187「私たちで看病を」ナナシュ


 クラリーのお母さんは珍しく長期で家を空けていた。先週、十一の月の頭から旅行だそうだ。行き先は北の方としか聞いていないらしく、でもクラリー本人は特に気にしていなくて……クラリーの家らしいなって思う。


 家の前で声をかけても反応なくて、入ってみるとリビングで寝ているところを発見(制服のままテーブルに突っ伏して!)。

 私たちはクラリーを部屋まで連れて行き、着替えを手伝ってベッドに寝かせた。


「ね、ナナシュちゃん!」

「はい。私たちでクラリーの看病をしましょう」



 というわけで、私たちによるクラリーの看病が始まったのです。


「クラリー……」


 苦しそうな顔で、でも少し落ち着いたのか小さな寝息を立てているクラリー。

 先ほど作った冷感シート、別名ひえひえくん(命名アイリンちゃん)の上から手を当ててみる。まだ冷たいけど少しぬるくなり始めていた。クラリーの熱が思ったより高い。最初のうちは早めに交換しよう。


「……ううん、それよりも家から解熱薬を持ってきた方がいいかもしれませんね」

「ナナシュちゃ~ん、お水持ってきたよ」

「ありがとうございます、アイリンちゃん」


 たっぷり水の入った大きめの瓶とコップをお盆に載せて、アイリンちゃんが部屋に入ってくる。


「ナナシュちゃん、他にすることないかな? 風邪の時ってどうするのがいいんだろう?」

「そうですね……。まずはとにかく暖かくすることです」

「あ、この部屋ちょっと寒いよね」

「もう十一の月、ターヤの冬は遅いけど……さすがに冷えてきました」

「任せて! そんな時はね、この天井の照明から伸びてる紐に~」


 天井に吊り下げられている、光属性魔法式のランプ。そこから一本の紐が伸びていて、その先には宝石が結びつけられていた。あれってもしかして、


「わたしが使うの初めてなんだよね。上手くできるかな」


 アイリンちゃんが宝石をぎゅっと握ると、オレンジ色の淡い光を放つ球体が浮かび上がった。


「できた!」

「ヒートボール……。アイリンちゃん、属性魔法上手くなったね」

「えへへ~」


 アイリンちゃんが魔法から意識を放しても球体は浮かび続け、ほんのり暖かい熱を放っている。

 紐に取り付けられている宝石は魔法道具。このヒートボールという部屋を暖めるための魔法を使うと、しばらくの間その魔法を維持してくれる。コンパクトで便利、最近流行りの暖房用魔法道具だ。私の部屋にも欲しい……。


 それにしても。

 アイリンちゃん、何度かクラリーの家にお泊まりしているみたいで、家の中のことはもうすっかり私より詳しくなってる。


「これで『暖かくする!』はクリアだね」

「そうだね。次は、もうアイリンちゃんに持ってきてもらいましたが、こまめな水分補給が大事です。脱水症状にならないように気を付けましょう」


 私は水の入った瓶を手に取り、コップに傾けながら魔法を使う。

 ザラザラザラと少しだけ氷の粒を作ってから、普通に水を注いだ。


「わたしも風邪ひいた時、お母さんに水をいっぱい飲みなさいって言われたよ。サイドテーブルに置いておけば飲んでくれるよね」

「はい。さて、暖かくして、水分をしっかり取ったらあとは……」


「ナナシュ……アイリン」


 声が聞こえ、私たちはベッドに近寄る。


「ごめんなさい、起こしましたか?」

「ふおっ! クラリーちゃん、うるさかった?」

「だいじょうぶ……。ありがとう、二人とも。来てくれたのは、二人だけ?」

「サキちゃんたちも心配してたんだけどね~」

「あまり大勢で押しかけるのもよくないという話になって。サキちゃんとチルトちゃんは、明日お見舞いに来ます」

「そっか……」

「それから――」


 ガチャリ。

 言いかけたところで、後ろの扉が開く。


「お待たせッス! あ、クラリーさん起きてるんですね。キッチンお借りしました!」


 小さなお鍋を持ったホシュンちゃんが、中に入ってきた。

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