第35話 仇敵
外に出ると、やっぱり所々で魔獣が人々を襲っていた。悲鳴を上げながら逃げる人々を、魔獣は次々と襲っていく。
このまま放っておいたら、それこそクルミ村の二の舞だ。だからそうなる前に、結界を張っている首謀者を見つけて……倒すんだ!
目を閉じ、頭の中でソレをイメージする。右手が熱くなり、僕は右手を上空へと掲げる。
「魔勇の雷撃-ネルライマ-!」
右手に紫色の光が集い、それが一気に上空へと放出される。上空へと放出された紫色の光は、禍々しく蠢きだし、5つほどの稲妻となって方々へと降り注ぐ。
「「「ぐぁあああああああああああああああ!」」」
それぞれの稲妻が魔獣に直撃したようで、魔獣の悲鳴があちこちから響き渡ってきた。
僕の視覚外の魔獣に対しても、上空に放出された紫色の光自体が魔獣を発見した時に、魔獣に向かって追尾するようなイメージをアタマの中で強く抱いた。すると、その魔法は僕のイメージ通りにやってのけた。
うまくできるかどうかわからなかったけど、やってみるもんだね。というか、本当にできてちょっとびっくりだ。この魔法、もしかしたら僕が把握できていないだけで、まだまだ活用性があるのかもしれない。
よし、この調子で……。
「はぁあ! 凍えなさい!」
そう思い馳せている最中、MCのちょうど裏側の方から、聞き覚えのある声が響き渡ってきた。
「ん!? 今の声!?」
もしかして、MCの裏側に……!? というか、やっぱり戦ってる!?
だったら、なおさら一人にさせておくのはまずい。ここは一旦合流しよう。そして、一緒に戦おう。その方が強力できるし、助け合えるし!
僕はその声が聞こえてきたMCの裏側へと走っていく。
そして、やっぱりそこには……。
「くっ、囲まれた……」
5体の魔獣に囲まれた、黒い髪の少女が一人。
間違いない。ミーナだ。
というか、魔獣に囲まれてて危ない! 助けないと!
「ミーナ! 伏せて!」
僕はとっさにそう叫ぶ。するとミーナは、こちらの声に気づき、最初は目を丸くしたけど、状況からか、僕の言う通りにその場に頭を抱えて伏せ始める。
よし、今だ!
「魔勇の雷撃-ネルライマ-!」
頭でそれをイメージし、右手を頭上に掲げる。右手に紫色の光が集まり、それが上空へと放出される。そして、その紫色の光は、さっきと同じように、禍々しく蠢きだし、5つに分かれる。そして、光は稲妻となって、それぞれが魔獣に降り注ぐ。
「「「ギャァアアアアアアア」」」
ミーナを取り囲んでいた魔獣に、稲妻が直撃する。そして、全員が悲鳴を上げながらその場で崩れ落ちていった。
「え? いったい今のは……」
ミーナはゆっくりと立ち上がり、周りを見るなりそう呟く。取り囲んでいた魔獣が一瞬のうちに崩れ落ちて、困惑しているのかもしれない。
「ミーナ、大丈夫?」
僕はミーナの元へと駆け寄り、そっと手を差し伸べる。
「え、ええ。なんとか……」
今の魔法に驚いたのか、それとも僕がここにいることに驚いたのか、それともどっちもなのかは分からない。困惑しながらも、ミーナは僕の手にそっと触れゆっくりと立ち上がる。
「あの、もしかして今のって……君が?」
「うん。まあ、一応」
「そうなんだ。なんというか、凄いわね! 今の魔法? あんな魔法初めて見たわ」
「そ、そう……かな? あはは……」
やっぱり気になるよね……。僕の魔法。
でも、僕も自分で使っていて得体が知れなくて、どこまでできるのかは分かっていない。というか、いろいろ聞かれたらどうしよう。
何と答えたらいいのだろうか……。
「というか、君、怪我は? 身体は大丈夫?」
「あー、うん! お陰様で!」
まあ、お腹付近はまだ若干痛みは感じるっちゃ感じるけど、問題はない。右半身の痺れに関しては、外に出る直前にアケルさんに話して治癒魔法で治してもらった。クルミ村の時に、ホノカに直してもらった時と同じように。
「そう。それならよかったわ」
「あと、それから……」
昨日の事についてミーナに謝ろうとした、その瞬間……。
「クックック……。これはこれは何という偶然」
「「……っ!?」」
「まさか……こんなところでお二方とお目にかかれるとはねぇ」
聞き覚えのある不気味な声。それは、僕に恐怖と絶望を植え付けた声。
目の前に紫色の結界のようなものが地面に現れ、その中心から見覚えのある姿が現れる。
透明な球体が付いた杖。それを持つ大きな目玉の人型の魔獣。不気味な声。
僕は……いや。僕とミーナは、そいつの顔を見てこう叫ぶ。
「「ゲルマ!!」」
僕の故郷を襲い、大切な人を奪った仇。恐怖と絶望を植え付けた悪魔。それが、今ここにいる。目の前にいる。
どうしてミーナがその名を知っていたのか。そもそも、なんでミーナも叫んだのか。今までは分からなかったし、だから聞こうと思っていた。でも、この時、僕はなんとなくわかった気がした。
青ざめることもなく、顔を歪めるわけでもない。ただただ、静かに、拳をぎゅっと握る。そんなミーナのその動作は僕のそれと一緒だったから。
「クックック……」
ゲルマは杖を頭上へと掲げ、不気味に微笑む。すると、僕とミーナ、そしてゲルマ。ちょうど僕ら2人と1体を囲い込むかのように、白い光の壁が出現し、球状に覆いつくしていく。
白い光の壁。それはこの町を覆っている結界と同じもの。外部との接触を断つ恐るべき結界。僕とミーナはその結界によって閉じ込められてしまった。
「……準備は整った。今回は逃がしはしねえ。勇者の末裔、ここがテメエの墓場だ! ククク……クヒャーーーッハッハハハハハ!」
ゲルマは口調を変え、僕らを嘲笑うかのように高らかに笑っている。
逃がしはしない? 確かに、もう逃げれない。でも、それは僕の……いや、僕らのセリフだ。
「ゲルマ! お前だけは……」
「絶対に許さない!」
僕は左腰に備え付けてあるそれに手を添える。ミーナは懐から小さな杖を取り出す。
僕ら二人は逃げることも、命乞いをすることもしない。目の前にいるソイツをただただまっずぐ見据える。
僕の……いや、僕とミーナの敵は、今目の前にいる。
ここで逃げ出すことは絶対にしない。
コイツだけは……絶対に倒す!
そして、ホノカとレイタの仇をとる!
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