199「カラー姉さんの理由」クランリーテ


「ス、スカウトってどういうこと? カラー姉さん」


 カラー姉さんは私をスカウトしに来たと言った。

 それが、ターヤに帰ってきた理由だと。


 そんな…………って、いやいや、さっぱり意味がわからない。


「そのままの意味よ。クラリー、一緒にアカサに来ない?」

「アカサに!? な、なんで私? えぇ?」


 だめだ、余計に混乱してきた。

 アイリンたちもぽかんとしてしまっている。


「私がアカサで、未開の大陸関連で動いているのは知っているでしょう?」

「まぁ……。船、作ってるんだよね。新しい動力の」

「そう! チルトちゃんから聞いたのね。でもね、船を動かすのはやっぱり魔法なのよ。なにをするにも魔法が必要。でもアカサには魔法士が足りないの」

「未開の大陸に行くためなら、魔法士もたくさん集まるんじゃ?」

「もちろんよ。そうね、言い方を変えるわ。魔法士の才能不足なの」

「才能不足……」


 そっか、それでさっきカラー姉さんは……。



『いいえ。少なくとも、アカサにあなたほどの魔法士はいないわ。やっぱり魔法士はターヤね……』



 才能不足と言ってしまうほど、アカサとターヤの魔法士に差がある?


「で、でも姉さん、だからって私じゃなくても」

「はっきり言うわ。クラリーみたいな優秀な魔法士が隣りに欲しい。一緒に来て、クラリー」

「……!」


 カラー姉さん、本気だ。

 いや、この人がこんなことを冗談で言うはずがなかった。思いついたら即行動。動くときはいつだって本気なのがカラー姉さんだから。


 でもなんで急に……あ、もしかしてチルトに学校での私の話を聞いたから?

 すぐに来なかったのは、きっと向こうで動力の研究をしていたからだ。そして才能不足を感じ、チルトの話を思い出してターヤに帰ってきた。……私をスカウトするために。



 私が、カラー姉さんの隣りに?

 一緒に未開の大陸を……。



「クラリーちゃん……」



 名前を呼ばれ、ハッとする。

 振り返ると、心配そうな顔のアイリン。

 サキとチルトはそんなアイリンの肩に手を置いて、小さな笑みを浮かべて私の方を向く。

 ナナシュは祈るように、強い信頼の目で私のことを見ていた。



 ……わかってるってば。


「カラー姉さん。ごめん、私はここでやることがるから。アカサには行けない。私にも、自分が決めた道があるんだ。曲げられない、諦められない夢が」


 迷いは無い。私には、みんなと決めた道がある。


「実はこっちですごいことやってるんだ。今はまだ言えないけどね」

「……そう。やっぱり断られちゃったわね」


 カラー姉さんはそう言って、残念がることもなく微笑んだ。


「やっぱりって……え? 姉さん?」

「クラリー、あなた変わったわね。魔法学校に入る前の、昔のあなたならきっと来てくれた。でも今日、短い時間だけどあなたたちと過ごしてわかったわ。今のあなたには目標がある。私の妹が、それを放り出すわけがないもの」

「カラー姉さん……」


 姉さんが近付いてきて、私のことを正面から抱き締める。


「あなたの目標。すごいことがなんなのか。いつかちゃんと教えなさいね」

「もちろん。絶対に驚くと思う。姉さんも船、頑張って完成させてね」


 私たちは身体を離して、お互い笑い合った。

 教えるのはきっと遠くない未来だよ、姉さん。



「クラリーちゃん、がんばらなきゃね!」

「うん」


 頑張って、頑張って。

 通話魔法も、マナ欠乏症の治療も。

 すべて成し遂げることができたなら。


 いつかカラー姉さんの船に乗って、みんなで未開の大陸に行ってみたいな――。




未分類魔法クラフト部

クラフト29「自分たちの道のために」

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