怪盗夜ガラスだ!』なんて小細工にひっかからんぞ」

「ちがう、赤丸だ! 赤丸が飛んできた。じいさん、とうとう、あの準備だ」


 マックスとベンは、あわてて阿修羅城に入っていった。

 途中、松五郎に、準備だ!と叫ぶと、あわてて松五郎も城の警備兵たちに、準備だ!と叫び、自身もマックス達のあとを追いかけてきた。

 三人は阿修羅城を上り、ちょうど腹のあたりのところまでやってきた。

 しかし、途中の階段で、ベンはひざをついた。

「はぁ、はぁ、わしはもうだめじゃ。さ、先に行っててくれぇ」

「わかった!」

 マックスと松五郎は、ベンをおいてふたたび階段をかけあがった。

 自分を置いて走りさる二人をベンは恨めしそうにみた。

「ほ、本当においていくなよぉぉ」


 やがてマックスと松五郎は城の胸の部分までたどりついた。

 そこには、小さな部屋があった。

「今日はバカ兄貴のバカさ加減に感謝しないとな」

 松五郎は小部屋のイスに腰かけた。

 マックスも隣のイスにすわった。

 二人の前にはレバーやボタンが備えつけてあった。

「待ってろよ、ステファン! 松さん、記念すべき出陣の掛け声を言ってくれ」

 マックスの呼びかけに、松五郎は深呼吸をし、神妙な顔で椅子に座りなおした。

 そして手をあげてポーズを取り、大声でさけんだ!

「カラクリ魔人、阿修羅丸、発進!」

 掛け声と同時にマックスがレバーを動かしボタンをおした。


 カラコロカラコロッ カラコロカラコロッ 


 どこかでカラクリが動く音がしはじめた。

 その音はどんどん広がっていき、最後には城全体から巨大な音が響きだした。

 そして、次の瞬間


 ゴゴゴゴゴゴゴッ


 という轟音とともに、城が上に動きはじめた。

 そしてなんと城の下からは巨大な足があらわれ、城の側面からは腕があらわれた。


 ゴゴゴゴゴゴッシューーーッ


 大量の蒸気を吐き出し、ついに阿修羅城が立ちあがった。

「やったー!」

 松太郎とマックスは手をあげてよろこんだ。

「でも、松さん、『カラクリ魔人、阿修羅丸』ってダサくない?」

「こらっ! 今日この城が動くかもしれないからって、たまっている公務をほったらかして、一晩中考えたんだぞ!」

「わかったよ、将軍代行様から授かった有り難き御名前、しかと頂戴ちょうだいいたしました。ありがたやぁ、ありがたやぁ」

「マックス、ちょっとバカにしているだろう?」


 そんな会話をしているうちに、阿修羅丸の出発準備が完了した。

「ははっ、都は今頃騒然としているだろうな」

 松五郎が高らかとわらった。

 しかし、マックスの顔色がすぐれなかった。

「どうしたんだ、マックス。高いところは苦手か?」

 マックスは操縦席から下を見ながらいった。

「い、いや、松さん。この城って、都の真ん中に建てられたよな」

「ああ、そうだぞ」

 松五郎は素直にうなずいた。

 マックスが松五郎をにらんだ。


「どうやって、移動するんだよ! まわりは建物だらけで足の踏み場もねぇじゃねぇかよ! このバカ兄弟が!」



 結局、阿修羅丸は警備の者に先導してもらいながら、大通りを「カニ歩き」で進むという醜態しゅうたいをさらして、なんとか都の外にでた。

 しかし、そこからは速かった。

 山を飛び越えるように進み、あっという間に竜山に近づいた。

 しかし、二人は竜山の空に輝く巨大な光におどろいた。


「な、なんだあれは!」

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