215「発表と、その後」クランリーテ


 通話魔法が完成した。

 そして本当に大変なのはその後だった。


 まず通話魔法の発表は三日後、魔法騎士の主導のもと行われることになった。

 本来なら魔法学校から発表するものだけど、発表後の世界への影響を鑑みて、魔法騎士が行う方がいいだろうというミルレーンさんの判断だった。三日後というのは、その準備期間。

 もちろん捕まえた情報屋はその間拘束しておく。魔法騎士内には通話魔法のことを周知するため問題ない。


 それから魔法学校と城内魔法研究機関にも、予め報告をしておく。

 未分類魔法否定派の先生には秘密にしたままで。

 もっとも、派手に動いてしまったヘステル先生はだいぶ怪しまれていたけど(特にベイク先生に。私たちもしつこくなにをしていたのか聞かれた)、なんとか三日間乗り切った。


 そしていよいよ発表の日。十二の月の最初の日だ。

 魔法騎士第四隊の人がテレフォリングを持ってラワ王国とアカサ王国に赴き(準備期間の主な理由はこの移動にかかる時間だった)、通話魔法を実際に使ってみせた。


 ちなみにアカサ王国の方には、


『通話魔法、成功です! ちゃんと声が聞こえてるッスよ!』


 ホシュンが魔法騎士に付き添って、通話魔法を試してくれた。


 実はこれには大きな意味がある。


 ホシュンが通話魔法の詳しい情報を持ち帰ることで、諜報員に自分を売り込むことができるのはもちろん、魔法騎士からも推薦してくれるという話だった。


 あの日の朝すぐにアカサに行くことになったホシュンは、


「報告が終わったらすぐに戻ってきます。推薦してもらっても、アタシ自身がまだまだッスから。本当にアカサに帰るのは、ターヤで魔法をしっかり学んでからです」


 ターヤに転校してきたこと、中途半端にしたくない。

 ただ帰るだけじゃなくて、きちんと力を身に付けたい。

 ……ホシュンは大変な道を選ぶことにしたみたいだ。


「頑張って、ホシュン。応援してる」

「はい! ありがとうございます!! でも未分類魔法クラフト部も、これからもっと大変になりますよ?」



 ホシュンの言う通りだ。

 発表後なにが大変だったって、やっぱりベイク先生――と、ヘステル先生だ。


「この……裏切り者め! 我が神聖なる属性魔法の学舎を汚し続けていたとは!」

「騙していたことは謝罪しましょう。ですが、私は信念に従ったまでです。未分類魔法を推進するという、私の信念を」


 発表と同時に、ヘステル先生は未分類魔法推進派だとカミングアウトした。

 学校中の大騒ぎになったけどその際に、


「通話魔法は世の中を一変させるでしょう。上手く活用していくためにも、これからは未分類魔法の研究が重要になる」


 という発言をして、それをきっかけに『どちらでもいい派』から『推進派』になる先生が一気に増えた。

 ベイク先生はそのことも気に入らないようで、ヘステル先生と一触即発だった。

 そこへ――


「落ち着きなさい、ベイク先生。あなたが憤るのもわかりますが、これも新しい時代への一歩です。認めなければなりませんよ」

「オイエン先生っ……!」


 アイリンのお祖母ちゃん、オイエン先生。

 ベイク先生はオイエン先生の登場に、珍しく狼狽えていた。


「で、ですがっ。この学校は四属性魔法の!」

「そうですね。かといって、未分類魔法を排除する必要はないでしょう。そしてまた、四属性魔法が無くなることもありません。どちらも世界に必要な魔法だということです」

「しかしですね……」

「あらベイク、私の言うことが聞けないのかしら?」

「っ…………」


 なんと、ベイク先生はその一言で黙り込んでしまった。


 後から聞いた話だと、オイエン先生はベイク先生の恩師だそうだ。

 オイエン先生に口を出されると逆らえなくなるらしい。

 ただし従順というわけでもなく、口を出されるまではどんなことでもする。

 先日のアイリン退学の件も、オイエン先生の孫とわかっていたけど口を出されなかったからやめなかったみたいだ。


 と言う話をオイエン先生がしてくれたわけだけど、それってつまり今までのこと全部把握していたということだ。アイリンを信じて静観していたらしい。孫の成長のためよと言っていた。

 さすがというか、なんというか……。


 そんなわけで、これでベイク先生も未分類魔法についてあれこれ言ってこなくなるかな、と思ったんだけど、


「時代か……。だが、そうだ。世界の中心はやはり四属性魔法だったのだ。それが証明されたではないか!」


 ……そう言ってすぐに立ち直ってしまった。

 というのも、通話魔法と同時にヒミナ先輩が「マナには四つの種類がある」ことを発表したからだった。

 あの様子だと、ベイク先生ますます属性魔法を信奉しちゃいそうだ。……まぁしょうがないか。



 ベイク先生が立ち去ると、オイエン先生はアイリンに近付いて頭を撫でる。


「それにしても驚いたわアイリンちゃん。あなたのことずっと見守っていたけれど、すごい魔法を作ったわね」

「えへへ。あ、これおばあちゃんのテレフォリングだよ!」

「あら、いただいていいのかしら?」

「もちろんだよ! ね、おばあちゃん。これでいっぱいお話しできるよね……?」


 おずおずと、期待を込めて聞くアイリンの姿を見て。


 ……そっか。やっとわかった。

 ずっと不思議に思っていた。通話魔法のこと、どうしてオイエン先生にも秘密にしていたのか。

 アイリンが通話魔法を作ろうとしたのって、きっと離れた場所にいるお祖母ちゃんと話がしたかったからなんだ。

 完成するまで秘密にして、オイエン先生を驚かせたかったんだね。


「そうね、アイリンちゃん。たくさんお話ししましょう。でも……ふふっ、私よりもいっぱいお話する友だちがいるんじゃなくて?」

「お、おばあちゃんともいっっっぱい話したいよぉ~」


 嬉しそうに話す二人を見て。

 本当に、不本意な形で通話魔法が広まらなくて良かったなと思った。



 話を発表の内容に戻そう。

 ミルレーンさんは通話魔法の発表と同時に、ナハマ大調査の調査結果も発表した。

 空の上に高密度のマナがあり、その上に古代遺跡、研究室が発見されたこと。

 ナハマ大空洞の隠し部屋からそこに行けること。

 すでに消えてしまったけど文字が発見されたこと……。


 調査結果の発表と、通話魔法の完成。

 この日、世界が大きく変わるのを誰もが感じた。


 私たち未分類魔法クラフト部も、この日を境に目まぐるしく変化していった。

 やることがいっぱいで、休む暇もなくて。

 冬休み、三学期と、あっという間に過ぎ去っていく。


 そして――春、四の月――。

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