第5話 探索。そして襲撃

 そして翌朝。


 真っ暗な闇は過ぎ去って、代わりに空には温かい光が顔を出した。

 魔獣に襲われることもなく、何事も起きずに、僕らは無事に朝を迎えることができた。


 昨夜のカレーの残り(クレアのお母さんの分)をありがたくいただき、片付けも済ませた僕たち3人。

 ちなみに僕の腕や足は、薬が効いたのか、おかげさまでほぼよくなっていた。


 今日は林間学校最終日。


 本当なら、すぐにでもみんなのところに戻った方がいいんだろうけど、でも今はそのつもりは一切ない。



「本当に、いいの?」


「ここまで付き添ったんだ。最後まで突き合せろ」


「クレアのお母さんに一目でも見ないと、気が済まないよ」



 クレアの問いに、僕も赤い人もきっぱりとそう答える。



「ありがとう。二人とも」



 クレアはそう言うと、嬉しそうにクスっと笑った。



「それじゃ、行こう。クレアのお母さんを見つけに」



 僕がそう言うと、クレアも赤い人もこくりと頷いた。


 こうなったら、クレアのお母さんの見つけるまでは絶対帰らない。

 助けてくれた人を放っておくのは気が引けるというのもある。

でも、それ以上に僕自身が助けたいんだ。


 それにこれ以上、クレアの悲しい顔を見たくない。

 


