182「必ず見付けてみせるから」チルト


 階段に飛び込んでからは慎重に。真っ暗だったから火属性魔法を灯り代わりにして、ゆっくり降りていく。


「チル、先生に報告した方がいいわよ」

「えー、せっかく見付けたんだし探索しようよー」

「なにかあったらどうするのよ……」


 サキはそう言いながらも、ちゃんと後ろからついて来てくれてる。


「大丈夫だって。それにほら、こうして二人で探索してるとプロになった気がしない?」


 遺跡探索の際には、魔法を専門とする魔法士と組むのが基本。

 探検家が先頭に立って道を拓き、なにか起きた時は魔法士の魔法で対処する。

 サキは魔法が得意だから、いつかこんな風に一緒に探索が出来たらいいなって思ってた。だからちょっと嬉しい。

 そしてサキも、そんなボクの気持ちをわかってくれるから、


「しょうがないわね……危険そうならすぐに引き返すわよ?」

「もっちろんだよー」


 こうやって付き合ってくれる。ありがとね、サキ。


 ようやく階段を降りきると、広い部屋に出た。

 ボクの魔法じゃ部屋全体を照らせなかった。奥の方はもちろん、左右の壁すら見えなかった。それほどに広い部屋だということだ。


「随分広いのね……。それに、寒い」


 確かに地上よりも一段と涼しい。

 振り返ると、サキはまだ階段のところでこちらの様子を窺っていた。


「ね、サキが魔法使ってくれない? ボクの魔法じゃ照らしきれなく、て……?」


 微かな振動を感じる。そして、


 ガコン!


「えっ!? ――サキ!」


 突然、入口の上から石の壁が降りてきて、閉まってしまう。


 いけない――サキと分断された!

 ボクは慌てて壁に飛びついた。


「サキ! 大丈夫!?」

「ち、チル! どうしよう、上の墓石も閉まっちゃったみたい!」

「うそ!? くっ……この」


 壁を持ち上げようとしてみるけど――だめだ! 隙間がないから指を入れられない。掴む場所もない。


「閉じ込められた……?」

「うぅ、チル~、もうここから出られないの?」

「そんなことないよ、出られるから落ち着いて」

「無理よ! こんな真っ暗なところ……あたし……いや! 誰か助けて! 助けてよぉ!」

「サキ? 落ち着いて、まずは魔法で灯りを点けて!」

「ま、魔法…………だ、だめ! うまく使えないわ!」

「っ……」


 真っ暗な場所に閉じ込められて、サキはすっかり怯えてしまっている。そのせいで集中できず、魔法も上手く使えないみたいだ。


「チル……あたし、こんな場所で死ぬの?」

「死ぬ!? だめだよそんなこと言っちゃ!」

「でもこのままじゃ……うぅ」

「サキ……」


 ボクのせいだ。サキをこんなに怖がらせたのは、ボクが探索しようと言い出したからだ。無理矢理隠し階段に飛び込んで、付き合わせちゃったからだ。

 サキの言う通り、ちゃんとプロの探検家に任せていれば……。


 ……ううん、今そんなことを考えたってしょうがない。反省は後だ。


「大丈夫だよ、サキ。ボクを誰だと思ってるのさ」

「チル……?」

「プロの探検家に鍛えられてきたんだから。ボクが必ず、外に出る方法を見付ける。だからサキ、安心して待ってて」

「……うん」


 ふぅ、よかった。少し落ち着いたみたいだ。


「鞄に水筒が入ってるよね? 飲むといいよ」

「あ……そういえば、そうだったわね……」


 ほとんどの持ち物は宿に置いてきてるけど、鞄には水筒と筆記用具が入っている。

 ……ボクはそれに加えて、こっそりナイフを入れておいたけど。


「水を飲んで落ち着いたら、もう一度魔法を試してみて」

「わかったわ……」


 か細い声に、胸が痛む。

 ごめんね。でも……


「サキ、これから部屋を調べるから、少し離れるよ。大丈夫、ボクならできるから」

「チル。……信じてるから」

「うん、任せて! よーし、探索開始!」


 ボクが必ず助ける。


 真っ暗の部屋の中を、ボクは一歩踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る