第三章 魔物クエスト-勇者の記憶-
第15話 獄中の再会
『魔法使いの少女を手伝え。後は好きにしてもらって構わない』
どこかで聞いたセリフが、脳裏をよぎる。
オレが出会った魔法使いの少女。そいつはミーナで間違いない。
ミーナをどう手伝えばいいのか全然分からないまま、あの時、オレはミーナの家で飯を食っていた。
そして、そこでオレはミーナの兄、シュウトからこんなことを聞いた。
『1年前、まだミーナが魔法学校に通っていた頃、この町の隣にあるサンライトという町に魔獣が大量に現れて、ギルド警察の善戦もむなしく、サンライトの町は壊滅。多くの戦死者を出した』
そいつは、ミーナが部屋に籠るようになったきっかけの話。その過程で、オレはシュウトからおかしな聞いた。
一つの町が魔獣によって壊滅した。それも1年前に。
言うなれば、ただそれだけの話。だけどそいつは、オレにとっては他人事の話ではなかった。
『あれが、私が住んでいるサンライトの町だよ! 噴水とかが沢山あって綺麗なんだ』
あの絶景を見ていた時に、クレアが言っていた事を思い出す。
クレアやネルスと出会ったのは数日前。その時に、オレたちは確かにあの光景を見た。ずっと向こう側まで、見渡す限りに広がるこの世界を。テンドールという大きな城を。そしてサンライトというクレアが住む町を。
「どうなってやがる!?」
ミーナをしっかりと見送ったオレはすぐにそこから走り出す。
どこまでミーナを手伝えばよかったのか、まだ手伝った方が良かったのか、全然分からない。ただ、今はとにかく心の中がモヤモヤする。胸騒ぎがする。
今はこの違和感をどうにかしたい。いや、しなきゃいけない気がした。
サンライトが壊滅したのが1年前。綺麗な街並みだった、あの景色を見たのは数日前。
あの綺麗な町並みが、壊滅した町の光景だとは思えない。
じゃあ、一体あの綺麗な町並みは何だったんだ?
オレたちは、幻覚でも見ていたってのか?
おかしい、何かがおかしい。
もしも仮にミーナを手伝えっていう謎の命令が今もなお続いているんなら、おそらく今オレがやっていることは間違いだ。でも……
『うん! おいで! 来たらいつでも案内してあげるよ!』
明るいクレアの声が脳裏をよぎる。
ちょうどこのマージルの隣。そこにサンライトという町がある。いや、あったらしい。
1年前に壊滅したらしいその場所に、クレアが本当に住んでいるってんなら、そこに行けば会えるはずだ。だから、会って直接聞きだすのが一番てっとり早え。
1年前に壊滅したはずの場所。
一方で数日前に綺麗な町並みを見せていた場所。
その場所にクレアが住んでいると言っていた。そして、その町をクレアは「綺麗」と言っていた。
一体どっちが本当なのか、サンライトは本当に壊滅しているのか、それともクレアが言っていたことや、俺の見た光景をそのまま信じるのか。そこに行けば恐らくはっきりする。そして、本当にクレアがそんなところに住んでいるのか、色々わかるはずだ。
「目的地はサンライト。そこに行って、色々とはっきりさせる」
心の中に現れた何とも言えない違和感。それを何とかしようと、オレはマージルを出て、1年前に壊滅したサンライトという町へと向かう。
そして……。
「な、なんだ……? ここは……?」
目に入るのは、今にも崩れ落ちそうな、ひびの入った建物の数々。瓦礫の山。道のあちこちに広がる建物の破片。何よりも、崩れ落ちた看板が道端に転がっていて、そこにははっきりと「サンライトの町」と書かれていた。
「つーことは、ここがサンライトの町か」
こいつらが意味するものは一つだけ。どうやら、1年前にサンライトの町が壊滅したというのは本当らしい。
「クレアー! クレアーー! いたら返事してくれぇえええ!」
大きな声で辺り一面に向かってそう叫ぶ。でも、人らしい言葉の返答は一つも返っては来ない。
それどころか、人が住んでいる気配もなく、寧ろ、この場所にクレアがいるとも思えない。
そして、クレアが言っていた綺麗な噴水。その噴水らしきものは町の大きな道の真ん中で水一つ出すこともなく、所々が欠けて、崩れて、ただただボロボロに朽ちていた。
はっきり言うんなら、灰色、どこまで行っても灰色。崩れ落ちそうな建物や、廃墟。辺りに転がる瓦礫と破片、そして面影がまるでない朽ちた灰色の噴水。まともな人なら、これらを見て綺麗と口にすることはないだろうな。
だったら……
「クレア、お前はいったい……」
数日前にクレアは確かにサンライトに住んでいると言っていた。もしもオレがここに来たら、案内するとも言っていた。何よりも、この町がとても綺麗だとも言っていた。
クレアの感性が普通と少しずれているってんなら、それで無理やり納得することもできるんだが、ここには肝心のクレアの姿はない。それどころか、人が住んでいる気配がない。
じゃあ、クレアはオレ達に嘘を言ったってのか?
