183「扉の仕掛け」チルト


 魔法による微かな灯りを頼りに、ボクは部屋を調べて回った。

 わかったのは、ここもやっぱり古代遺跡ではないということ。

 先生が言っていたように、古代遺跡特有の建築素材が使われていない。普通の石材で作られた地下室だ。村の人が後から作ったものだと思う。

 あとで地下墓地にする予定だったのだろうか。部屋の四隅付近に、石でできた棺のようなものが置かれていた。ようなもの、というのは、蓋が無くて中身も空っぽだったから。


 そして階段から見て正面奥の壁に、扉があった。

 把手は無く、こじ開けるのも無理っぽい。きっとなにか仕掛けがあるんだと思う。


 扉には絵が描かれていた。上で見た、ヒミリの神の絵。資料に書かれていたのは本当だったみたいで、あの絵よりも細かいところまで描いてある。

 具体的には、神様はローブのようなゆったりした服を着ていた。肩から脇にベルトのようなものが描かれていて……後ろになにか背負っている?

 でも頭はやっぱり長方形の箱が乗っかっている。ここだけはのっぺりとしていて、細かく描かれていない。


 気になるのは、神の絵の下。四角い枠の中に、四つのマークが描かれている。

 なんだろう……これ? 右下のは火だと思うんだけど。


「あ、もしかしてこれ、四属性?」


 右上は山のようなマーク。おそらく土属性。

 左上は風がなびいているような三本線、風属性。

 右下は水滴のマーク。水属性。

 そして左下は炎のマーク、火属性


「……うん。そうだとして、なんの意味があるんだろう?」


 ボクの勘だと、これがなにかのヒントになっていると思う。

 この扉を開けるための鍵に。


「属性魔法……四つの魔法? 四つの……? あっ」


 ボクは振り返って、辺りを魔法で照らす。

 この広い部屋にあるのは、四隅に置かれた四つの空の棺だけ。

 もしかして……。


「試してみよっか。……と、その前に」


 ボクは階段のところまで駆ける。


「サキ! 大丈夫?」

「チル~……もうだめ、真っ暗でなにも見えないの。おかしくなりそう……」

「もう少しだけ待って。手がかりを見付けたから。今からそれを試すよ」

「本当……?」

「うん。だから元気出して。成功を祈ってて」

「わかったわ。がんばって、チル」

「任せて!」


 さーて、これでどっちの扉も開いてくれるといいんだけど……。

 ボクはまず、左奥の棺に駆け寄った。


「うーん、どうやろうかな。魔法って、もとの素材が無いと魔法を使い切った瞬間消えちゃうんだよね」


 たぶんそれだとダメだ。だから……。

 ボクは鞄からナイフを取り出した。


「持ってきておいてよかった。ちょいちょいっと、周りの壁を削って……」


 石のかけらを手のひらに集めて、棺の中に入れる。


「たぶんそんな大きな魔法じゃなくていいと思うんだけど……」


 ボクは石のかけらに魔法を使い、集めて、一つの石ころに変えていく。


「よし。これでいいかな?」


 次は水属性だ。後ろの棺に駆け寄る。


「こっちは簡単。水筒の水を出して……あ、染み込んじゃう! じゃあまず、手のひらに溜めてから……」


 魔法を使い、水を氷に変えていく。氷属性魔法は水属性の派生だし、もともとの水を使ったものならほぼ水属性魔法みたいなもの。きっと大丈夫。


「問題は次だなー」


 右手前の棺に駆け寄り、腕を組む。

 ここは火属性魔法なんだけど、燃やすもの……どうしよう。服をちぎるしかないかな。


「あ……ちょうどいいのがあるじゃん」


 ポケットから取り出した、先生がくれた資料。


「神様、ボクらが助かるためです。お許しくださいー」


 ボクは神の絵が描かれた紙を少しちぎって、棺の中に入れて魔法で燃やす。

 この火が消える前に次の魔法使わないと!


「ま、最後は簡単なんだけどね」


 右奥の棺の中に手を入れて、ボクは魔法を使う。

 風属性魔法。ここは最後だから、ただ使うだけでいい!


「頼む、開いてよ……!」


 奥の扉じゃなくてもいい。サキを閉じ込める、石の壁が開きますように!


 願いを込めて、魔法を使うと――



 ゴゴゴゴゴ……。



 ――どこからか、重たいなにかが動く音がした。

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