190「解熱薬を作ろう」ナナシュ
「えーっと……あ、これッス! 解熱薬になる薬草!」
「これは……?」
私たちはリビングに戻り、ホシュンちゃんが持っているという薬草を見せてもらう。
小さな瓶に詰まった葉っぱを一枚、テーブルの上に出してくれたけど……見たことのない薬草だった。
「レイネという花の葉っぱッスよ。大陸の最北端、イッシキ地方にのみ咲く花ですね」
「あ……聞いたことあります。解熱薬の素材としては一級品だって、お母さんに教えてもらいました。ただ流通量が少なくて、なかなか手に入らないと。これが……レイネの葉なんですね」
「ふぉぉ! なんか、すごそう! ホシュンちゃんよく持ってたね!」
「にゃはは、住んでたのがイッシキだっただけッスよ~」
「そういえば、アカサの北部と言ってたね。なるほどです」
レイネの葉。これで解熱薬を作れば、家にあるのよりも効きのいい薬ができるはず。
「あ、でもナナシュさん。一つ問題に気付いちゃったッス」
「問題……ですか?」
「レイネの葉だけで解熱薬になるんですが、粉末にして飲む必要があるッス。今のクラリーさん、飲めますかね?」
「そういえばクラリーちゃん、喉痛いって言ってたよね……」
「解熱薬として優秀な理由の一つに、喉の鎮痛作用があるッス。今のクラリーさんにピッタリな薬なんですが、実はアタシたちイッシキの人でもこれを飲むのは苦手です。……マズイので」
「うぅ、そうなんだ~」
飲みにくい粉末。しかも美味しくない薬。
よく効く薬なら、それでも飲んでもらうしかない。
雑炊は食べられたんだから飲めないことはないはず。だけど、
「アイリンちゃん、大丈夫。私が飲みやすい薬にするよ」
「ほんとに!? ナナシュちゃん!」
「おおぉぉ、できるッスか!?」
「うん。もっと言えば、アイリンちゃんの未分類魔法を使うことでより効きやすい薬にできるはずです」
「わたしの魔法で……?」
「だからアイリンちゃん、薬作り手伝ってくれる?」
「もっちろんだよ! なんでもするよ!」
「ありがとう。では、早速取りかかりましょう」
待っててね、クラリー。すぐに薬を持っていくからね。
まずホシュンちゃんがくれたレイネの葉。
三枚ほどいただいたけど、一回分の薬なら一枚でいいみたい。
これを手のひらで挟んで、土属性魔法。二つの円柱状の石が現れ、ごりごりとすり潰して粉末にする。
「あ、石臼だね!」
「よく知ってますね、アイリンちゃん」
粉末にするための道具があることは、授業で習って知っている。でも魔法でやってしまった方が準備も片付けもいらないから、石臼という道具を実際に使ったことはなかった。
そういえば、アイリンちゃんのお母さんがあまり魔法を使わない方だと言っていましたね。もしかしたらアイリンちゃんの家には石臼があるのかも。
魔法を止めると、手のひらに残ったのは粉末になったレイネの葉。これを用意しておいた紙片の上に移す。
そしてカバンからブルードロップの入った瓶を取り出した。
「今回は、解熱薬をドロップタイプの薬にします」
「ドロップタイプ?」
「飴にするってことッスか?」
「はい。それなら、喉の痛いクラリーでも舐めるだけでよくなります」
「なるほど~! さすがナナシュちゃん!」
「ただ通常の飲み方と違うので、効きが遅い、もしくは弱い可能性があるの。そこで……」
「わたしの魔法ってことだね!」
「はい。私の方でドロップタイプにするので、アイリンちゃんは猫アレルギーの薬を作るときと同じやり方で大丈夫です」
「わかった!」
新しい紙片を用意して、瓶からブルードロップを出す。
今回は水は少なめにして、火属性魔法で強めに炙る。粘りけを帯び、引っ張ると長く伸びるのを確認すると、丸めて窪みを作る。
「アイリンちゃん、こっちの準備はできたよ」
「りょうかい!」
アイリンちゃんが、ブルードロップを囲むように両手をテーブルに置く。
「い、いよいよッスね……!」
「いつでもいいよ!」
アイリンちゃんの手が、淡く光る。輪っかを作った手の中に光の膜ができあがった。私はその上から、粉末のレイネの葉をゆっくり流し込んでいく。
『呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる』
光の膜を通ると、アイリンちゃんの未分類魔法がレイネの粉を包んでキラキラ光る。
ドロップ一つ分の粉を流し込むと、ぎゅっと蓋をするようにブルードロップを摘み、丸めていく。後は風属性魔法で少し冷ませばできあがり。
「おぉー……こうやって薬を作るんですね。でもこれ、アイリンさんの未分類魔法が切れちゃったりしないッスか?」
「ブルードロップの性質のおかげで、魔法を維持してくれるんです」
「魔法が本格的に発動するのは体内に入ってからだからね~。それまでは結構保つみたいだよ!」
「なるほど、よくできてるッスね。お二人ともすごいです!」
「ありがとう、ホシュンちゃん」
私はできあがった薬を手にとって、立ち上がる。
「さっそくクラリーに持っていきましょう。ちゃんと効くといいんだけど……」
猫アレルギーの薬以外でアイリンちゃんの未分類魔法を利用する。これまでも、いくつか薬を試作してきた。でも誰かに飲んでもらうために作るのは初めてだった。
クラリーに飲ませて……大丈夫、だよね? 唐突に不安に襲われて――
――ぽんと、肩に手を置かれる。
「大丈夫だよ、ナナシュちゃん。自信持って!」
「アイリンちゃん……。そうですね。そうでした。この薬、絶対に効くはずです」
まだまだ、私一人だと肝心なところで後ろ向きになっちゃう。
でも仲間がいれば、私は前を向けるから。
「待っててね、クラリー」
私たちは急いで、クラリーの部屋に向かった。
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