絶対に見つける。

そう心に誓って、僕とクレアと赤い人の3人は、このキャンプから出発した。



「そういえば、赤い人」


「なんだ?」



 そして山道を歩いている最中、ふと気になった事があって僕はこう尋ねる。



「記憶の方はどうですか? 戻りました?」



 赤い人はゆっくりと首を横に振る。



「全然。いまだに名前すらわかんねー」


「そうですか」



 じゃあ今後も赤い人って呼ばなきゃだね。でも、記憶ってどうやったら元に戻るんだろう。

 やっぱり、時間がかかるものなのかな。



「赤い人って、ちょっと不思議な魅力があるよね」



 僕がそう考えていると、クレアはそう口にした。



「んあ?」


「言動が粗々しかったり、記憶がないのに、変なところだけ覚えていたりとか、よく欠伸とかしてめんどくさそうにしたりとか」


「あー、うん。確かに」


「はいはい、すんませんね。なんか」



 赤い人はそう言いながら、髪をわしゃわしゃとかき乱した。



「ふふっ。なんか、こういうところはちょっと不良っぽいなーって」


「あーもう、いいだろ別に。んなこと言われてもどうしようもねえよ」



 まあ、突然性格直せとか言われても、難しいよね。



「ううん。違うの。赤い人はそんな感じの人なのに、昨日の晩とか、とてもいいこと言ってくれたから。やっぱりそこはかっこいいなーって」


「それ僕も思った。たまに見せる真っ直ぐな目とかも、なんかかっこいいなーって」


「うん! わかる! 逆に記憶がないっていうのもいいよね! ホント、赤い人って不思議な人だよね!」



 僕とクレアがそう話していると、赤い人はさらに髪をわしゃわしゃとかき乱した。



「お前ら、オレをけなしてんのか、褒めてんのかどっちなんだ?」


「うーん……」


「どっちも?」


「あーーもう、すんませんねこんな性格で! 褒めてくれてどうもありがとうございましたっ!」


「「あははは!」」



 子供二人に色々言われて本気になる赤い人に、思わず僕らは笑ってしまった。



「ったく、下らねえ話してないで、さっさと母ちゃん見つけんぞ」


「うん!」



 赤い人を先頭に、僕らは一塊になって山道を歩いていく。



「ちなみに、クレアの母さんがどこに向かったとか、心当たりとかはねえの?」


「うーん、一応、ネルス君のお友達を探しに出ていって、そしてついでに魔物の生態系の調査をするって言っていたから」


「ならネルスの友達がいる場所に行けばなんかわかるかもな」


「うん。あ、だったら、ネルス君はそこでみんなに会えるから、なんならそこでお別れ」


「いや、そうはいかないよ」



 友達がいるところ。

 それはつまり、僕が本来この3日間を過ごすはずだった場所。そこに行けば、クレアのお母さんの情報もわかるかもしれないし、僕もみんなに事情を話せる。


 僕からすれば一石二鳥だ。でも、そうはいかない。



「クレアのお母さんを一目でも見ないと気が済まないよ。たとえ、僕が学校のみんなと再会できても、僕だけはここに残る。クレアのお母さんを見つけるまではね」


「ネルス君……」


「んじゃ、オレは記憶が戻ってもクレアの母ちゃんを見つけるまでは付き添うか。こんな山道に女の子一人残していくわけにはいかねえ」


「うん! クレアのお母さんの無事が確認できるまでは、僕らは一緒にいるよ!」


「二人とも……」



 クレアはいったん足を止め、僕らに向かってペコリと頭を下げた。



「本当にありがとうね。私、二人に会えてよかった」



 クレアにそう言われ、僕と赤い人は思わず顔を見合わせる。僕らは思わず、ほっぺを緩めた。



「ところで、なんか目の前で、道が二手に分かれているんだが?」


「え? あ、本当だ」



 今までは一本の若干狭い道を進んできたけど、目の前で二手に分かれている。

一つは右に。そしてもう一つは左に。

 一応、看板もあるんだけど、大分古い看板なのか、文字がすっかり霞んでしまっていて、何が書かれていたのが分からない。



「えっとね、たぶん、この道のどちらかが林間学校の宿泊施設になっていると思う。お母さんは今来た道を歩いていったはずだから」


「そっか。そしたら、この道のどっちかに行けば……」


「だな。どっちに行くよ?」


「うーん……」



 右に行くか、左に行くか。迷うところだけど、まあ進んで何もなかったら引き返せばいい。ここはクレアの判断に任せよう。



「じゃあ、こっち!」



 クレアが指さしたのは左側。僕らは左側の道を進んでいった。





 そして左側の道を選んで早十数分くらい経った頃。



「周りが草木で何も見えませんね」


「あぁ、そうだな」


「うーん、もしかして道間違えちゃったのかな」



 一応ここは上り坂になっていて、その道を進んでいく僕たち3人。でも、宿泊施設なんて全然なさそうで、見えるのは草や木だけ。それ以外は何も見えない。ずっと道が続いているだけだ。



「でも、魔獣とかがいなさそうでよかったかな」


「うん。でも、今後出くわすかもしれないから、油断はできないよ」



 確かにクレアの言う通り、今のところはまだ何とも出くわしてはいない。


 でも、魔獣どころか他の生き物とも出会わないのは少し妙にも思えたり。ほら、先日なんて、僕のリュックを野犬に盗まれたくらいだし。

 それに、クレアのお母さんはこの山に生態調査に来たらしいし。生き物が全然いないのはちょっと不思議だ。


 うーん、偶然かな?



