213「四つの魔法と空の回路」クランリーテ


「クランリーテ、一人でやるとはどういう意味だ?」

「私が一人で、四属性魔法を使い四つのマナを消費します」

「クラリーちゃん……?」


 私はアイリンの手を引いて立ち上がらせる。


「アイリン、私に任せて。絶対にここを平らにするから。回路を書く準備、しておいて」

「……! わかった!」

「ヒミナ先輩、もう少し上にお願いします」

「クランリーテ、まさかキミは……!」

「ここで披露することになるとは思いませんでした」


 本当はもう少し秘密にしておきたかったんだけど。


 使


 まだ小さい魔法でしかできてないし、しっかり使えるようになってからと思っていた。


 だけど。

 私はもう一度空を見上げる。

 火、風、土、水。眼前に迫る、四つのマナの塊。

 これだけはっきり見えていたら、失敗するイメージなんて湧かない。

 きっと地上にいるときよりも大きな魔法が使える。


 私は右手を掲げた。


「原初の炎、太古よりの風、礎の大地、生命の水。始まりの四つのマナは此処にある。世界にある。内にある! さあ、四つの箱よ、全てを生み出す魔法となれ!!」


 呪文を唱え、うねりに触れた瞬間。膨大なマナが私の中に流れ込んできた。


「っ……エレメンタルストリーム!!」


 炎が、風が、巨大な岩が、水流が、右腕を中心に四方に噴き出す。

 地上で使うのとは比べ物にならないほど巨大、あり得ないほど長大に、魔法が彼方へ伸びていく。いや伸びるだけじゃない、それぞれが扇状に広がり隙間を埋めていく。炎は空を焼き、風は荒れ狂い、岩は連なり空を覆い、水は巨大な波となる。


「くぅ……ああああああっ!」

「クラリーちゃん! 大丈夫!?」

「だ、だいじょう、ぶ……!」


 これは、私のイメージ以上の魔法になってる……!


 高密度のマナを取り込んだから。

 四つに分離した、いわば純粋なマナを使っているから。

 力があると言われている言葉を呪文に織り交ぜたから。


 どれが理由かわからないし全部かもしれないけど、と・に・か・く!

 凄まじい量のマナが、激流が、あぁぁぁ! 私の中を通っていく!

 消耗が、激しい……!


「は、ははは……! ワタシの四つの箱をまさかそんな風に使うとはね。キミは天才だよ、クランリーテ」

「あ、あのっ……ヒミナ、先輩……空は……っ!」

「もう魔法を止めても大丈夫だ。そうだろう? アイリン」

「はいっ! すごいよクラリーちゃん! わたしでもわかるよ。さっきまでとぜんぜん雰囲気が違うもん。クラリーちゃんの魔法の向こう側、静かになった感じする。平らになってると思う!」

「そ、そっかぁ……よか、った」


 ふっと魔法が消え、私はカゴの中で仰向けに倒れ込んだ。

 あぁ……本当だ。ちゃんと、平らになってる……。


「クラリーちゃん!?」

「だいじょうぶ……疲れただけ。ほら、早く回路書いちゃってよ」

「うん……! あとは任せて、休んでてね!」


 アイリンが平らになった空に手を伸ばし、マナの塊に線を描き出す。

 ぼんやりと光って見える回路の線が複雑に伸びていく。私にはわからないけど、その形には意味があり、魔法を形成するためのものだ。


(ヒミナ先輩。天才って、こういうのができる人を言うんだと思いますよ……)


 見ると、ヒミナ先輩も黙ってアイリンの描く回路に見惚れていた。

 ……わかりますよ。だって、私も同じことを思ってますから。


 あぁ、本当に綺麗だなぁ……。

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