198「自分が決めた道」クランリーテ


「私の考えている演技プランが、上手く行かなかったら……ですか?」


 ホシュンの問いかけを繰り返すユミリア。


「そうです。ユミリアさんたちは、あのスツ劇団の入団試験を受けるつもりなんですよね。いっぱい練習して、想像している通りの演技ができたとして、それでももし試験に落ちたら、どうしますか?」


 いつになく真剣なホシュンの目に、ユミリアはなにを見たのか。

 背筋を伸ばし、ホシュンとしっかり向き合う。


「そういうことは、考えたことがありませんでした。私たちなら合格できると信じていますから。でも……そうですね。もしもの時は――」


 ユミリアは少しだけ微笑んで、


「――また頑張るだけです」

「がん、ばる……」

「もっと歌を、魔法を磨いて、もう一度挑戦します」

「…………」

「何故なら、これは私が決めた道だからです。諦めたくない夢だからです。これを曲げてしまったら、今までの私をすべて否定することになります。これまでの経験も。みなさんとの出会いも。だから、頑張ります。頑張り続けます。私たちなら素晴らしい演技ができると信じていますから」

「自分が決めた道……。自分たちを、信じているから。……そう、ッスよね」


 ホシュンはそう言うと、私たちに背を向けてしまう。

 もしかして、ユミリアに重ねて見ていたんだろうか。

 冒険科を諦めて、属性魔法科に来た自分自身を。


「ホシュンさん、ありがとうございます」


 ユミリアはホシュンの背中に頭を下げる。


「今、言葉にしたことで。私は大事な気持ちを思い出せました。

 私は今日、やはり逃げて来たんです。みなさんは違うと言ってくれましたが、それでも。……だけどもう、私は逃げません。弱気になりません。必ず、道を貫きます」

「アタシ、は……ちょっと気になって、聞いただけッスよ」


 背中を向けたまま。ホシュンは、それ以上なにも言わなかった。



                  *



 みんなでユミリアをバス停まで見送って。

 そのままアイリンの帰りの馬車が来るのを待っていた。


 ホシュンは見送りの後すぐ、用事があるからと先に帰ってしまった。

 随分思いつめた顔をしていたけど、大丈夫かな……。


「これで一件落着ね! 結末を見届けられないのは残念だけど」


 カラー姉さんが小さなため息をつく。

 ……私たちはユミリアから通話魔法でどうなったか聞くことができる。でもその内容を姉さんに教えるわけにはいかないんだよね。


「ねーみんなー。ボクもうお腹ぺこぺこで倒れそうなんだけどー」

「チル……。でももうすぐ三時、お昼食べ損ねたわね」

「はぅ、私たちは朝ゆっくりでしたが……」

「うん……さすがにお腹空いてきた」

「うわぁ、言われたらすっごくお腹へってきちゃったよ~」


 忘れていた空腹に気付いてしまった。

 私の場合、落ちていた食欲が戻ってきたということでもあるんだけど。


「しょうがないわね~。私が出してあげるから、どこか食べに行きましょう」

「い、いいの? カラー姉さん」

「大丈夫よ。でもクラリーは病み上がりなのよね? あなたこそ大丈夫?」

「たぶん、もう普通に食べられると思う」

「ならよかったわ。それじゃ行きましょ」


 ここはお言葉に甘えさせてもらおう。

 姉さんのあとに従って歩き出そうとして、


(あれ? そういえば……)


「そうだ、カラー姉さん。姉さんはどうしてターヤに帰ってきたの?」


 まだカラー姉さんが帰ってきた理由を聞いていなかった。

 色々あって忘れるところだった。


「カラーさんっていつもは年末とかにしか帰って来ないんですよねー?」

「そうよチルトちゃん。特別な用事が無い限り帰って来ないわ」

「つまり姉さん、今回はその特別な用事があったってこと?」


 なんだろう?

 母さんに用事でもあったのかな。旅行中でいつ帰ってくるかわからないけど。


「私が帰ってきた理由は一つよ」


 カラー姉さんは私の正面に立ち、右腕を高らかに掲げる。

 なんだ? と思って見ていると、ビシッ振り下ろして私を指さした。


「クラリー。あなたをスカウトしに来たの」


「へ? スカウト……って……えぇぇぇ!?」

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