いや、とてもそうとは思えないし、思いたくもない……が、目の前にある事実を信じるんなら、そういう事になってしまう。
「…………」
どうしたものかと思い、たまたまポケットに手を突っ込むと、それが手に当たる。
「そういえば、そんなのももらっていたな」
ポケットの中にあるそれを手に取る。それは、クレアがオレとネルスに渡してくれた、剣の形をしたキーホルダー。確か、ソード君って名前だったか。
『ソード君とシールド君とマジックちゃんは、3人で一つのチームっていう設定なの。だから、これを私たちがそれぞれ持っていれば、例え離れていても、いつでもどこでも一緒だよ!』
「ふっ、いつでも一緒か」
本当にそうだといいんだけどよ。いざ来てみれば瓦礫の山とボロボロになった建物の数々。そして何よりも、肝心のクレアもここにはいないという事実。
「マージルに戻るか……」
これ以上ここには用はない。それよりも、マージルに戻って色々と情報集めるなりした方が良さそうだな。サンライト壊滅事件について。いや、それともミーナを追いかけるか?
「動くな」
と、そんなことを考えているその時だった。
突然と、真後ろからそんな低い声が聞こえてくる。
「ここは、立ち入り禁止地区だよ。一般市民は入ってはいけない」
同時に少し低めの女の声も聞こえ、さらにはオレの両肩から細い剣先がチラリと顔を見せる。どうやらオレの真後ろに二人、誰かいる。そしてかなり脅迫めいた事をしてきやがる。
いったい何者だ?
つか、ここって立ち入り禁止だったのか?
「そいつは悪かったな。ちょっと人探しで、ここまで来ちまったんだ。別に悪気があって来たわけじゃない」
「人探し?」
「ああ。ちょっと知り合いを探していてな。流れでここまで来ちまったんだ。それに、立ち入り禁止な場所だなんて知らなかったんだ」
流れというよりかは、最初からここに来るつもりではあったが、ここはあえて嘘をつく。そもそも、ここが立ち入り禁止だというのは知らなかったしな。
「……怪しい野郎だな。まあいい、とりあえず自分の身分を証明できるものを見せろ。見せてくれりゃ剣は降ろす」
自分の身分を証明できるものか。……んなもんねーな。
「そんなもん持ってねーし、あるなら是非ともこっちが見てみてえ。こちとら記憶がないもんでな」
「記憶がないだぁ?」
「ふぅん、ますます怪しいね」
「だな。もしかしたらコイツが行方不明事件の犯人かもな」
右の真後ろにいる男は、そう言いながら剣をそのまま構え、オレの前方へとゆっくり回る。
「マージルの魔獣襲撃と言い、もしかしたらコイツが裏で手を引い……っ!?」
でも、その男はオレの顔を見るなり目を丸くした。
「ん? アレン? どうかした?」
男の表情を見るなり、今度は左真後ろにいる女が剣を構えながら、オレの前方に回り込む。
「なっ……!」
そして、その女もオレの顔を見た瞬間に目を見開く。
「あ、あんたは……まさか……」
目の前で目を丸くしている男女二人。その二人はどちらも青い生地に白いラインが所々に入った衣を身にまとい、どちらも左胸には【DEAF】と描かれた紋章が付いている。
この制服って確か、ギルド警察ディーフの物だったか? つーことは、この男と女はギルド警察のやつか。……に、してもだ。
「おい、人の顔見て変な風に驚いてんじゃねーよ。なんか傷つくだろうが」
女も男も、オレの顔を見て変に目を丸くするのは一体どういうことだ。オレの顔になんかついているのか。
「す、すまない。で、でも……まさか……」
「ああ、こんなところで見つかるとはな……」
「んあ? いったい何言って……」
男と女は互いに顔を見合わせると、構えていた剣をそっと鞘に戻す。
なんだ? いったいどうしたってんだ。
「就かぬことを聞くけど、あんた、どこかの森もしくは山奥で、十歳くらいの女の子に出会ったことはない?」
「十歳くらいの女の子?」
それを言われて頭に浮かぶのは、先日出会ったとある子供。
「クレアの事か?」
「「……っ!!」」
オレがそう言うと、二人は再び目を丸くする。
この様子……。こいつらもしかして、クレアの事を知っているのか?
