204「通話魔法の説明を」クランリーテ


 百聞は一見にしかず。

 というわけで、早速ホシュンにテレフォリングを貸して、通話魔法を体験してもらった。


「ええぇぇぇぇ……これは……いったい、どんな……魔法なんでしょう……?」

「説明するねホシュンちゃん。まずテレフォリングにマナを込めると、通話魔法が発動するの」

「勝手に、決まった魔法が発動……ってことです、か?」

「そう! そうじゃないと話をする相手と魔法のズレが起きちゃうんだよ。これは魔法を完全に一致させるための道具でもあるんだ」

「は、はぁ……」

「通話魔法が発動すると、他の人のテレフォリングを探し出して繋がるの。でね、声がマナに乗って相手に飛んでいくんだけど」

「ま、マナに乗って? 飛んで? 声が?」

「うん! 相手のところに届いたら、今度は呼吸で取り込むマナに乗るんだよ」

「それって確か、猫アレルギーの薬の……」

「えへへ、実は通話魔法で使った未分類魔法を薬に応用したんだよ~」

「そ、そうだったんですか!?」

「呼吸で取り込むマナと一緒に体内に入った声は、その人だけに聞こえるの。最初は外にも声が聞こえちゃってね、それじゃ不便だから相手にだけ聞こえるように改良したんだ~」

「改良……ですか……」

「たいへんだったんだよ~。それから今度は、すごーく遠くの人とも話せるようにもしたんだ。今はまだ、会話に遅延が起きちゃうんだけどね」

「……あ、それでユミリアさんと?」

「うん! ユミリアちゃんにもテレフォリング渡してあるんだ!」

「あー……なるほ……いや……えぇぇ……?」


 通話魔法を体験しアイリンの説明を聞いたホシュンは、目を見開いて、難しい顔をして、首を傾げて、ぽかんとして……百面相を見せていた。

 話の内容はとても信じられるものじゃないけれど、実際に体験してしまった以上信じるしかない。だけど頭が、理解が追いつかない。そんなところだろうか。

 そしてきっと誰もが辿り着く答えが、


「な……なんでこれ、発表しないッスか? とんでもない魔法じゃないですか!!」

「ホシュン、その気持ちすごくわかるわ。あたしも最初何度も言ったのよ」

「でもアイリンが、完成するまで秘密にしたいって言うからさ」

「アイリンちゃんに協力することに決めた私たちは、その希望に応えることにしたんです」

「秘密の研究っていうのも面白そうだったからねー。この魔法を知ってるのは本当に極一部の人だけだよ」

「え……」


 最後のチルトの言葉に、ホシュンは顔を上げて焦った顔になる。


「な、なんでそんな秘密の魔法をアタシに? アタシ……なんかに……」


「ホシュンちゃん、こないだ言ったよ? ホシュンちゃんは、わたしたちの仲間だから。だから教えようって思ったんだよ~」


 笑顔を見せるアイリン。

 ゆっくりと、ホシュンは順々に私たちの顔を見る。

 目が合って、私も笑顔を向けた。私たちも同じ気持ちだから。


 だけどホシュンは今にも泣き出しそうな目で、くしゃっと顔を歪める。


「そんな……やめて、ください。アタシは……みなさんのこと……っ」


「ホシュン……?」


 ガバッとホシュンは立ち上がり、勢いよく頭を下げる。


「ごめんなさい、実はまだみなさんに隠していることが……!」


「シッ――待った、ホーちゃん」


 突然立ち上がり、扉を睨みつけるチルト。

 静まり返る部室。すると、廊下の声が聞こえてくるようになった。


「――そこでいったいなにを――」

「――通りかかっただけです――ヘステル先生――」

「……そうですか――」


 男の人の声と、ヘステル先生?

 会話はすぐに終わり、部室の扉が開く。


「やっぱりヘステル先生――」

「今、部室に誰か来ていましたか?」

「――え? なんでですか?」

「部室前の廊下に研究者らしき男の人がいたのと、扉が少し開いていたわ」


 部室の前に誰かがいて、扉が少し開いていた。最後に入ったホシュンは……うん、ちゃんと扉を閉めていた。それなのに開いていたということは、その後に誰かが開けたということで……。


 まさか、今のアイリンの話を聞かれた!?


「――しまった! ボクとしたことが!」


 チルトが廊下に飛び出し、だけどその場で舌打ちをする。もう誰もいなかったみたいだ。

 すぐに中に戻ってくると、今度はヘステル先生に詰め寄る。


「先生! 研究者らしきって言ってましたけど、もしかして見たことない人?」

「――ええ、そうね。初めて見る顔だったわ」


 一瞬驚いた顔をするも、すぐに冷静に答えてくれる先生。

 その返事に、今度はホシュンが慌てて立ち上がった。


「まさか……あ、あの! どんな人でしたか!」

「どんな人って……。あなたはホシュン・ヘルメイさんね。状況はわからないけど、念のため使正解だったわ」

「使って、おいて……?」

「誰か、紙を用意して」

「あっ、そっか! ヘステル先生、わたしのノートにどうぞ!」


 アイリンがカバンから新品のノートを取り出す。適当にページを広げてテーブルの上に置くと、ヘステル先生がそこに手をかざした。

 なにをするつもりだろう? アイリンは知っているみたいだけど……。


「その者の顔を映し出せ。フォト・メモリー」


 この……魔法は――!

 真っ白なノートに、インクが滲むように色が広がっていき、そこからゆっくりと人の顔が浮かび上がってきた。

 それはどんどん鮮明になっていき、皺の一つ一つまで細かく描かれていく。まるで見たままの顔をそこに写し出したかのようだ。


 そしてその顔を見て最初に声を上げたのは、アイリンだった。


「あー! さっき部室に来るときに見たのこの人だよ~!」

「そういえばそんなこと言ってたっけ……。いやそれより、これってヘステル先生の未分類魔法ですか?」

「ふぅ……そうです。この魔法をかけた人物の顔を紙に写し出すことができる。一人しか記憶できないし魔法を解くと絵が消えてしまうから、まだ実用的ではないと思っていたけど。今回は役に立てたわね。さてホシュンさん、私が見たのはこんな顔の人よ」


 ホシュンは先生の魔法で描かれた顔を見て、顔を真っ青にして愕然としていた。


「……み、みなさん大変です。さっきの話をこの人に聞かれたんだとしたら……あぁっ……」

「ホシュンさん、落ち着いて、わかるように話しなさい。この男を知っているのね?」

「ご、ごめんなさい! ……この人は、アカサ王国の諜報員です!!」

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