203「ホシュンの疑問」クランリーテ


「答えてください。どうしてユミリアさんが上手くいったこと、知ってるんですか?」

「それ、は」


 私は自分の犯したミスに気付き、目眩を感じて椅子に座り直してしまう。


 ユミリアの演術部で仲違いをしていたヤエとヨリフェル。二人が仲直りをしたことをどうして知っているのか。

 もちろん通話魔法で聞いたからだ。


 でもホシュンには通話魔法のことを教えていない。

 何故知っているのか、疑問に思うのは当然だ。

 知らないフリをするべきだったのに、そこまで頭が回らなかった。


 ……いや、まだ挽回できる。

 あれから二週間経っている。その間に手紙が来たことにすればいい!


「も、もちろん、ユミリアから――」

「少し前から気になっていたんです。みなさんユミリアさんの状況、詳しかったですよね。聞いた話では夏休み以来会っていなかったそうじゃないですか。手紙のやり取りもしていないのに、どうしてを知っていたのか……」

「――っむぐ」


 口にしようとした言葉を慌てて引っ込める。



『へっ!? な、なんでもないですナナシュさん! 少し気になることがあったんですが、大したことじゃないッス。すみません気にせず話を進めてください』



 あの時言ってた気になることってそれか!


 名前は聞いていなかったけどヤエが入ったことは、ユミリアから聞いていた。確かにあの時、そのことを知っている前提で話をしていた。

 その時から疑問を感じていたのなら、さっき言おうとした言い訳なんて通用しない。


「もしかして……遠くにいるユミリアさんと、手紙以外で連絡を取る方法があるんですか?」


 ……どうしよう。


 誤魔化そうと思えば誤魔化せるのかもしれない。

 何故なら、通話魔法なんて突拍子もない魔法、実際に見なければ気付くはずがないから。

 強引だけど、どうしても教えられないと言ってしまえば、ホシュンは通話魔法を推測することができないはずだ。


(だけど、それは……)


「……ね、クラリーちゃん」

「アイリン……」


 目を合わせただけで。アイリンの言いたいことがわかった。

 私は小さく頷いてみせる。

 するとアイリンは笑顔になって、


「あのね! ホシュンちゃん!」

「――は、はい?」

「実はホシュンちゃんの言う通り、あるんだよ。ユミリアちゃんと話をする方法」

「え……あ、あの」


 アイリンが話し始めると、何故か動揺するホシュン。聞いてきたのはホシュンなのに。


 私は少し視線を逸らして、チルトと目を合わせる。

 チルトは、大丈夫でしょ、と言いたげな笑みを口元に浮かべて、ホシュンたちに視線を戻した。


 実はチルトとは、の話をすでにしてある。




「ねぇチルト。たぶんアイリンは、通話魔法のことホシュンに話すと思うんだ」

「だねー。ボクもそう思うよ。アイちゃんは近いうちに話すね」

「私は……もしアイリンが話すって言い出したら、構わないと思ってる。だってホシュンは……その」

「クラちゃんは前にボクが『まだすこーしだけ警戒してる』って言ったのを気にしてるんだね」

「まぁ……。チルトの勘は当たるってサキも言ってたし」

「あはは、まあねー。でも今は大丈夫な気がしてるよー」

「それも勘?」

「そ。勘だけど、ボクの勘は当たるよ?」

「わかった。じゃあ、もしもの時は。アイリンの判断に任せよう――」




 だから私たちはアイリンを止めない。


 私も、アイリンと気持ちは同じだから。

 きっと大丈夫。

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