「どーするよ? 全然宿泊施設なんてなさそうだが、引き返すか?」


「あれ? ……あ、ちょっと待ってね」



 クレアは立ち止まると、指を口に当て、何か考え事を始めた。

 何か思い当たることでもあるのかな。



「そういえばお母さん、この前、この山には見晴らしのいい丘があるって言ってた」


「丘?」


「うん。確か、宿泊施設とは反対側にある場所だけど、素敵な場所だから人も結構集まっているって」



 宿泊施設とは真逆での場所で、人も集まる丘。

 という事は、そこに行けばもしかしたら誰かいるかもしれない。


 クレアのお母さんがいなくても、他の人から話を聞くことくらいならできるかも。



「せっかくこっちの道を歩いてきたわけだし、そっちにもいってみます?」


「まあ、オレは構わねえけど。でも、クレアはどうなんだ? 母ちゃんが宿泊施設に向かったってんなら、こっちは逆の道っぽいし、今すぐ引き返すってのも手だが」



 赤い人がそう聞くと、クレアは首を横に振った。



「このまま、こっちに進んでみよ。見晴らしのいい場所だったら、他にも行けそうな場所が分かるかもしれないし、もしかしたら、お母さんもいるかもしれない」


「そーかい。それなら、クレアの指示に従うとしようや」


「そうですね」



 あくまでも僕たちはお手伝い。とはいえ、見つけるまでは続ける。

 クレアがそういうのなら、従うまで。



「あ、ネルス君、赤い人、身体とかは大丈夫?」


「オレは特に問題ねーよ」


「僕も何とか大丈夫。クレアたちの看病のおかげでだいぶ良くなったからね」



 僕らがそう答えると、クレアはほっと息をついた。



「よくなってくれて、本当によかった」


「あとは、クレアのお母さんを見つければ万事解決だね!」


「そーだな。んじゃ、とっとと進もうぜ。もたついてっと、また日が暮れちまうぞ」



 まあ、まだ朝なんだろうけど、赤い人のいう事も事実だ。

この山の中を探し回るとなると時間だってあっという間に過ぎてしまうかもしれない。だから、急がないとだね。


「それじゃ、進もう」


「うん!」


「おう」



 僕らは再び歩き出す。長い登り路だけど、少しずつ少しずつ登っていく。


 途中で疲れた時とかはさすがに止まって、休みもした。その時は、キャンプから持ってきた水筒で水分を補給もした。


 その調子でどんどん登って行って、そして、ついにそれが見えた。



「おぉ……」


「これは……!」


 そこには、残念ながらクレアのお母さんらしき人の姿はなかった。

それどころか、他の人の姿もなかった。


でも代わりに、草木しかなかった道が晴れ、広々とした世界が僕らの視界を一気に包みこんだ。


 赤白くて明るい太陽が、僕らを照らし、僕らにその世界を見せる。

 青い空に、白い雲。広々とした緑の大地。その果てに見えるのはどこまでも続いていそうな空よりもずっと濃い色をした青い海。

 そして、何よりも……



「赤い人、あれを見て。あれが、私たちが住んでるこの国の一番の都市。テンドール城とその城下町だよ!」


 緑色の大地と、青い空の狭間に、大きくて立派なお城が、僕らを圧巻する。そして、その周辺には、たくさんの建物が並ぶ街並みが姿を見せていた。


 ここの場所は間違いなく、クレアの言っていた見晴らしのいい丘。

 でも、これは見晴らしがいいなんてものじゃない。

 まるでこれは、この王国を、この世界を映し出すスクリーンだ。



「これが、オレたちの住む世界……」


「うん! 実はね、私、この景色を見たことがあったんだ」


「え? ええええ!?」



 初めてじゃなかったんだ……。

 でも、そしたらなんで知らないそぶりを見せたんだろう?



「私のお母さんの手がかりが見つかるかもしれない。そうも思ったよ。でもね、それ以上に、ここまで協力してくれたネルス君に、昨晩、励ましてくれた赤い人に、この景色を見せてあげたかったの」


「クレア……」


「ありがとね! 二人とも! この景色は、私からのお礼です!」



 クレアはそう言うと、ニンマリと微笑んだ。

 お母さんが見つからなくて、辛いはずなのに、そんな中で僕らのことを気遣って?



 クレア、なんていい人なんだ……!


