第三十六話「カガク」
翌朝、外は穏やかに晴れていた。
ステファンと迅は、マックスから家にあるカラクリの説明を聞いていた。
どのカラクリも独創的で、驚きの連続だった。
「科学とはまた別の驚きだろう?」
「ああ、そうだね」
「カガク?」
迅は不思議そうにきいた。
「ああ、科学っていうのは、僕らの国で発展している学問で、自然のいろんなことを説明するために追及しているんだ」
ステファンの説明に、迅はぽかんとしている。
「たとえば、そうだなぁ、月の光は、じつは太陽の光が反射しているんだ」
「えぇっ!!」
迅は目が飛び出すくらいおどろいた。
「月は自分では光らないだ。だって、昼間の月は白いだろ? あれが本来の月なんだ」
迅の目が点になっている。マックスが面白がってはいってきた。
「他にはそうだな、『地球は丸い』」
「地球って、長老から聞いたことがある。僕たちが住んでいるこの国や君たちの国をふくめた全部のこと?」
「ああそうだ。でもな、地球は丸いから、ここからまっすぐ進み続けると、いつかはここに帰ってくるんだぜ」
しかし、迅は今度は驚かなかった。
「わかったぞ、マックスは私をはめようとしているんだな。地球が丸かったら、歩いているうちに空のほうに落ちてしまうじゃないか」
「俺も最初はそう思ったぜ、迅。でもそうじゃないんだぞ。それこそあの月のようにこの国も曲がっているんだ。海を見てみろよ。もしまっすぐだったら、空の上まで海がつづいているはずだろう?」
「……」
迅は腕をくんで考えこんでしまった。
三人のやり取りを横で聞いていたベンがこらえきれず笑いだした。
「ふぉっふぉっふぉぅ、迅の反応は正常だ。我々の国でもはじめは暴動や死人が出たくらいだ。まあよく考えてみるんじゃな」
そこへ集落まで朝食の買い出しに行っていたポポンが血相を変えてかえってきた。
「た、たいへんじゃ」
「どうしたんじゃ、ポポン。そんなに息をきらして」
「はぁはぁ、師匠、いま村の人から聞いたんじゃが、籠の番が『明日の夜、将軍の娘が鶴山城にくるそうだ。そこで天女の舞をみせるんじゃ』と言ってたそうだべ」
「天女の舞……」ステファンは息をのんだ。その言葉に嫌な可能性を含んでいたからだ。
「そうじゃ。斬鉄が忍の里に天女と知り、姫の前で舞わせるそうじゃ」
「エミーラ……! それじゃあ、やつらは忍びの里に!?」
ステファンは青ざめた。
隣で迅も顔色をかえた。
「……やばい、いまは流兄ちゃんも椿さんも任務で不在だ」
ステファンは立ちあがった。
「ベンさん、急いで帰ります」
ベンさんはうなずいた。
「わかった。わしらも準備をして忍びの里にむかう。あとで合流じゃ」
ステファンと迅、それに走れるまでに回復したムサシは里へいそいだ。
「くそぉ、バカ殿と斬鉄め!」
ステファンは恨めしく言いはなった。
「ステファン、それにここにきて将軍が関わっている可能性も浮上した」
「迅、その将軍っていったいどんなやつなんだい!?」
ステファンの口調も憤りがこもっている。
「今の将軍、
「羅生院神宗?」
「ああ、彼の祖父が七十年前に全国を統一して将軍になり、その後、大きな戦もなく平和なんだけどけど、今の将軍神宗は、欲が深いという噂だ。政治手腕はいまいちで、民を締めつけたりするので、民の反感も強まってきている。そのうえ、最近、幻
「幻斎……」
「ああ。たぶん、今回の件も羅生院家がかかわっているなら、幻斎が絡んでいる可能性がある」
「その、将軍の娘っていうのは?」
「たぶん三女の
「三女?」
「ああ。将軍には
ステファンたちは走りに走って、里への山道までかえってきた。
途中、鶴山城が横目に入ったとき、二人とも怒りの目でみすえた。
里への山道をのぼっていると、ワンッ、とムサシが吠えた。山道でなにか見つけたようだ。
「こ、これは!」
迅が指さしたところをみると、道には多くの足跡があった。大群が狭い山道をこじあけるように通っている。
「急ごう、迅!」
(エミーラ、無事でいてくれ)
ステファンは祈りながら山道をいそいだ。
昼前には里が見えてきた。
「あっ!」迅は思わず声をあげた。里の門が荒らされていたのだ。
里に着くと、家が焼かれた跡がいくつかある。
二人は、迅の家へいそいだ。
「かあさん!」
「エミーラ!」
しかし、家の中にはだれもいなかった。
二人は迷わず長老のところへむかった。
里の家々は、壊されて荒らされている。
二人は不安を抱えながら、カラクリ屋敷へいそいだ。
「迅、ステファン!」
カラクリ屋敷の外にいたアキに迅がさけんだ。
「かあさん!」
屋敷の外には、アキをはじめ、多くの里の者がいた。
「よく無事で帰ってきたね」
アキは迅を抱きかかえた。
その後、アキはステファンに向かって泣きくずれた。
「ごめんよ、ごめんよ、エミーラが……」
その言葉にステファンは雷を打たれるような衝撃をうけた。しかし、
「……斬鉄にさらわれたのですね」
と、意外に冷静な声がでた。どこか覚悟ができていたのかもしれない。
「迅、ステファン」後ろから声がきこえた。
長老が二人のもとへやってきた。よく見ると長老は傷だらけだ。その横では同じく傷を負った星丸や猿飛、湯吉たちも悲痛な顔をしている。
「あの子は、里の犠牲者がでないよう、自ら鶴山城へ向かう決断をしたのだ。中で話をしよう」
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