「なあ、もしかしてあんたら、クレアのことを知って」
「質問だ。お前はあの後、どうした? どこへ行った?」
オレのセリフを遮るように、男はそう問いかけてくる。あの後? あの後っていつの事だ?
「質問を変えよう。お前はその少女と別れた後、どこへ消えた?」
どこへ……消えた?
こいつ、一体何を……。
いや、待て。確かオレはあの後……。
ネルスとクレア達と別れた直後に、突然、目の前が真っ暗になって……それで、どうしたんだっけか……。
ああ、そうだ。
確か変な声が聞こえて、気が付いたらマージルに……。
あの声の主、確か名前は……。
「カネルって奴に、魔法使いの少女を助けろって言われて……。オレはそれで」
「なっ……お前!?」
「…………」
頭を色々と過らせ、色々と話そうとした最中、目の前にいる男は再び鞘から剣を抜き、女は目を閉じ、何かを口でぶつぶつと唱え始める。
「ぐっ……、なん……だ……? なんか……眠く……」
急激に、眠気がオレの身体を襲ってくる。
まさかこれ、魔法……なのか……。
「悪いね、あんたとはもう少し、じっくりと話をしなきゃいけないみたいだ」
「続きは城で話してもらおう。それも、テンドール国王の目の前でな」
二人の男と女のそんな声を耳にし、視界は真っ暗になりながらも、オレはそれについて考える。
ディーフの男と女で……クレアの……知り合い……。
コイツ……ら、まさか……。
「………」
オレがそれに気が付いた時、意識は完全に失っていた。
薄れゆく意識の中。
目の前に映し出されるのは記憶にない光景。
でも、そこでオレは誰かと話をしていた。
『ねえ、前から気になっていたんだけど、あんたってどうやって剣に魔法吸収してるわけ?』
『んあ? あー、アレな。そうだな……』
『うん』
『企業秘密』
『ええ!? 教えてよ』
『言えねえ。てか、言ったら殺される』
『殺されるって……ああ、なるほどね』
『……分かってくれたか』
『うん分かった。それなら、その技を教えてくれた本人には絶対に言わないから、教えて!?』
『ソラ、例えお前の頼みでも、それだけは言えねえ』
『えー、言わないよー。絶対言わないから……ねっ? 教えてっ!?』
『つか、なんでそんなこと聞きたいんだ?』
『うーん、やっぱり魔法をたしなむ以上、どうしても気になっちゃうのよねー。魔法使いの探求欲のサガってやつ?』
『なるほどな。ソラは魔法大好きだもんな。それを吸収するような奴がいるなら、そりゃ気になるよな』
『うん。だから、教えて!? ねっ!?』
『はぁ……ったく、絶対に誰にも言うんじゃねーぞ』
『うん! もちろん!』
『……気合いと根性』
『うん。……え? も、もしかしてそれだけ!?』
『うん』
『なっ……! ば、ばっかじゃないの!』
『ばかじゃねーよ。マジなの』
『え……本当に?』
『強いて言うなら、あとは、魔法を吸収してどう成し遂げたいか。何をしたいか。そう言う感じの強い意志』
『強い……意志』
『ま、それに十年以上、そいつと一緒に剣の稽古をしていたからな。そういう長年の積み重ねもあるんじゃねーの?』
『あるんじゃねーの?って……。もしかして、自分でも仕組みをよく分かってない?』
『ぶっちゃけ、よくわかってない』
『はぁ……。あんたに聞いた私が馬鹿だった』
『なっ!? そりゃないんじゃねえの!? こちとら口止めされてたんだけど!?』
『うっさい! 仕組みをよくわかってない時点で知らないも同然よ!』
『ええ……』
無茶苦茶言ってくる少し口調の強い女。ソラと呼ばれるそいつの事は、正直誰なのか分からないし見覚えもない。
でも、そいつを見ていると、何故か懐かしく感じる。
心臓の動きがゆっくりになって、心が落ち着く。
いったいこの人は何者なんだ?