「どう? 赤い人。この景色を見て、なんか思い出した?」


「…………」



 赤い人は、心を奪われたかのように、その景色をじっと眺めていた。

 瞬きをすることなく、じーっと。じーーっと。


 そして、赤い人はこう口を開いた。



「この景色を見ても、何も思い出せねえ。思い出せねえんだよ……」


「赤い人……」



 そっか……。

 まあ、そんな簡単に思い出せたりはしないよね……。



「そ、そっか。まあ、でもゆっくり思い出していけば」


「でも……!」



 赤い人は、その景色を見るのをやめ、僕とクレアに目を向けた。



「記憶があるとかねえとか、そんなもん関係ねえ。ただただ、この世界を見て回りてえ。そうは思った」



 赤い人はそう言うと、ニィって微笑んだ。



「こんなに広かったんだな。この世界は」


「うん! いっぱい、いーっぱい! 沢山の物があるよ!」


「人や魔物。この世界では、たくさんの生物が生きているんです。この、広い大地で」


「そっか……」



 赤い人は、再びそのスクリーンへと目を移した。

 そのスクリーンは、変わることなく、この世界を映し出している。

 それを見ながら、赤い人は再び口を開いた。



「オレは、この世界を見て回りてえ。記憶あるとかないとか、そんなもん関係なく。ただただ、この世界を知りてえ。知って、オレが生きてる意味を、見つけたい」


「赤い人……」



 そっか、それが赤い人の夢なんだ。だったら……。



「じゃあ、その時は、僕も一緒に行ってもいいですか?」



 僕がそう言うと、赤い人は目を見開いた。



「ネルス、お前……」


「今まで僕は、小さな村で生きてきました。その村も確かにいいところだけど、でも、この景色を見てたら、なんだか、今まで見てきた世界がちっぽけな感じに思えてきちゃって」



 今まで僕は、ギルド警察があこがれだった。魔獣から人々を守って、街を、国を守る存在。そりゃかっこいいに決まってる。でも、この広い世界を見てたら、それだけが絶対じゃない。なんだかそう思えてきちゃった。


