194「ユミリアの理由」クランリーテ
「私たちの部活、演術部という名にしたのですが、最近人数が三人に増えました」
「えっ、そうだったんだ?」
ユミリアの作った部は、歌や踊りに魔法の演出を加えたライブマジックショーの部活。チームで演技をするために、ユミリアは仲間を集めていた。
ゆくゆくは彼女の両親が所属しているスツ劇団の入団試験を受けるのが目的。
一人仲間ができた話は、前に通話魔法で聞いたけど……。
「ユミリアちゃん、確か火属性魔法の演技が得意な子が入ったんだよね?」
「はい。ヤエ・ヤツカミさんです。その後に入ったのがヨリフェル・ヨノカゼさんです」
「待って、ヨノカゼ? まさかあの?」
「サキさん、ご存じなのですね」
「名前はね。ヨノカゼ家はスツの旧家、大地主よ。そこのお嬢様ってことでしょう?」
「そうみたいです。私はその、そういうことに疎かったので……後々になって知りました」
「へー。そんなお嬢様を仲間にしちゃうなんて、ユミちゃんやるー」
ユミリア、頑張ってるんだ。着実に前に進んでる。
……いやでも、なにか問題があったって話なんだっけ。
「ホシュンちゃん、どうしました? 難しい顔をしてるけど……」
ナナシュの声に、みんなの視線がその隣のホシュンに集まる。
彼女は驚いた顔で、
「へっ!? な、なんでもないですナナシュさん! 少し気になることがあったんですが、大したことじゃないッス。すみません気にせず話を進めてください」
手をぶんぶんと振るホシュン。ナナシュが見た難しい顔って、いったいどんな顔だったんだろう?
うーん……今のところおかしな話はしていないはず。大したことじゃないって言うけど、こっちは気になってしまう。でも、
「実はそのヨリフェルさんと、ヤエさんのことで……」
ユミリアが話を再開したので、集中する。
「端的に申しますと、演技について二人の意見が合わなかったんです」
「意見が合わない?」
「はい。ヤエさんは火属性魔法を使った派手な演技が得意で、いわゆる動の演技です。一方ヨリフェルさんは風属性魔法で優雅に雰囲気を楽しませる、静の演技。二人の、スタイルの違いによる問題なのです」
「あぁ……それは意見が合わなさそうだね」
話だけ聞くと、そもそもその二人がチームを組むこと自体難しく感じる。
「もしかしてさー、ユミちゃん。その二人喧嘩になっちゃった?」
「……はい。ヤエさんとヨリフェルさんが大喧嘩をしてしまい、私はそれをどうにもできなくて、なにも言うことができなくて……」
「ユミリア……」
「一晩中悩んで、気が付いたら早朝に出発するバスに乗り込んでいました」
自分が仲間にした二人が喧嘩を始めてしまった。
ユミリアのことだから、かなり自分を責めたんじゃないだろうか。
「あらあら、大変だったわね。それであんなに暗い顔でバスに乗ってきたの」
「え……あの、カラーさん。私、そんな顔をしていましたか?」
「それはもう! 深刻な顔で周りが見えていない感じだったわ。声をかけるまで私のこと見えてなかったでしょう?」
「……はい。申し訳ありません」
ん? もしかしてカラー姉さん、ユミリアの様子がおかしかったから、心配して話しかけた?
……いや、考え過ぎかな。
それにしてもユミリア。そういうの、通話魔法で相談してくれたらよかったのに。
この場でそれを言うわけにはいかないから、心のなかでそう思っていると、
「……気が付いたらバスに乗っていた、なんて嘘ですね。ごめんなさい……みなさんに、どうしても会いたくなってしまったんです」
「あ……」
通話魔法じゃなくて。会って、話がしたかったから。
それなら……急に来た理由もわかる。
「本来なら、私が一人でなんとかしなくてはいけない問題なのに。どうしても答えが見付からなくて、私は……逃げ出したんです」
「ユミリアちゃん? それは――」
「――そんなことないよ!」
カラー姉さんを遮って、アイリンの大きな声が響いた。
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