第十一話「竜山の試練」
集団はついに竜山に足を踏みいれた。
星丸を先頭に、森で覆われた道なき山道を頂上めざしてすすむ。足場も悪く、見習い忍者たちも平地のような足取りでは進めなかった。
(これは体力を消耗しそうだ)
三十分ほどすると、見習い忍者たちも息を切らしはじめてきた。
それでもステファンも懸命についていった。
途中でまた神木があり、その先は分かれ道になっていた。
迷わず右手にむかう星丸に猿飛は少し驚いた様子だった。
猿飛は「オイ」と声をかけたが、星丸は「イインダ」とこたえた。
しばらく険しい山道がつづいた。
空からは鳥たちの声が聞こえ、木の陰からはリスやシカやサルなどが時おり顔をのぞかせる。
しかしステファンや少年忍者たちには自然を楽しめる余裕はほとんどなくなっていた。
「アニジャ、ツカレタヨ」
風太郎が弱音をもらした。
「ウルサイ、ダマッテススメ」
雷太郎も自分の疲れから言葉がきつい。
坂道を登りきると平坦な広場にでた。
しかし、そこは崖に閉ざされた行き止まりでもあった。
広場の奥には、巨大な神木が崖に並ぶように立っていた。
星丸はまた「レイ!」といって、全員に礼をうながした。
ステファンも見習い忍者も、この行き止まりからどうやって進むのかわからなかった。いや、わかりたくなかったのかもしれない。
しかし、現実は容赦なくやってきた。猿飛がロープにいくつかの結び目をつけて、巨木の大きな枝に向かって上に放りなげたのだ。
(やっぱり……)
見習い忍者たちの悪い予感はあたった。
星丸はロープを引っ張って固定されたことを確認すると、ロープをするすると登りはじめた。
軽々とした身のこなしであっという間に巨木の枝にたどりついた。その枝はちょうど崖の上まで伸びていて、星丸は枝をつたって崖に飛びうつった。
悲壮感ただよわせながら見ていた少年忍者たちに「ハヤクイケ!」と猿飛の檄がとんだ。
「ジャア イッテキマース」
湯吉はみんなを元気づけるように明るく言って登りはじめた。
次に迅があとをおった。
ステファンは、雷太郎と風太郎をみた。二人とも下を向いている。
それならば先に行こうとロープに手をかけようとすると、あわてて雷太郎が「マテ!」といってロープをとった。
三人が登っているロープはギィーギィーと音を立てていた。
ときおりロープが揺れると雷太郎は「ユラスナ!」とどなった。
風太郎は心配そうに兄たちを見あげていた。
猿飛が「サア イケ」とうながした。
風太郎は不安そうにステファンをみた。
ステファンは、ニコッと笑って「ガンバロウ」と声をかけた。
それを聞いた風太郎はホッとしたようにうなずいて、登りはじめた。
湯吉と迅が太い枝にたどりつき、ステファンを励ますように手をふった。
ステファンもそれにこたえ、ロープを手にとった。
ロープの結び目に手と足をかけながら、グイッグイッとのぼっていく。
体力が消耗した体にはきつかったが、ここで手を放すと命はない。ステファンは気力でロープをつかんだ。しかし、
(うっ、手がしびれてきた)
ステファンは手を休めるためにとまった。手がジンジンといっている。
(も、もうダメか)
そんな考えが浮かんだとき、ふと視線を外にうつした。
すると遥かに広がる大自然の景色が目に飛び込んできた。
(うわぁ、すごい)
自分の国のものとはまたちがう、なんとも言えない壮大な景色だった。そして山々の向こうには青く広がる海もみえた。自分たちが流れてきた海が。
(パパ、ママ、エミーラ、マックス……負けられない!)
ステファンはしびれがやわらいだ手にふたたび力をいれた。
上では迅と湯吉が心配そうにみていた。
ステファンはまた登りはじめ、ついに木の枝にたどりついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます