第40話 到着! 港町ナミル

 でも、なんでミーナがここに? もしかして、僕の事を見送りに?


「というわけで、共にテンドールまで共に来ることになった、ミーナだ。仲良くやれよ」


 え……? えええええ!?

 ミ、ミーナが一緒に!? え!?


「あ、あのアレンさん!? え、今なんて言いました!?」


「俺とネルスと共にテンドールに来ることになったミーナだ。仲良くやれよ」


「いや、ちょっ……え?」


 目を丸くする僕とは裏腹に、ニッコリと微笑むミーナ。

 どうやら嘘ではないようだ。

 ミーナが、僕と共に来てくれる? 

 共に戦い、共にゲルマを倒したミーナが一緒に!? 嬉しい。嬉しいけど。

 いや、でもなんで?

 そんな僕の疑問を察したのか、アレンさんはこう話す。


「マージルで大魔法使いシュウトが魔獣によって殺されただろ。当然、俺たちはそれについても追っているわけだ」


「追っている……といいますと?」


「マージル襲撃の真相。確かに、敵が街を滅ぼそうとしていたのも事実だ。だが、調べたところ、敵はハナから大魔法使いシュウト個人を狙っていた可能性がある」


「最初から……ミーナのお兄さんを殺すために、マージルを襲ったってことですか?」


「ああ。当事者のミーナの証言からも、その可能性が高い」


「うん。あの時、ゲルマは確かにこう言っていたの。本当の狙いは、シュウト兄さんの命だけだって」


 アレンさんがそう告げる中で、ミーナもそう口にする。

 じゃあ、マージルの町の襲撃は、シュウトさんを始末するために……?


「連中の狙いを把握する為にも、俺たちはシュウトの周辺についても調査をしていたわけだ。だが、その最中、テンドール城下町でシュウトの秘密研究所が発見された」


「シュウトさんの秘密研究所!? てか、秘密って!?」


「その名の通りだ。公には明かされていない秘密裏に作られていた研究施設。見つかった時はそらびっくりしたさ」


「うん。聞いたとき、私もびっくりした。まさか、テンドールに兄さんの研究所があっただなんて」


 え、じゃあミーナも知らなかったんだ。身内にも内緒にしていた研究施設。まさに秘密研究所だ。


「んで、その研究所を調べようにも、ロックされて入る事すらできないわけだ。だが……」


 アレンさんは、ミーナをチラリと一瞥してこう続ける。


「ロックを解除する方法は分かってな。一つはシュウト本人の指紋認証及びパスコード。そしてもう一つが、ここにいるシュウトの妹。ミーナの指紋だ。他は特に見当たらなかった」


 入るもう一つの方法がミーナの指紋!? あ、そうか。だから……。


「それで、ミーナも一緒にテンドールに来るってことですか」


「そー言う事だ。両親は魔法学校のトップだってのに、妹だけにしか入れないようにしているわけだ。大方、何かあるだろ」


 それでミーナをそこに連れて行って研究所を調べるってことか。でも、でもだよ……。


「そうは言いますけど……でも、ミーナは折角夢を追いかけていたのに」


 ミーナは町を出て、自分でいろんな世界を見ていろんな経験をして色々学ぶ。そうすることで、自分の夢を追いかける道を選んだ。それなのに無理やり連れていくのは……。

 そう思う中、ミーナは僕にこう話す。


「いいの。そういう事なら、私だって兄さんが一体そこで何をしていたのか知りたいし。それに、ディーフの副団長と、テンドールまで一緒に回れるなんて、それこそ貴重な経験じゃない? 何か掴めるかもしれないし」


「ミーナ……」


「それにね」


 ミーナは僕に向かって微笑みかける。


「ネルスの事、心配だし。もっと一緒にいたかったから……ね?」


 それを言った時のミーナは、ちょっぴり頬を赤く染めていた。


「んな!?」


 なっ……えええ!?


 バクンッ バクンッ っていう心臓の鼓動が、僕の耳元まで聞こえる。

 そ、それってもしかして……。一緒にいたいってもしかして……そういう!?


「い、いいやあ! そのっ! それは、物凄く嬉しいんだけど、でもそんな事突然言われても僕びっくりしちゃうっていうか! いやミーナが一緒にいてくれるのは僕も嬉しいし最高って感じなんだけど突然だから僕もびっくりでなんというかでもミーナがその気なら僕も真剣に考えて」


「ネルスの魔法、もっと見たかったから……。テンドールまで一緒に行けることになって嬉しいわ」


 ……へ?


「僕の……魔法?」


「うん。ネルスの魔法、一体どんな構造なのかなーって。やっぱり、最高の魔法使いを目指す身としては、どうしても気になっちゃうの。だから、一緒に行動出来て嬉しいわ」


「あ……ああ、うん……」


 なんだ、一緒にいたいって……そーいう。

 さっきまでの心臓の鼓動がものすごい勢いでどこかへ去っていくのを感じる。


「あ、でもそれ以上にネルスの事(退院明けだし怪我が盛り返さないかどうか)は心配だったから。一緒に行けることになって本当にうれしいわ」


「僕の鼓動が復活ーーーー!」


 純粋に旅立つ僕の事を心配してくれている。その事実は非常にありがたい。うん。

 ふっ、魔法が云々って言うのも、もしかしたら、照れ隠しなのかもしれない。

 そうだ。きっとそうに違いない。

 ふっ、やれやれ……。


「おい。バカやってねえでシャキッとしろ」


「ほぁーーー……」


「ま、というわけでだ。ミーナにも来てもらう事になった。お前ら仲良くやれよ」


「ほぇーーー……」


「おい、ネルス」


 ふっ、モテる男というものは、辛いものだ……。

 でも、そういう事なら、魔獣が襲ってきたりしたら僕がしっかりとミーナを守って……。

 そして……!



 ※ネルスの妄想です


「ステキ……。ステキよネルス……」 


「ふっ、ミーナちゃん。安心して。僕が君を守るよ。さあ、僕に身をゆだねて」


「うん……。ああ、ネルスの身体、温かいのね……」


「ミーナこそ……」


 ……的な!?


「デュフッ、デュフフフフフ……」


「「…………」」


 ふっ、やっぱり、モテる男というのは……辛いものだ。



「アケルさん、やっぱりネルス退院させるの早かったんじゃ……」


「否定はできないね……」


「やっぱりアイツ本当に犯罪者なんじゃねえのか……」


 ……ゴホン!


「と、とにかく、そういう事ならわかりました。一緒にテンドールへ行きましょう!」


「お、おう……」


「ま、まあそういう事だから……よろしくね。ネルス」


 そう言うと、ミーナは僕の前に手を差し出す。

 ふっ、そういう事なら……。


「ふっ、よろしく。ミーナ。だいじょーぶ。君の事は、僕がしっかり守るよ。だから、安心して僕に身をゆだねるんだ」


「え……」


 ミーナの手を握り、僕はめい一杯に微笑み、顔からフラッシュをまき散らす。

 ミーナを含め、3人が僕を悠々と眺めている。

 きっと、僕の魅力に脳殺されてしまったに違いない。

 ふっ、これが……モテる男の実力さ! はぁん!


 ミーナの手を握り、顔からフラッシュをまき散らし、そのままウィンク。ふっ、きっとこれで、ミーナを満足してあげれるに違いない。

 ふっ、やはり、モテる男って言うのは……辛いものだ。でも、それは仕方がない。それは僕がかっこいいからさ!


「え……あの、アレンさん……」


「はぁ。睡眠魔法-スリプト-」


 んな……!? あ……なんか……急に……眠くなって……。

 あ、ちょ……意識……が……。

 …………。


「ま、先行き不安かもしれねえが、なんかあったらコイツは俺がしょっ引く」


「ほっ。そうですか。それなら安心です。アレンさん」


「というわけで、世話になったな。アケル」


「いえいえ。とんでもない」


「ところでお前、隊には戻らないのか? 千人斬りの異名を持つアケルとあろうものが」


「アレン参謀。いや、今は副団長でしたか。僕は、こっちの方が性に合っているのでね。今は、リアサのMCが院長、アケルなのですよ」


「そうか。ま、お前の席はまだ空けてある。それに名簿にもまだ残っちゃあいる。なんかあったら来てくれ」


「ご謙遜を。何もない事を祈っていますよ」


「あの……色々とお世話になりました。アケルさん」


「うん。ミーナ君も、頑張って。何かあったらまたおいで。ネルス君をよろしく」


「はい! ありがとうございます!」


「それじゃ、行ってくる」


「いってきます。アケルさん」


「いってらっしゃい。アレン副団長、ミーナ君。そして……ネルス君。旅の御無事を祈っているよ」


 眠っている間、いつの間にか僕はアケルさんと別れ、そしてこの町、リアサからも離れていた。

 眠る直前の記憶は曖昧だ。なんだかちょっぴりいい気分だったような気がするけど。

 でも、遂にこの時が訪れた。


 クルミ村から転送され、流れ着いた場所。

 ミーナと共に、僕らの敵を討ち取った場所。

 レイタとホノカの死を受け止め、今後についての気持ちの整理をした場所。

 そして、魔獣と戦うために、アケルさんから授かったもの。魔法剣。

 この武器で、僕は僕の道を切り拓く。

 この剣で、魔獣と戦い、人々を守り、そして、探すんだ。あの二人を。


 僕がそう決意した町、リアサ。

 色々と思うところがあったこの町ともついにお別れ。

 その町を去り、僕らはテンドールに行くべく、隣の港町、ナミルへと移動する。


 そして……。


 港町ナミル。

 僕はここで再会を果たす。同時に、思い出すんだ。

 忘れてしまっていた、あの人の事を。



 


「おい、起きろ。ついたぞ」


「ん……んん?」


 低めのそんな声が耳に入り、僕はようやく目を覚ます。


「アレン……さん」


「さっさと降りろ、いい加減うっとうしいからな」


「え? ……あ」


 どういうわけか、僕はいつの間にかアレンさんの背中に担がれていた。

 一体なんでこんなことに!?