『でも、強い意志っていうのはちょっとわかるかも……』
『そうなのか?』
『うん。私もね、魔法使う時は、ありったけの願いを込めるから』
『ありったけの願い? 魔力とかじゃなく?』
『魔力も確かに使うよ。でもね、それ以上に私は魔法を使う時に願いを……自分の想いを込めるんだ』
『自分の想い……か』
『人を助けたい。道を切り開きたい。誰かを守りたい。魔法を使う時、私は、そんな想いを込めるんだ。そしたら、魔法もそれに応えてくれる。……そんな気がして』
『…………』
『あ……。ご、ごめん。変な話しちゃったよね。今のは忘れて……』
『いや。全然変じゃねえよ。むしろ、今ので合点がいった』
『えっ……?』
『道理で温けえわけだ。ソラの魔法は。温かくて優しい。ソラの魔法を吸収して剣に力を込めるとき、そんな気持ちが伝わってくる』
『…………』
『ソラ?』
『ありがと……。そんな風に言ってくれる人、初めてだったから……。その、嬉しい』
『そーかい。でも、それだったらオレもそうなのかもしれねえな』
『え? 何のこと?』
『さっきの強い意志の話。オレも、強力な魔法を吸収するときは、気合いと根性もそうだが、それ以上に、この魔法を吸収して、魔獣を倒して、道を切り開きたい。誰かを守りたい。そう思うからな』
『そっか……。そうだったんだ。じゃあ、きっとその強い意志が、そう思ってくれる優しい想いが、応えてくれているのかもね』
『ああ、違ぇねえや』
『じゃあきっと大丈夫ね』
『ん?』
『私の想いとあんたの想い。それが合わされば、きっと誰にも負けない。魔王だって、きっと敵じゃない』
『ソラ……』
『今は真っ暗かもしれない。でも、それは必ず明ける。それが明けたら、そこには暗闇なんて一つもない、きれいで透き通った光で満ち溢れていて、そして、優しい色のお空が顔を出してくれる。辛くても、怖くても、不安でも、それでも諦めなければ……信じ続ければ……きっと、優しい希望が現れる。私はそう信じてる』
『そっか。ああ、そうかもな』
『大丈夫。私達ならきっと……。だから勝とうね。絶対に』
空のように青くて綺麗な髪の色。誰なのか全然思い出せないその人は、オレの目の前で、優しくそして元気づけてくれるかのように、微笑みかけてきた。
『ゼロ、あんたは私が守る。私の魔法で絶対に守る。だから……』
その人がそう言った途端、映し出されるその光景は暗転し、場面が一気に切り替わる。
目の前に映し出されるのは、4つの屍。泣き崩れる一人の男の姿。
そして……。
『その力とあんた自身の力で、私の事……。いや、私たちの事、守ってね……?』
その人のそんな言葉を思い出しながら、その人の屍を見て、呆然と立ち尽くす……オレの……姿…………!?
「……っ!?」
目を覚ますと、身体全体が熱くなって、心臓がバクバクと激しく鳴っている事に気が付く。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
額からは汗が大量に流れ、それがゆっくりと両耳に落ちていく。
見知らぬ床の上。見知らぬ部屋。そこでオレは意識を取り戻した。
「ただの夢……には思えねえな」
今の光景はなんだ?
一体いつ見た記憶だ?
あの4つの屍はなんだ……?
夢にしてはあまりにもはっきりとしていた。まるで本当にその場にいたかのような感覚だ。
転がっていた4つの屍。泣き崩れる一人の男。それらを思い出すだけで、胸の奥が締め付けられるように痛くなる。息が苦しくなる。
それに、最近出会った魔法使いのミーナとも違う、別の魔法使い。青い空のような髪の色の女の人。
だが、オレはその魔法使いには会ったことがない。少なくとも記憶がある中では。
だとしたら、あの人は記憶を亡くす前のオレの知り合い……なのか。
「…………」
どうしてだろうな。あの女の人の事を思い出すと、懐かしさと同時になんだか少し寂しさを覚える。
一体、あの人は誰なんだ?
いや、それ以上にオレは誰だ?
何者なんだ?
