クラフト31 世界が変わる、その時に

208「準備開始!」クランリーテ


「――そんな魔法を作ったのか!?」


 魔法騎士のお二人に通話魔法の説明をすると、ミルレーンさんが驚いた声をあげた。




 街の外れ、外壁のそばで情報屋を捕まえた私たち。

 ミルレーンさんとビクトルさんに事情を、なにを聞かれてしまったのか説明しなければならなかった。


 情報屋に知られたのはアイリンの通話魔法。


 通話魔法を魔法騎士に説明するということは、国に報告するのと同じこと。

 でもそこを伏せて話したとしても、情報屋が解放されたら広められてしまう。


 完成してから発表するというアイリンの希望を叶えたくて、私たちは研究してきた。

 情報屋に広められてしまうくらいなら、ミルレーンさんに話した方がいい。


 選択肢はない。そう思っていたけど――



『不本意に広まってしまうくらいなら。今すぐ完成させて発表してしまいなさい』



 ――ヘステル先生が出してくれた第三の選択肢に、私たちは衝撃を受けた。


 今すぐ完成させてしまえば、アイリンの希望も叶えられる。

 確かにその通りなんだけど……。


 先生は続けた。


「私はアイリンさんから相談を受けていたから、現在の進捗状況を把握しています。もう不可能ではないはずよ。そうでしょう?」

「で、でも先生、まだぜんぜんテストできてないよ~……」


 先生の言う通り、不可能ではなかった。

 完成させるまでの道筋はできている。

 ただ、それを一度も試せていない。机上の空論かもしれない。本当にこれで完成するのかわからなかった。でも……。

 私はアイリンに向き合う。


「アイリン、不安なのはわかるよ。ぶっつけ本番だし、失敗もできない。でも……やるしかないんだ」

「クラリーちゃん……」

「アイちゃん大丈夫大丈夫。ボクの勘がそう言ってる」

「はぁ……チル、わかってるの? あたしたちの準備が一番不安なのよ?」

「あれ、サキは反対なの? やらない?」

「やるわよ! クラリーの言う通り、やるしかないんだから」

「アイリンちゃん。きっと上手くいきます。みんなで頑張ってきたこと、信じてみよう?」

「ナナシュの言う通りだよ。……それになにより、私はアイリンの希望を叶えてあげたい」

「うぅ……クラリーちゃん……みんな……。わかった! いますぐ完成させちゃおう!」




 ……というわけで、まずはミルレーンさんとビクトルさんに通話魔法のことを説明したのだった。


「ナハマでも思ったが、おまえらなんなんだ? あー……でもそうだな。その魔法がこの男に知られたのは本当にマズイぞ」


 ビクトルさんがそう言うと、拘束され地べたに座らされた情報屋の男が得意げな笑みを浮かべる。

 イラっとしたビクトルさんは剣の鞘を男の足下にガツンと突き立てた。

 ミルレーンさんも男を睨んで、


「魔法学校への侵入の件もある。しばらくは拘束できるが、その間誰にも――他の魔法騎士にも接触させないというのは不可能だ。だが……おい、ビクトル」

「まぁ時間も時間だし明日話を聞くってことにすれば、朝までは時間を稼げますよ。ただ」

「よし、やれ」

「……牢にぶちこんだこいつを俺が一晩中見張ることになるんですけどね。へいへい、わかりましたよ」

「というわけだ。できるか? クラフト部」


「……明日の朝がタイムリミットってことですよね」


 もう日が落ちようとしている。時間がない。

 私はアイリンと頷き合った。


「よーっしみんな! 急いで学校に戻ろう!」



                  *



 通話魔法を完成させる。そう決めた私たちは、学校に直行――しないで、ヘステル先生の指示で一旦家に帰り、それぞれ親に学校に泊まると伝えて来た。アイリンも速達がギリギリ間に合う時間だったので馬車の駅に走った。

