クラフト30 ホシュンの真実

200「心配するのは」クランリーテ


「たまには家を空けてみるものね。戻ってきたらカラーが帰ってるし、クラリーは風邪で寝込んだって言うし。ふふふっ」

「いや笑い事じゃないよ母さん……」


 朝食を食べながらそんな冗談(?)を言う母さんに、私はため息をついた。


 私が風邪をひいて、ユミリアとカラー姉さんが来たその次の日の夜。もう寝ようかという時間になって、母さんが旅行から帰ってきた。

 まだ病み上がりの私は早めに寝るように言われたけど、カラー姉さんと母さんはしばらく二人で話していたみたいだった。

 そして翌朝、こうして三人で朝食を食べているんだけど……。


「カラー姉さん、本当にもう出発するの?」

「これ以上研究をほったらかしにできないもの。母さんの顔も見られたし、お土産買ってアカサに戻るわ」

「この子に『もっとゆっくりしていきなさい』なんて言っても無駄よ。カラー、年末また帰ってくるんでしょ?」

「もちろん。父さんと一緒に帰って来るわ」

「そう。じゃ、頑張りなさい」


 ……まったく。ま、これがこの家のいつも通りだよね。


「って、そろそろ学校行かなきゃ」

「クラリー、途中まで一緒に行きましょ」

「カラー、気を付けてね。クラリーは無理しないように」

「もう大丈夫だってば。昨日も学校行ってるんだから」


 心配してくれるのはありがたいけど、もう身体はなんともない。

 みんなの看病のおかげかな。


「あ、そういえば母さん。聞くの忘れてたけど、どこに行ってきたの? なんかチルトが知りたがってて……」


 帰って来たら絶対聞いておいて! と言われたんだった。

 なんでチルトがそんなに知りたがるのかわからなかったけど。


「旅行先? 言わなかったかしら。ナハマ山脈よ」

「……え?」



                  *



 まさか母さんがナハマに行っていたとは思わなかった。

 チルトにこの話をしたら、


「やっぱり……どこかで繋がりが……?」


 と、ブツブツとよくわからないことを呟いていた。


 そんなチルトも気にはなったけど、それよりも。

 昼休み、私たちクラフト部は食堂に集合。ホシュンも交えてお昼を食べていた。


「お昼にみんな集まるの、なんか久しぶりだね~」

「いつもはボクたちがクラス遠いからなー」

「はぅ、そうなんですよね」

「そんなに久しぶりだったかしら? だったら今度から集まって食べる日を決めておく?」

「サキ、それいいアイディアだよ」

「そうしよう! ね、ホシュンちゃんもどうかな?」

「…………」

「ホ、ホシュンちゃん?」

「ハッ! す、すみませんぼーっとしてたッス! えっと、なんでしたっけ?」


 私とアイリンの間に座ったホシュンは、慌てて周りに笑顔を向ける。

 その姿に、私は心の中でため息をついた。


 ……ホシュンの様子がおかしい。

 一見普通なんだけど、たまにこんな風にボーッとしてしまう。

 やっぱり、一昨日のユミリアのことで思うところがあるんだろうか。


 実は、ホシュンが気になる、心配だ、ということで一緒にお昼を食べようという話になったのだ。

 私がお弁当を用意できなくて、食堂になってしまったけど。

 この学校の食堂はかなり広い。広いけど生徒も先生もそれ以上に多い。ほぼ満席状態で、ちょっと騒がしい。

 ここじゃ一昨日の話をするのは難しいかな……。そもそもなんて切りだせばいいかもわからない。


「う~~ん……ね、ホシュンちゃん!」

「な、なんですか? アイリンさん。急に大きな声で、ビックリしたッス」

「あっ、ごめんね! えっと……一昨日の、ユミリアちゃんと話してたことなんだけど」

「っ……!!」


 私は驚いてアイリンを見た。いきなり直球投げていったよ。アイリンらしいっちゃらしいけど、みんなギョッとしていた。

 ……でもまぁ、あれこれ考えるよりその方が話が早い。


 ホシュンはものすごく焦った様子で、


「あ、あ、あ、あれは! なんでもないッスよ。本当に、ちょっと興味本位で聞いただけなんですってば」



『もしもの話です。仲直りしても、三人で行う演技が上手く行かなかったら、ユミリアさんはどうしますか?』



 ユミリアに投げかけた問い。

 ホシュンはアカサの冒険科についていけず、転校して属性魔法科に入った。

 逃げて来たというユミリアと、自分自身を重ねていたのかもしれない。


 どんなに頑張っても周りに認められないことはある。

 ユミリアはもしそうなっても、頑張り続けると答えた。

 ホシュンは……違う道を選んだ。

 どちらも間違いではないと思う。でも……もしかして……。


(後悔しているの? ホシュン――)


「とにかくアタシは大丈夫ッス。気にしないでください」

「うぅぅ……。ねぇホシュンちゃん」

「アイリンさん、そんな心配そうな目で見なくても――」

「あのね。ユミリアちゃんと同じだよ」

「えっ……!?」

「ホシュンちゃんも、わたしたちの仲間なんだから。頼ってくれていいんだからね」

「アイリン……さん……」


 アイリンのその言葉に。

 私はチルトに目を向けた。ちょうどチルトもこっちを見ていて、微かに頷く。


 仲間。私だって、アイリンと同じ気持ちだ。

 だけど前に、チルトが言っていたことを思い出す。



『でもさ。ほんっのちょっとだけど……まだ、怪しい気がしてる』



 チルトは今も、ホシュンのこと警戒しているんだろうか。


「仲間……アタシ、なんか……」

「……ホシュン?」


 隣から聞こえた呟きに驚いて思わず名前を呼ぶと、ホシュンはしまった、という顔になり、


「そ、そういえば! みなさんユミリアさんと手紙のやり取りとかしてるッスか?」

「え? 手紙は特に……」

「そうなんですか。あの後どうなったか、気になるッスね」

「……うん、そうだね」


 誤魔化すように出した話題よりも。

 私は、ホシュンの呟きの方が気になってしまっていた。



                  *



「随分と盛り上がっていましたね。順調ですか?」

「はい。問題ありません。信用を得ている証拠です」

「そうですか。わかっていると思いますが、君に求められるものは」

「まだ誰にも知られていない、新しい情報です」

「おい、正しいを付け加えろ。……そのためには手段は問いません。故に、失敗も許されない。ましてや情に流されるなど以ての外です」

「はい。わかっています。……あの、この件が上手く行ったら」

「安心しなさい、これはそういう取引です」

「お願いします」

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