 僕は赤い人を見て、ニィって頬を上にあげる。



「僕を助けてくれたお礼、今度は赤い人にさせてください。僕がギルド警察を目指すかどうかは、その後に決めます」



 きっと、この世界には沢山の物がある。どうするかは、それを知ってからでもいいかもしれない。いや、知りたい。僕も色々見て回って、色々知りたい。


 赤い人が言ったようなことを僕も、この景色を見た瞬間に思ったんだ。



「そっか! それじゃ、その時はギルド警察の護衛として、私も一緒についてあげるね!」


「クレア!?」


「お前もか!?」



 クレアは首を縦に振ると、クレアもこの景色をじっと見つめた。



「お母さんみたいな、ギルド警察になるのが私の夢。でも、その夢をかなえるには、まだまだ知らないことが多すぎるもん。だから……」



 クレアはもう一度僕らの方を見て、ニコリと微笑んだ。



「その時は、私も連れていってね! 二人と一緒にいると、楽しいし、安心するから!」


「クレア……」



 僕ら3人は、どうやらこの景色を見て同じことを思ったみたいだ。

 この世界を見て回りたい。たくさんのことを知りたい……って。


「僕が今まで見てきたものは、ちっぽけな世界だったのかもしれない。だから、もっと知りたい。この世界を。そして、いろんな人に言ってあげたい。世界は、広いんだって」


「うん! いろんな人を助けながら、教えてあげたいな。世界は綺麗で、広いんだって」



 僕とクレアがそう話すと、赤い人はふっと笑った。

 そして、僕らの方を見てこう言った。



「そん時は、よろしくな。まあ……この世界を、一緒に見て回ろうや」


「はい! よろしくお願いしますね」


「でも、それまでに色々と勉強とかしねえとな。魔法とか」


「「うっ……!」」



 まさか、こんなところで、現実を見ることになるとは……。

 折角、夢に浸れたのになぁ。



「じゃあ、大きくなったら! 私たちが、もっと大きくなったら! それでいい?」


「いいんじゃねえの? 少なくともオレは大歓迎さ。まあ、その時にお前らが覚えていたらの話だけどな」



 大きくなっても、今日のことを、赤い人のことを、覚えていたら……か。

 じゃあ、問題ない。


 だって、忘れない。絶対に忘れはしないから。


この景色を。赤い人のことを。クレアのことを。



「そしたら沢山勉強しなきゃ! みんなの役に立てる魔法をいっぱい使えるように」


「うん、そうだね。僕も頑張ろう!」



 僕とクレアが顔を見合わせて、お互い勉強を頑張ることを誓い合う。その様子を見て、赤い人はケラケラと笑った。



「はは、そーかいそーかい」



 赤い人は景色をもう一度見る。そして、何かを思ったのか、拳を握りしめて、一息ついた。



「んじゃ、そのためにも今は、早くクレアの母ちゃんを見つけないとだな」


「はい、そうですね!」



 今は、この景色をもっと見ていたいけど、優先しなきゃいけないのはクレアのお母さんを探すこと。いつまでもここにいるわけにはいかない。

 でも、見つけた後にはきっと、この景色を見ながら、3人でまた色々と話したいな。



「とりあえずここには誰もいないみたいだ。つまり、さっきの分かれ道の右側が怪しいな」


「そうですね」



 こっち側には、宿泊施設なんてなかった。でも代わりにすごく大事なものを見ることができた。それも、クレアの気遣いのおかげで。


だったら、僕らも全力でクレアのお母さんの捜索に当たらないとだね。


「それじゃ、今からさっきの道に戻ってもいいかな?」


「うん。もちろん!」



 僕がそう言うと同時に、赤い人もこくりと頷く。

 いい景色を見ることができたからか、不思議と、疲れを忘れ、僕らの活気も上がっているような感じがした。



 僕らは再び、3人そろって元来た道を歩き始める。




 そして、元の分かれ道の近くまで戻ってきた頃……。



 ドッガァーーーン! 



 何かが爆発するような音。

 ここから見て、分かれ道の右の方、つまり、僕等がいたキャンプ場の方から、その音が聞こえてきた。



「ちょっ、え、なになに!?」


「なんだ? 今の音は」


「何かが、爆発する音!? でも、一体何が?」



 突然のその音に、困惑する僕ら3人。思わず僕らは立ち止まった。

 そして何よりも、その音が、僕等がいたキャンプ場から聞こえてきたというのがとても気になった。



「キャンプ場に爆発するようなものなんてあったかな……?」



 クレアは口に指を当て、目を上に向け、色々と考えている。一方で、僕と赤い人は同じことを思ったのか、顔を見合わせた。



「もしかしたら、クレアのお母さんが帰ってきたんじゃ?」


「そうかもしれねえな。行ってみるか」


「そうですね! それじゃ、クレア! ちょっと行ってみようよ!」



 そう言って、僕と赤い人は駆け足でキャンプ場へと向かう。



「え、ちょっと待って! 二人とも!」



 その後ろから、クレアは僕らを追いかけてきた。


 もしもクレアのお母さんが帰ってきたのならそれはそれで安心なんだけど、爆発する音がしたし、その場合はクレアのお母さんの身に何かあったのかもしれない。


 とにかく僕らは、急いでキャンプ場へと戻る。



 そして、キャンプ場へ着いたときに、その光景をみた僕らは絶句する……。



「ハッハッハ! 破壊! 破壊ぃ! 破壊ぃい!」



 キャンプ場にいたのはクレアのお母さんではなく、一体の人ならざる者。



 キャンプ場のテントや置いてあるものは粉々に破壊され、その周辺の草木はなぎ倒される。そのうえに炎で燃やし尽くされている。


 そいつは、全身が羽毛で覆いつくされ、大きな羽が生えていた。


 二足歩行で歩き、鋭い手の爪で木々を切り裂き、粉々にする。

 そして鋭い口ばしからは、禍々しい炎が吐かれ、それが草木を焼き尽くす。


 そいつは、明らかに人とは別の生き物。だとしたら魔物になるんだけど、でも、良心的な魔物とは全然言えない。



 だとしたらこいつは……。



「おい、ネルス。こんな時だけど、聞いてもいいか?」



 その光景を見ながら、赤い人は隣で僕にこう聞いてくる。



「こいつは、魔物ってやつでいいのか? それとも前の話にあった……」


「魔獣。あれは、どうみても魔獣だよ……」



 僕らが過ごしていたキャンプ場が破壊され、焼かれ、その光景を見ているクレアは、声を震わせていた。



 魔獣。人を見境なく襲う、人にとっての敵。ひどい時には、街一つを壊滅させることもある、危険な存在。


 そいつが今、僕らの目の前に現れた。


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