 ちなみにミルレーンさんは情報屋を牢に入れた後、学校に来て通話魔法の完成を見届けてくれることになった。


 それぞれの用事を済ませて学校に再集合。風の塔の横で早速準備を開始する。


「それにしてもヘステル先生、大丈夫なんですか? 学校に泊まったりして。しかもこれから行うのは思いっきり未分類魔法ですけど」


 ベイク先生や否定派の先生にバレたら止められそうだし、先生の立場も危うくなるかもしれない。


「通話魔法を完成させて発表するのでしょう? だったらバレても構わないはずよ」

「そ、それはそうですけど、先生は……」

「あなたたちは私の言葉で決断をした。だったら私も腹を括りましょう。責任は全部私が持ちます。周りのことなど気にせず、魔法の完成に集中しなさい」

「ヘステル先生……。わかりました、ありがとうございます!」


 なんとしても完成させて、先生の気持ちに応えなきゃ。

 私も準備を手伝おう。まずはサキとチルトの――。


「あれ? チルトは?」


 見ると、肝心のチルトの姿がなかった。

 さっき集合した時はいたはずだけど……。


「おっまたせー! 助っ人を連れてきたよー」


 本校舎の方からチルトの声が聞こえた。助っ人? って――


「ヒミナ先輩! フリル先輩も!」

「やぁ。話はだいたいチルトから聞いたよ。なにやら面白いことをするみたいじゃないか。学校に残っていてよかったよ」

「いやいや、だいたいってほとんどまだ聞いてないでしょ。未分類魔法の実験をするってことしかわかってないよ」

「十分さ。キミたちは困っているんだろう? ならば、ワタシは協力を惜しまないよ。フリルもそうだろう?」

「いやまあそれはね。クラフト部のおかげでわたしたちの研究も進んだし。どうもわたしは無関係じゃなさそうだし?」

「ふむ? どういうことだいフリル」

「せんぱいー、とにかくアイちゃんから詳しい話を聞いてくださいよ。ボクらは先に準備を進めてるんでー」

「わかった、そうしよう。さあアイリン、教えてくれないか。どんな素晴らしい魔法を見せてくれるんだい?」

「わたしも気になるかも。とんでもない魔法だってチルトちゃん言ってたんだけど」

「うぅ、あんまりハードル上げないでよチルちゃん~。……えっとですね、わたしが作ってる魔法は――」


 ――アイリンが通話魔法の説明をする。

 すると、話を聞いた二人は対照的な驚き方をした。


「あーっはっはっはっは! 素晴らしい、素晴らしいよアイリン! やはり世界にはワタシの考えも及ばない魔法があるのだね! 最高だよ!」

「つ、通話魔法、って……え? うそでしょ? ていうか、ヒミナよりすっごい魔法の研究してるじゃない! うっわー……ちょっとショック」

「どこがショックなものか! フリルもこの魔法の完成に立ち会えることを喜ぶべきだ!」

「はいはい。あんたはそういう人よね。まったく、誰のために……。ま、でも。ひょっとしたら歴史的瞬間になるかもね。それに立ち会うどころか協力できるなんて、確かにすごいことかな」

「歴史的!? や、やめてくださいよ~」


 アイリンは恥ずかしがってるけど、フリル先輩の言う通りだ。

 もしこの場で通話魔法が完成すれば、それは歴史的瞬間と言えるのかもしれない。


「しかし通話魔法のことはわかったが、完成のためには空に魔法の回路とやらを描くのだろう? どうやって空に行くんだい?」


 ヒミナ先輩が空を指さす。するとチルトが駆け寄ってきて、


「ふっふっふー。それはですねー。ボクの魔剣、浮遊導剣フローティング・ナイフを使うんです!」

「チルトの魔剣をかい? それはいったい――」


 魔剣を持ったチルトの手に、後ろからサキが手を重ねる。


「この宙に浮く魔剣の魔法を――

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