エクストラ

Unknown


「というわけで、行方不明になっている魔物は次々と魔獣になっているようです」


「……そうか」



 しんみりとした闇の空間。何も見えないその場所。


 私の後ろから籠った声で男と女の話が聞こえてくる。



「このすぐ近くの塔にも魔獣が現れた……という報告もあったのですが」


「……それは既に、メルノと、護衛の赤い髪の男が対処しに向かった」


「メルノと、あ、赤い髪の……?」



 そのワードが気になったのか、女の人は声を詰まらせる。



「……そうだ。その二人が向かったから問題ない。時期に戻ってくるだろう」


「そうでしたか。ところで、魔獣になってしまった魔物については……」


「……処分して構わない」


「そう……ですか。では、我らディーフが総力をもって魔獣殲滅に入ります。後、その中にバロック殿の魔物も含まれているようですが、遺品などについては」


「……それも処分しろ。あるだけ邪魔だ」


「えっ……」


「……聞こえなかったのか? 邪魔だから処分しろと言ったのだ」


「わ、わかりました」



 籠った声でも、その女の人が、バロックの態度に不審がっているのは伝わってくる。

 それもそのはず。自分の仲間に等しい魔物が魔獣になり、これから処分されるというのに、その男は遺品すらいらないとキッパリ答える。


 ためらいも、迷いも、悲しみも、何もなく。


 そんな人が魔物つかいの族長。不審に思っても仕方がない。



「あの、一つよろしいですか?」


「……なんだ?」


「その、お身体は大丈夫ですか? 数刻前までは何ともなかったのに、いったい何が」


「……エレカとやら。貴殿に答える義理はない。ギルド警察はギルド警察らしく、さっさと魔獣の処分をしてこい」


「……お気に障らせてしまい、申し訳ない」


「……まあいい。俺は暫く療養に励む。誰もこの家には入れるな。後、メルノを見かけたらこの手紙を渡しておけ」


「は、はい。分かりました。では、失礼します」



 その女の人の足音が遠のいていき、この部屋から去っていく。


 女の人がいなくなり、この空間には私とバロックの二人だけになる。



「珍しいな。バロックが身体に傷をつけるなんて」


「……少々油断しただけです。予想外の乱入もあったので」


「そうか。だが、敵が其方に傷をつけた事に変わりはない」


「……分かっております。まだまだは沢山あります。今回潰えた駒は格下の魔物にすぎません。残りはどれも優秀ですので、デイン様のお力になれるかと」


「そうか。それは楽しみだ」



 私がそう言うと、目の前に青白い光と共に、一匹の魔物が現れる。



「……、デイン様をお送りしろ」


「ゲゲェ……」



 目の大きいその魔物はバロックのその声に合わせて腕を前方に掲げる。


 真っ暗な闇の空間に、赤く光る結界が私の目の前に縦に現れ、それが私とその魔物を包み込む。

 ふと、コートに手を入れると、そのキーホルダーが手に当たる。



「くどい……」



 そのキーホルダーが目に入るたびに、頭が痛くなり、息が苦しくなる。


 何度捨てようとしても、何故か捨てることができなかったこのキーホルダー。果たして、いつか私に捨てることができるのだろうか。



「ギルド警察ディーフに……エレカ。メルノ。そして、赤い髪の男……か」



 それらのワードを耳にしてからも、どうも心臓が高鳴り、息苦しさを覚える。

 そして手の中にあるキーホルダー。いったい、私は何故これを捨てることができないのか。


 まあいい。息苦しいという事は、それだけ障害になる可能性のあるものという事。



「私の町を滅ぼし、母親を殺した者どもに復讐を」



「……心得ております。デイン様」



 そう、私の名はデイン。私はそれ以外の何者でもない。



 勇者の末裔……私は貴様を絶対に許しはしない。貴様は私が必ず殺す。



 私は絶対に復讐を果たしてみせる。


 そして全てを終えたら、きっとこのキーホルダーも捨てることができるはず。今はそう信じるとしよう。


 キーホルダーをポケットから取り出し、私は再び胸の中でそう誓う。


 やがて、私の身体は赤い結界に包まれ、この場から消えゆく。

 消えゆくその瞬間まで、私はそのキーホルダーを眺めていた。



 ……そのキーホルダーはあいも変わらず、火の玉の形で、そこに顔が描かれ、リボンが付いている。

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