「……ダメだ。やっぱ思い出せねえや」
自分で自分を問いかけても何も出てこねえ。
何かを思い出そうとしても、頭の中で霧がかかったかのように、何も思い出せない。今見た夢の光景で精一杯だ。
「はーあ……」
分からなさ過ぎて、思わずため息が出てくる。
そういえばあの女の人は、オレの事をゼロって呼んでいたな。だとしたら、もしかしたらそれがオレの……。
「おっ、気が付いた~?」
そう考え巡らせているうちに、隣からそんな声が聞こえる。上半身を起こすと、そこには一人の少女が壁にもたれるように座っていた。
「目を覚まさないからこのまま寝たきりなのかなーって思ったよ~」
「…………」
緑色で短い髪。小顔で背も150センチくらいの小柄な少女。そんな子がオレが起きたのを確認すると、ニッコリと笑みを浮かべた。
ただ、一つ気になることが。
「んーっと、あんたは? つーかここはどこだ?」
目が覚めたはいいが、ここはオレの目がおかしくなければ、鉄格子によって閉ざされ、光がほとんど当たらない密閉空間。冷たい床に冷たい壁。じめじめとした場所。つまり牢屋ってやつだ。なぜかオレはこの中にこの少女と共に閉じ込められている。しかも、持っていた荷物や剣もすべてなくなっているし。いったいどうなってんだ……。
「ふっふ~ん、ごもっともな質問どうも!」
その少女はニッコリと笑うと、右手を右目に近づけ、肘を水平にする。そして、手の形をピースにし、なんだかアイドルのようなポーズをとる。
「アタシの名前はメルノ! 魔物つかいやってま~っす!」
「魔物……つかい!?」
『えっとね、それで、魔物つかいっていうのは、魔法か何かを使って、魔物を目の前に呼び出したりする、すごい人たちのことなんだー』
前にクレアが教えてくれたそのセリフが頭の中を過る。
「にっしっしー! 魔物使いを見るのは初めてっていう顔をしているね~!」
メルノと名乗った少女は手を降ろし、にやにやと笑みを浮かべた。
「んなっ、なんで分かった!?」
「だーって、めっちゃ目見開いていたし」
「……そうだったか」
言われるまで、自分でも気が付かなかった。
いや、まさかこんな短期間で、前にあいつらが話してくれた魔法使いに続いて、魔物使いにもお目にかかれるとはな。正直それで結構驚いた。自分でも目が見開いてることが分からないくらいに。
「そして! ここはこの国の中心にして頂点! テンドール城内!」
「テンドール!?」
「の、地下にある、まあ見ての通り牢屋ですハイ!」
「やっぱり、そうだよな」
鉄格子にコンクリート作られた壁に覆われた密閉空間。それが牢屋じゃないのなら何だってんだ。つか、なんでこのメルノって人はこんなに元気なんだ? ここ牢屋なんだよな?
でも、ここがテンドールの城の中か。自分の事を調べるためにも、いつか行こうと思っていたテンドールの城。まさかこんなにも偶然に来ることになるとはな。
「んで、それでオレはなんでここ」
「キミがここにいるのはとある理由でギルド警察ディーフに連れられてきたから!」
「話早えな、おい」
「ふっふ~ん! そりゃ眠った状態でここまで連れてこられたら、そりゃあ誰だって気になるっしょ~!?」
「まあ、確かにそうだな……」
メルノという少女はガンガン話を出してくる。
何つーか、オレがこれまで出会ったネルスやクレアみたいな純粋な子供や、ミーナみたいな真面目そうなタイプとは違って、随分と元気な奴だな。
「それでね! キミをここに連れてきた目的というのは……」
「それは、私が直接話そう」
そう言いながら、コツコツと歩き。オレ達のいる牢屋の鉄格子の目の前に一人の女が立ち止まる。そいつは、青い生地に白いラインが所々に入った衣を身にまとい、どちらも左胸には【DEAF】と描かれた紋章が付いている、今では見覚えのある女。
そして、その女はオレが持っていた荷物と剣を携えていた。
「目が覚めたようだね。というか、こうして会うのはかなり久しぶりになるけど、私の事覚えているかい?」
「…………」
その人は、サンライトの町でオレを眠らせてそのまま気を失わせた張本人。
赤くて長い髪にキリっとした目。白い肌に整った顔。そしてギルド警察ディーフの制服。女性にしては少しだけ低めの声。それはネルスやクレア達と共に、あの山奥で出会ったとある人物を連想させる。
だが、オレが覚えているその人はもう少し背丈が小さかった。でも、目の前にいるその人はもっと身長が高い。
「おいおい、一体どうなってやがる……」
たったの数日だぞ。たったの数日でこんなに背丈が変わるわけがねえ。いや、でも……。
「ギルド警察ディーフの副団長。確か、エレカだったか?」
オレがそれを口にすると、その人は不敵に微笑んだ。
「ふっ、半分当たり。でも半分ハズレ」
半分ハズレ? いったいどういう事だ?
「1年前に亡くなったディーフ元団長のレアーナさん。私はその後を継いだんだ。だから、副団長じゃなくて団長。ディーフの団長、エレカだ」
「んなっ……!?」
ギルド警察ディーフの団長エレカは、オレにとって衝撃的な事実を発した。
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