第十話「雷太郎と風太郎」
星丸は全員をとめた。この川を渡らなければ先にすすめない。
川はそんなに広くはないが流れが速く、深さもおそらく腰くらいにはなるだろう。
星丸は猿飛と相談し、すこし休憩をとることにした。
迅と湯吉がステファンのそばにきた。
「ダイジョウブカ?」
ステファンはニコッと笑ってうなずいた。
「アア、ダイジョウブ」
この言葉は迅に何度もかけてもらったので覚えたのだ。
ステファンは知っている単語を並べてきいてみた。
「カワ ワタル ドノヨウニ?」
すると湯吉が、おぉ、という顔して立ちあがった。
そして荷物からロープを取り出し、そして「ホッホーッ」と言いながらぐるぐる回して投げる仕草をした。
湯吉がやると、いつもコメディアンのショーのようになる。
集団からは、今日初めて朗らかな笑いがおきた。
しかし、せっかくの雰囲気に水を差したのはやはりこの人、雷太郎だった。
「オマエニハ ムリダ」
すると弟の風太郎もいままで笑っていたくせにあわてて「ソウダ、ムリダ」と兄につづいた。
迅が怒って立ちあがったが、星丸が手をのばしてとめた。
雷太郎はニヤリと笑みをうかべた。
「サスガダ ホシマル ジイヤニ イッテオイテヤル」
星丸は、それには無視して「シュッパツダ」と告げて立ちあがった。
猿飛もやれやれという表情で立ち上がり、荷物から先端にカギがついたロープを取りだした。
猿飛はロープを回転させて、向こう岸の木になげた。
シューッ
ロープは見事、木の枝に引っかかった。猿飛はそれをこちら側の木の上にくくりつけた。
ステファンは一連の動作を事も無げにこなした猿飛の手腕におどろいた。さすがは黒忍者だ。
まず星丸がロープをつたって向こう岸にわたった。星丸の動きも猿飛に劣らず素早く無駄がない。
次に、湯吉と迅がわたり、雷太郎、風太郎が手間取りながらもわたりきった。
猿飛は他の忍者が渡ったのを確認し、ステファンに「イケ」といった。
ステファンは木をのぼりはじめた。
しかし、懸命に手を伸ばすが他の忍者のようにスイスイとはのぼれない。
雷太郎と風太郎がバカにしたように笑っている。
なんとか登りきり、次はロープをわたりはじめた。下には急流の川がある。落ちないように必死にしがみつきながら少しずつすすんだ。
ロープを半分くらい来たとき、
「わぁっ」
ロープが急にゆれだした。
強風が来たのでもない。見ると、雷太郎が向こう岸からロープを揺らして笑っていた。
「ヤメロ!」
迅が雷太郎に飛びかかろうとした、そのとき、
「ウワァッ」
雷太郎の宙に体がういた。
あわてて振りむいたそのさきに星丸の姿があった。決して体の小さくない雷太郎を星丸は片手で持ち上げていた。
「ヤメロ、ホシマル! ジイヤニ イイツケ……」
星丸の顔を見た雷太郎はそれ以上言えなかった。そこには無表情の中に恐ろしいほどの冷酷な目が光っていたからだ。
星丸は持ちあげた雷太郎をそのまま川に投げこんだ。
バシャーン
「アニジャ!」
風太郎が戸惑いながらさけんだ。
溺れる雷太郎に「ヤレヤレ」と言って猿飛が川に飛びこんだ。
救い出された雷太郎を星丸が無表情に見くだした。
「ギヲ ジャマスルモノハ ユルサン」
殺意すら感じられる目に雷太郎は震えあがった。
ステファンもなんとか川を渡りおえ、忍者たちはふたたび竜山をめざした。
高く大きくそびえ立つ竜山はもう目の前だった。近づくにつれ険しい山からの威圧感は増していった。
竜山のふもとにたどりつくと、そこには二本の大木あり、神木として祀られていた。
星丸は、一堂に「レイ」と言って深々と一礼し、皆もそれにならった。
ステファンは竜山を見あげた。その圧倒的な威厳は、まるで「お前に来れるか?」と試されているようだった。
ステファンは、負けるものか、とぐっと見かえした。
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