第十五話「帰還」
ステファンは、心地よい温かさと少し揺れている自分に気がついた。
(うわぁっ)
目が覚めると、ステファンはだれかの背中の上にいた。
「キガツイタカ」
そこには、笑顔でみつめる赤装束の姿があった。
「迅……? 湯吉!?」
自分を背負っているのが湯吉だと気づきおどろいた。
まわりには星丸、風太郎、それに雷太郎を負ぶっている猿飛がいる。
(あぁ、見つけてくれたんだ)
ステファンは湯吉にお礼をいって自分であるいた。
「ダイジョウブカ?」
星丸が声をかけてくれた。星丸は肩を負傷し、包帯を巻いていた。あのかまいたちの衝撃だろう。
まだあたりを警戒しているが、ステファンたちが無事だったのでほっとしたようだ。
迅の話でわかったのは、闇の一派はあのあと撤退し、全員でステファンと雷太郎を探し回ってくれたようだ。
迅が話すには、じつは以前まであの洞窟はなかったので、なんどか前を通ったのに気づかなかったそうだ。焚火を見つけたときは、本当うれしかった、と涙ぐみながら話してくれた。
一行は休憩をはさみながら歩きつづけ、山を出て、川を渡り、ついに里が見えてきた。
もう夜もだいぶん遅かった。きっとみんな寝静まっているだろう。
そう思っていたステファンだったが、竜神の滝にたどり着いたとき、滝の下で明かりがみえた。
見ると滝の広場では里の人たちが集まっていて、一行を見つけたとたん、歓声があがった。
そこにはエミーラとアキの姿もあった。エミーラはステファンの顔を見つけた途端、アキの胸に顔をうずめた。アキは優しくエミーラの肩を抱いて、ステファンたちに笑顔で手をふった。
里の入り口でみんなは一行を出迎えてくれた。
「オカエリ!」
「ヨクヤッタ」
という声が次々とあがった。
星丸は、長老の前に行き、丁重に月鈴草の入った箱を手わたした。
長老は星丸にねぎらいの言葉をかけた。
そこでまた大きな拍手と歓声があがった。
エミーラもステファンに真っ赤な目で声をかけた。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま、エミーラ。心配かけたね」
そういうとエミーラはまた涙を流して、ステファンに抱きついた。
アキも後ろで目を細めてみている。
ステファンは感謝の気持ちで、アキに頭をさげた。
アキはうんうんとうなずきながら、もう一人、立派な任務をやり遂げた我が息子の頭をなでた。
横にいた雷太郎がまた不機嫌そうにこのやり取りを見ていた。
そこへ秋然がやってきた。
「ジ、ジイヤ」
こちらをじっと見つめる祖父に、あわててステファンを指さし、
「コ、コイツハ、ニンジャノ ワザヲ ヌスンデ……」
パンッ!
秋然が雷太郎の顔に強烈な平手打ちをした。
「ジ、ジイヤ……!?」
雷太郎は頬を押さえながら祖父をみた。
秋然はステファンの前にきた。
ステファンの青い服は、もう元の色がわからないほどボロボロになっていた。
秋然はそれを見て一つ息をはき、ステファンに深々と頭をさげた。
そして、長老にあいさつをして、二人の孫を連れて帰っていった。
あとで聞いたところには、秋然はこの「月鈴の儀」で自分の孫たちの性根を鍛えなおしたいと思っていたそうだ。それで星丸に頼んで、通常より険しい道を行ってもらった。もしかするとそのままステファンもギブアップして里から出てもらえれば一石二鳥と考えたのかもしれない。
しかし、星丸の報告を聞くと、なんと孫たちはそのステファンに励まされ、命をまで助けられたというではないか。しかもわが孫はそのことを棚に上げてステファンをののしる。秋然は、孫たちが情けなく、何より自分の浅はかな考えに恥じ、通常よりも大きな試練を見事やりぬいたステファンに対して頭を下げるしかなかった。
あの礼には、そんな思いが込められていた。
その後、雷太郎はみっちりしごかれ、ステファンをののしることはなくなった。
長老は儀を締めくくるように大声でいった。
「皆の者、竜神様はこのステファンの勇志を認められた。ステファンとエミーラをこの里の住人とすることに異議はないな?」
その場で大きな拍手がおこった。
迅がステファンとエミーラにいった。
「オメデトウ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます