185「ボクの相棒」チルト


「その真っ黒な短剣が、魔剣だったんだ。いやービックリしたよ」


 ヒミリ村で魔剣を発見した時のことを話し終えて、ボクは一息ついた。

 ちょっと長くなっちゃったかな。


「チルトは昔からチルトって感じだね。閉じこめられても落ち着いて対処できたのはさすがだよ」

「なにかの仕掛けで閉まったなら、開ける仕掛けもあるはずって思ったんだ。まー、サキが慌ててたから逆に冷静になれたっていうのも大きいねー」

「なるほど。でもサキは災難だったね」

「あたしはっ! ……ていうかチル! そんなに詳しく話さなくてもいいじゃない!」

「えー? サキが怖くて大泣きしちゃうのが話のクライマックスなのに」

「違うでしょ!」

「あ……あぁー! もしかしてサキちゃん、この時から暗いところ苦手になっちゃったの?」

「えっ!? な、なんでアイリンがそのこと知って……!」

「あー、やば」

「え? あれ? チルちゃんが教えてくれて……。もしかして言っちゃダメだった?」

「へぇ……サキって暗所恐怖症だったんだ」

「意外です。サキちゃんにも苦手なものがあるんだね」

「でもそんな体験をしたら暗所恐怖症になるのも当然ッス。気にすることありませんよサキさん」

「く~っ! チ~ル~!!」

「ま、まぁまぁ、いいじゃん。ホーちゃんの言う通りだよ。気にしない気にしない」


 だめだ、サキはボクを睨み続けている。

 これは後でいっぱい文句言われそうだ。


「まーそれはそれとして。今思うと、あそこは本当に不思議な場所だったなー。結局その後の調査でも、墓地の地下は大昔の村の人が作った場所で、古代文明とは直接関係無いってことになったんだ」

「そうなんだ? なにか、繋がりはありそうだけどね」

「さっすがクラちゃん。ボクもそう思ってるんだ。でも証拠はなにもなくってさ」


 少なくとも、当時は。

 でも今は……浮遊導剣フローティング・ナイフが、空の研究室へ繋がる扉の鍵だとわかった。

 仕掛けのスイッチに属性魔法が使われているのも同じだった。

 やっぱり、なにか繋がりがあるのかもしれない。


「ところでチルト。気になってたんだけど、最後に聞こえた声って、やっぱり壁画の女性の……幽霊?」

「クラリー、なにを出すんですか。幽霊なんていません。チルトちゃんの空耳です。勘が働いたというヤツです。そうだよね、チルトちゃん」

「決めつけは良くないよ、ナナシュ。きっと幽霊だったんだよ。……ね、そうだよね、チルト」

「あはは、どうだろねー」


 二人は相変わらずだなー。

 あの時の声が、幽霊だったのかどうかはわからないけど……。


「そうだ。壁画の下に書いてあった文字なんだけどね。『親愛なる――』って書いてあったんだ。その後に名前が続いてそうだったんだけど、削れちゃってて専門家でも判別できなかったって」

「じゃあやっぱり、壁画の女性のお墓だったわけッスね~」

「ふおおお! そっかぁ、きっと大切なひとだったんだね」

「大切な人……」


 呟いて、ボクはあることに気付いた。

 見るとクラちゃんもハッとした顔をしている。



『鍵はアステルの』



 空の研究室で、クラちゃんが読んだ壁の文字の、その一文。

 遺跡の鍵は浮遊導剣フローティング・ナイフだった。

 そして、浮遊導剣フローティング・ナイフは女性の壁画の後ろにあった。


 研究者の大切な人の名前と思われる『アステル』。

 もしかして、刻まれていた名前って……。


「チルちゃん? どうかした?」

「あ、ううん。そうそう、そうなんだよー。魔剣は遺跡で見付けたものを、女性の遺品として納めていたんじゃないかって結論になったんだ」

「へ~。でもチルちゃんが持ってていいよってなったんだよね?」

「うん。基本的に魔剣は発見者が所有者になるからね。でも最初は色々言われたなー」

「あの頃ちょっと揉めてたわね。それでも、チルは譲らなかったけど」


 遺品なんだからもとの場所に納めておくべきだって、議論になったっけ。でも、


「……あの時聞こえた声の正体はわからないけどさ。でも、偶然じゃない気がするんだ」

「チルトの勘?」

「そう、ボクの勘。だからボクが持っていたいって思った」


 そしてその勘は正しかったと、今なら自信を持って言える。

 あの場所に、ボクらを導いてくれたから。


「今は大事な役目のために預けちゃってるけど、ボクの大切な相棒だよ」


 ボクはナハマの方角に視線を向ける。


 これからもよろしくね、浮遊導剣フローティング・ナイフ




未分類魔法クラフト部

クラフト27「チルトとサキの始まりの冒険」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る