189「アレルギーの薬」ナナシュ
「ん~~~~! 雑炊おいしいっ!」
「ホシュンちゃん、本当に美味しいよ。身体が温まります」
「い、いや~お口に合ってよかったッス。にゃはは」
ホシュンちゃん謙遜してたけど、やっぱり料理得意なんじゃないかな。とっても美味しい。
クラリーの家のリビングで、私たちは向かい合って雑炊を食べていた。
部屋に持っていった土鍋よりも大きな鍋に、いっぱいの雑炊。翌朝の分までありそう。
「あ、そういえばナナシュさん。お家で販売している猫アエルギーの薬、すごく評判いいみたいッスね!」
「ありがとう。ある程度経てば落ち着くと思ったんだけど、最近は遠くから買い付けに来る人が増えて……」
「そうなんだ!?」
「おぉ~、噂が広まってる証拠ッスね」
「忘れていたけど、本当は今朝、そのことをアイリンちゃんに話そうと思ってたの」
「今朝? ……あっ、そっか! 話があってナナシュちゃんうちのクラスに来てたんだね!」
クラリーのことでばたばたしていて、すっかり忘れていた。
私は一旦スプーンを置いて、話し始める。
「さっき言った通り、遠くの町からの買い付けが増えました」
「ナナシュさん。買い付けってことは、まとめ買いして自分の町で売ってるってことッスか?」
「はい。一応、ターヤ王国内の町の人かどうかは確認してます。まだ国内のみの販売なので」
もっとも、完璧にチェックできているわけではない。ひょっとすると国外に流出してしまっているかも。
「大繁盛ッスね、ナナシュさん!」
「ふふ。作り方は、秘密にしていないんですけどね。ただ……製法の性質上、あまり自分たちで作ろうとは思わないみたいで」
「? どういうことッスか?」
見ると、アイリンちゃんも首を傾げている。このことは話すつもりなかったけど……。
「未分類魔法を使うからです」
「う~ん? 未分類魔法を使うから……? ナナシュちゃん、どうしてそれが自分たちで作ろうとしない理由になるの?」
「あぁー……。ターヤだとありそうッスね」
「え? え? ……あっ、ターヤだとって、そういうこと?」
「あ、アイリンちゃん。誤解しないでください。これは、ボストン先生の見解なんだけど……薬を作る際に使う未分類魔法は学校がすでに認めているので、そこで抵抗を感じる人はいないはず、とのことです」
「ほっ……そっかぁ」
未分類魔法を使うこと自体に、抵抗を感じる。
ターヤの人ならば多かれ少なかれあることだけど、こと医療に関しては抵抗を感じる人は少ないそうだ。ましてや魔法学校が認めた薬、なんの問題もない。ただ……。
「使っている未分類魔法について説明すると、その魔法自体が難しいものだと思われてしまうの」
「……ふお?」
「そもそも普段から未分類魔法を使う機会がありませんから。とても細かい働きをするアイリンちゃんの未分類魔法が、とても難解なものに見えてしまうみたい」
「えー!? すっごく簡単なのに!」
「簡単……とまではいかないけど、そうだね。お母さんもすぐに覚えられました」
「なるほどッス。難しい魔法を習得するよりも、完成品を仕入れてしまった方が楽ってことですね」
「うん。……うちとしては、助かるけどね」
おかげでお店は今までにないほど繁盛してる。お店の名前も、町の外まで有名になってるみたいだし。
「それでねアイリンちゃん。最近よくお客さんに聞かれるの。猫アレルギーの薬、他のアレルギーには効かないのかって」
「あぁ! それは気になるところッスね! どうなんですか?」
アレルギーには色んな種類がある。私たちが作ったのは、猫アレルギーの症状が起きないようにするための薬だけど……。
「ん~、一応他にも効く、よね? ナナシュちゃん」
「そうですね。でも……どんなアレルギーでも、というわけではないの」
「ほほ~? というと?」
「私たちが作った薬は、猫アレルギーの主な原因、細かい毛やフケなどを体内に入れないようにする薬です。なので、例えば花粉やホコリのように、呼吸の際に入ってしまうことで発症するアレルギーにはある程度対応できます」
「ふむふむ、呼吸で。……あ、わかったかもしれないッス」
ホシュンちゃんはそう言って、スプーンで雑炊を掬う。私は頷いて、
「うん。食べ物は直接体内に入ってしまうので……おそらく」
「そうだね~。あの薬だと、食べ物のアレルギーは絶対防げないよ」
「仕組みを聞けば、当然ッスね」
「はい……やっぱり、そうですよね。今朝相談しようと思ったのは、そのことだったの」
ダメなのはわかっていたけど、あまりにも食物アレルギーのことを質問してくるお客さんが多いから……。一応アイリンちゃんに聞いてみようと思ったのだ。
「そっか~~。うーん、食べ物のアレルギーに対応するなら、新しい魔法を考えないとダメな気がするよ~」
「薬に使用する素材も、改めて考える必要があるね」
少しずつ進めていくしかない。
未分類魔法と組み合わせて薬の幅を広げていけば。
いつか、マナ欠乏症の治療薬にたどり着くかもしれない……。
(そう、いつか……きっと)
「……さて、そろそろクラリーの様子を見に行きましょう。熱が下がっているといいけど」
私たちは食器を簡単に片付けて、クラリーの部屋に向かう。
クラリーは出るときに見たのと同じように、静かに眠っている。だけど……。
「熱、上がってるかもしれません」
「えぇっ。ど、どうしよう……」
「安心して。解熱薬、家に取りに行って来るから」
ご飯を食べる前に取りに帰るべきだったかもしれない。
ちょっと後悔しつつ、急いで部屋を出ようとすると、
「解熱薬……あ、ナナシュさん待ってくださいッス。アタシ、解熱薬になる薬草、持ってますよ」
「……え?」
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