209「魔剣用の魔法道具」クランリーテ


「待て、魔剣の魔法を魔法道具で増幅すると言ったか?」


 私たちの会話を聞いていたミルレーンさんが、慌てて割り込んでくる。

 当然だと思う。魔剣の魔法は四属性魔法と違い、仕組みがまったくわからない。そのため魔法道具を作るのは不可能とされていた。


 でもサキはずっと研究をしていた。チルトの浮遊導剣フローティング・ナイフの力を増幅する方法を。

 そしてたどり着いた。魔剣の魔法は、理解不能ではないと。

 アイリンが瞬間移動やマナで文字を書くのを未分類魔法で真似てみたのも、サキの研究を推し進めることになった。

 そもそもアイリンの未分類魔法は、どこか古代の、魔剣の魔法に通じるところがある。


 アイリンの未分類魔法のセンスと、サキの魔法道具作成の知識と技術。それから――。


「いやいや、わたしも最初はビックリしたんですよ。魔剣専用の魔法道具なんて作れるわけないって。でも話を聞いているうちにできる気がしてきちゃったんですよ」

「フリル? まさかキミも?」

「ふふふ、実はね。ヒミナには内緒にしてたけどわたしも手伝ってたんだ。でもまさかそれが、空に回路? だかを書くためとは知らなかったけどね?」

「フリル先輩ごめんなさいー。通話魔法のことは秘密にしなきゃいけなかったから」

「だろうね。まぁ作るの楽しかったからいいよチルトちゃん」

「なるほど。それで先ほどの、無関係ではない、か」


 サキがフリル先輩にちょくちょく相談に乗ってもらっていて、それならもう協力してもらおうという話になったのだ。

 魔法道具作成は三人をメインに進められていた。


「ほ……本当に作ったのか? 魔剣の、魔法道具を」


 さすがのミルレーンさんも驚いた顔をしている。だけど……。


「実はまだ完成したかどうかわかんないんですよー。テストができてなくて」

「それはいったい……。いや、私のせいだな?」


 肝心の浮遊導剣フローティング・ナイフが返って来たのが昨日だ。試す時間がなかった。

 確かにそれも理由の一つではある。


「そんなことありません。実験できる段階まで持って来れたのはつい最近なんです」


 サキはそう言って、用意を進めていたソレを指さす。


「あれが魔法道具、なのか?」

「メインは真ん中の台座ですけどねー」


 正方形の大きな木の板に、黒い鉱石で作られた長方形の台座が置かれていた。

 その台座の形は、例のナハマの隠し部屋で見たものに似ている。サキたちがわざと似せたんだと思う。

 台座の上部には細いスリットがあって、そこに浮遊導剣フローティング・ナイフを差し込めるようになっている。


「さあて、早速試してみよっか」


 チルトはそう言って、ぴょんと板に飛び乗る。


「……チル」


 心配そうに名前を呼ぶサキ。


「サキ、きっと上手くいくって」

「そうそう。サキちゃん、もっと自信をもっていいよ。君たちはすごいものを作った」

「フリル先輩……」

「えっへへ、ボクはサキとフリル先輩を信じてるよ。だから、なにも怖くないっ!!」


 チルトが腰の浮遊導剣フローティング・ナイフを抜いて台座に差し込む。

 そしてマナを込めると――


「う、浮いたわ!」


 ――ふわっと、チルトを乗せた木の板が浮かび上がった。


「やったーーーー浮いた! 浮いたよサキー!」

「チル! フリル先輩! あぁ、よかった……!」

「おー? サキが泣いてるー」

「な、泣いて、なんか……」

「いやいやしょうがないよ。きっと一番不安だったのサキちゃんでしょ? よしよし」


 フリル先輩がサキを抱きしめて頭を撫でる。

 ……そうだ。この魔剣の魔法の増幅が上手く行かなかったら、その時点で手詰まりだった。

 魔法を完成させると決めてから、一番プレッシャーを感じていたのはサキだったんだ。

 私とアイリンもサキに駆け寄ってお礼を言う。


「ありがとう、サキ」

「サキちゃんがんばってくれてありがとう!」

「ま、まだこれからでしょう? 最初の段階が上手くいっただけなんだから、気を抜かないでよね!」


 サキがフリル先輩から離れ、後ろを向いて目元を拭う。

 ……うん、サキの言う通りだ。まだまだ、ここからが本番。


「しかしこれは本当にすごいな」


 ミルレーンさんが着地した魔法道具に近付く。


「チルト、これで自由に飛べるのか?」

「いえそれがそうでもないんですよー。スピードはそこそこ出るはずですけど、その代わり垂直移動しかできません。マナもずっと入れてないといけないんで、結構大変ですねー」

「そうそう。本当はこれまだまだ課題がいっぱいなんですよ」

「でも今回はこれで行くしかないです。最低限の枠は取り付けるとして……その前にチル、フリル先輩。何人まで乗れるか試しましょう」

「まー、この大きさ的に三人って気がするなー」


 実際に試してみると、チルトの言う通り三人が限度だとわかった。

 四人乗ると途端に上昇のスピードが落ちる。そもそも板の面積的にすごく狭くなり身動きが取れなくなってしまう。


「というわけで三人だねー。誰が乗るの?」

「誰っていうか、まずはアイリンだよね。回路書くんだから。だからあと二人」

「待って。魔剣にマナを込め続ける人が必要よ」

「さっきも言ったけど長時間入れ続けないといけないから大変だよー」

「なるほど。そこでワタシの出番というわけだね?」

「いやいやヒミナ、そこはクラフト部に譲らないと」

「そうかい? 飛行するにあたって、一番大事なのはこのマナ注入役だとワタシは思う。そうだろう? サキ」

「それは……はい」


 サキが神妙に頷く。するとミルレーンさんが、


「私は各個人の能力まで把握していないが、途中で落下などされては困る。……本当にいざというときは、私が受け止めるが」


 そう言って腰の魔剣に触れる。魔手封剣サイドアーム・ソードなら……落下を受け止められるの?

 さすが国宝……。


「ワタシならばその心配はいりませんよ。空へ行って帰ってくる間、マナを込め続けられる自信がある」

「…………」


 私も、たぶんマナを込め続けられると思う。けど……万が一マナ欠乏症の発作が起きたらと思うと、名乗り出ることができなかった。

 ここはヒミナ先輩が適任だろう。


「アイリン、構わない?」

「うん! ヒミナ先輩、お願いします!」

「任せてくれ」

「じゃああと一人。どうする? アイリン」


 回路を書くアイリン。マナ注入のヒミナ先輩。

 あと一人は……。


 真っすぐ見つめるアイリンと、目が合った。


「もちろん、クラリーちゃんだよ! 一緒に空に行こう!」

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