「あわわ! ごめんなさい!」


 急いで僕は起き上がり、地面へと足を付ける。

 けど、一体どのくらい眠っていたのか、というか、いつ眠ったのかはっきりと覚えていない。

 はて? いったい何が……?

 周りを見渡すと、こちらを眺めているミーナと目が合う。そうだ、ミーナなら何か知っているんじゃ!?


「あ、あのミーナ! いったい僕に何が」


「え!? あ、えっと……き、きっとまだ疲れが残っていたのよ。リアサのMCから出てネルス、すぐに倒れちゃって」


「そ、そう……だっけ?」


「う、うん! ホント、まだ病み上がりなんだから、気を付けてね!」


「うん……? ん?」


 なんか、頭がぼーっとする。いつの間に僕は寝たのか。というか、なんだか町並みも変わって……。

 広大な海に、そこに面した船着き場。数多くの船船。辺りに広がる市場。

 どう見てもリアサではない。というか、ここってもしかして……!?


「ふ、港町ナミルに到着だ。ここからテンドールへ向かう」


 アレンさんのそのセリフに、合点が行った。

 そうか、やっぱりここがナミル。港町ナミルだ。


「ナミルには、ディーフの拠点がある。各エリアに向かうのにナミルの経由は必須だからな。当然、ディーフ専用の船もある」


「おお! という事は、僕らはそれに乗って?」


「そういう事だ。それに、普通の船よりも早くテンドールにつく。今からそれに乗ってだな」


 と、アレンさんが言ったその時……。


「キキーーー!」


「へ……」


 かん高い謎の鳴き声が、突如僕の頭上から響き渡り、同時に僕の両肩に重い何かがのしかかる。そして、両肩を思いっきり掴まれ、そのまま僕は勢いよく空中へと持ち上げられる。

 隣にいたはずのミーナやアレンさんの姿が、なんだかどんどん小さくなって……って。

 ちょっ、えっ!? ええええええ!?


「ちょ、ちょっとネルス!?」


「お、おい! お前!」


 二人は何か叫びながら真下で、空中に持ち上げられた僕を追いかける。でも、二人が何を言っているのかはまったくもって聞こえない。

 代わりに、僕の頭上からキキーーー! という甲高い声が大きく響き渡る。

 あまりにも一瞬の出来事に、状況が上手く理解できない。けど、どうやら僕は何者かによって肩を掴まれ空中へと連れていかれているようだ。

 突然すぎて、僕らは対応が遅れてしまった。


「た、助けて下さーーーーい!」


 真下を見ながらそう叫んでも、二人にはきっと届いていない。真下が陸地から海上へと代わり、二人の姿がどんどん見えなくなっているから。

 どんどん距離を離されているのか、二人の姿はほとんど見えないくらいに小さくなる。

 そのまま僕は海のはるか上空を漂い、そして、海上にある一隻の船が視界に入る。


「キキーーーーー!」


「え! ちょっ、速い!? なんか急に速くなってない!?」


 僕を掴んでいる何かは、そう叫びながら、その船に向かって一直線に突き進んでいった。











「ネ、ネルス!」


 ほんと一瞬の出来事に、あっけにとられてしまったわ。何もできなかった。大きな何かによって、ネルスが空中へと連れ去られてしまった。

 状況が状況だけに、私と同じくそれを目の当たりにしたアレンさんは、大きく舌打ちする。


「ちっ、よりにもよって怪鳥ノックか! くそ、こんな時に!」


「え? えっと、怪鳥ノックって……」


「説明は後だ! 俺はディーフの支部に行って、あの怪鳥を追いかける算段を立てる! ミーナ! とりあえずお前はここにいろ! いいな!?」


「え、は、はい」


「ちっ、アイツ、いくら何でも色んなモノから狙われすぎだろ!」


 そう言いながら、アレンさんは海とは真逆の方角へと走り去っていった。

 はあ。でもまさかこんな事になるなんて。

 まだナミルに着いたばかりだというのにね。まあ、ここ港町ナミルにはディーフの支部があるから、何とかなるとは思うけど……。

 でも、アレンさんはネルスを連れ去ったあの大きな何かを知っているのかしら? 怪鳥ノックって言っていたけど。


「あーすんませーん。ちょいと聞きたいことがあるんですけどー」


 と考えている矢先、私の真後ろから低めの声でそんなセリフが聞こえてくる。


「あ、はい」


 私はすぐに振り向いた。でも、振り向いた瞬間……。


「んなっ!?」


「いやぁ、実は連れの魔物つかいとガキっぽい魔物一人が迷子に……。あ……」


 私は……いや、私達は思わず目を見開いた。

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