184「最奥の墓所」チルト


「チル! そこにいるの? チル!」

「サキ! 待ってていま行くよ!」


 壁越しじゃない、クリアに聞こえるサキの声。入口の扉が開いたんだ!

 ボクの魔法の灯りを頼りにサキが駆け寄ってくるのがわかる。ボクも声のする方に駆けた。


「チルー!!」

「サキ――うわっと」


 部屋の中央で合流すると、サキは勢いよく抱きついてきた。


「うわぁぁぁぁん、よかった~! チル~」

「おおう……相当怖かったんだね。よしよし」


 サキがこんな風に声を上げて大泣きするなんて珍しい。

 魔法が上手く使えなくて灯りも無し、階段の狭いスペースに真っ暗な中閉じ込められたんだから、いつも気丈なサキがこんな風になるのも無理もないか。

 本当に、悪いことしちゃったな……。


「落ち着いた? サキ」

「……ええ。でも本当に、チルが無事でよかったわ……」

「サキ……ありがと。ね、魔法まだ使えない? ボクの魔法じゃ部屋全体を明るくできなくて」

「やってみるわ」


 サキは一度深呼吸をして、両手を掲げる。


「光よ、闇を照らし我を導き給え。クリアリングライト」


 ぽう……っと、光の球が天井付近に浮かび上がる。

 光はだんだん強くなり、部屋全体を隅々まで照らしてくれた。


「まぶしっ!」

「ずっと真っ暗だったから、目が慣れないわね」

「でもさすがサキだよ。こんな広範囲を照らす光属性魔法が使えるなんて」

「そ、そう? これくらい普通よ!」


 よかった、ようやくサキも調子が戻ってきたみたいだ。


「さてと……」


 ボクは振り返り、部屋の奥を見る。

 階段のところだけじゃない、奥の扉も開いていた。

 サキの魔法は扉の向こうも照らしていて、もう一つ小さな部屋があるのがここからでもわかる。


「ね、サキ!」

「……入るとか言わないわよね」

「言う! いこっ!」

「えぇ!? せっかく出られるのに……って待ちなさいってば! チル!」


 ボクは扉に駆け寄ると、念のため周りを調べる。勝手に開いたんだから、また勝手に閉じるかもしれない。

 念のため間にナイフを置いてから中に入る。これくらいじゃつっかえ棒にもならないけど、閉じちゃった時に隙間はできるはず。


「ね、ねぇ、やっぱり危ないわよ。早く出ましょう」

「大丈夫だって」


 今度は分断されないように、サキはぴったり背中にくっついている。ちょっと歩きにくいけど仕方がない。


 小部屋の一番奥には棺があった。今度のはちゃんと蓋がしてある。そしてその後ろの壁には、大きな絵が描かれていた。


「女の人、かな?」

「たぶんそうね。少なくとも、あの神の絵とは全然違うわ」


 髪の長い女性の壁画。顔はあまり細かく描かれていないし色も塗られていないけど、綺麗な人、という印象だった。


「もしかして、この女の人のお墓なのかな」

「そうかもしれないわね……」


 だとしたら、さすがにボクの手には負えないかな。棺を開けちゃうのはマズイし。あとはプロに任せるしかなさそうだ。

 ここを発見できただけでも十分。


「よし。サキ、帰ろっか」

「ええ、そうね。……っていうか、集合時間過ぎてるわよ絶対!」

「うわぁぁそうだ! あ、ここを発見したってことで許してくれるんじゃない?」

「くれないわよ! 怒られるに決まってるでしょ!」

「ちぇー」


 ボクらは急いで部屋を出ようとする。置いておいたナイフを拾い上げようとして――



『――待って――』



「ん? サキ、なにか言った?」

「なにも言ってないわよ。早く出ましょ」

「いや、いま……声が聞こえたような」


 微かに、女の人の声が後ろから……。


「こ、怖いこと言わないでよ。って、チル!?」


 再び部屋の奥へ。棺の後ろに回り込み、壁画を見上げる。


 ボクの勘が言っている。ここに、なにかがある。


 いま聞こえた声は、あなたの声?

 あなたは、ボクになにを見付けて欲しいの?


「これ……絵の下の方に、小さな文字が書いてある」


 その文字を読もうと、壁画に手を触れると――ズッ……と、壁画が横にスライドした。


「あっ……あぁ!!」


 壁画の後ろに小さな窪みが現れる。

 そしてその中には、真っ黒な短剣が置かれていた。

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