196「演技プラン」クランリーテ
「どうするか決まったわね。それじゃ、早く考えた方がいいわ。ユミリアちゃん帰れなくなっちゃうから」
カラー姉さんの言葉に、みんなハッとなる。
「姉さんの言う通りだ。スツまで時間かかるから、バスはかなり早くに終わるよね」
「そうね。ところでユミリア。ご両親には言ってあるの? 城下町に来ていること」
「一応、書き置きはしておきました。出かけてきます、心配しないでくださいと」
「それは……逆に心配になるかもしれませんね」
「ていうか今日中に帰らないと絶対心配されるねー」
「あわわわ、大変だよ! 急がなきゃ!」
私たちがわーきゃーと言い合っていると、パンパンとカラー姉さんが手を叩く。
「はいはい。慌てる時間があったら動く。頭を使う。ユミリアちゃん、私たちはスツにいるあなたのお仲間のこと、知らないわ。結局のところ具体的なことを考えるのはあなたしかいないの」
「はい。わかっています」
「スタイルの違う二人の演技を、でも一つにしようと考えていたのよね? 方針くらいは決めていたんでしょう?」
確かにそうだ。火属性魔法が得意なヤエを仲間にしてからヨリフェルを勧誘している。ユミリアの中には演技プランがあったはず。
「どうなの? ユミリア」
「カラーさんの言う通りです。私は三人の演技を一つにまとめたいと考えていました。ヤエさんとヨリフェルさん、二人がいれば、私の歌の静と動を表現できるはずです。きっと素晴らしいものになると確信していました」
「歌の静と動を……なるほどね。じゃあユミリア、それを二人にも伝えればいいんじゃない?」
二人ともライブマジックショー、スツ劇団を目指しているのなら、ユミリアの考えが伝わるはずだ。
ところがユミリアは首を横に振る。
「伝えました。実は、今回の喧嘩はその話がきっかけになっているのです」
「そ、そうなの?」
「はい。私がこの話をしたら二人とも、自分がいれば十分と言い始めました。それで喧嘩に……」
「……なるほど」
どうやらヤエとヨリフェルは、自分の演技にプライドを持っているみたいだ。
静と動、一緒に演技をする。譲りたくない拘りがあるんだろう。
「う~ん、じゃあどうしたらいいんだろう?」
「話してもダメってことよね」
「気難しい二人を仲間にしちゃったねー。まったく、ボクくらい柔軟に生きた方が楽なのになー」
「チ、チルトちゃん! 私は、こだわりを持つのは大事だと思うよ?」
「まぁチルトの言いたいこともわかるけど、これはショーの話だからさ。ナナシュの言う通り拘りは大事かも。でもその結果すれ違ってたら意味ないし……。これはかなりの難問だよ」
「なに言ってるの、簡単じゃない」
私たちが考え込んでると、またカラー姉さんがパンパンと手を叩いて立ち上がる。
「実演すればいいだけよ」
「……え?」
「実演、ですか?」
三人で演技をしてみればってこと?
ヤエとヨリフェルの二人は喧嘩中なのに、そんなことできるとは思えないけど……。
「演技をするのは、もちろんユミリアちゃんよ」
「私が、演技を?」
「ユミリアちゃんは歌を唄うのよね? あなたが二人の魅力を引き出すための歌を唄う。そういう演技プランなのでしょう?
だったら。二人が演技をしたくなるような歌を唄ってみせればいいじゃない」
「演技をしたくなるような……歌を」
「そうだよユミリア! 喧嘩してようが関係無い。ユミリアが歌で納得させればいいんだ」
ヨリフェルの方はわからないけど、ヤエに関しては歌を聴かせて仲間にしたと言っていた。それと同じことをするだけだ。
「……ですが、すみません。方針は考えていましたが、三人で演技をするための歌がまだできていないんです」
「あらあら、そうなの?」
「だったらユミリアちゃん、これから作ろう!」
「こ、これから作る、ですか? アイリンさん、でも……」
「大丈夫、わたしたちが協力するから! ね、みんな!」
「もちろん」
アイリンの提案に、私たちは力強く頷いて立ち上がった。
「ふふっ。いいわね、面白いことになってきたわ」
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