181「墓地に眠る」チルト


 ヒミリ村の古代遺跡に併設された広い墓地。

 立てられた墓石は石版の上の方を丸くしたタイプで、いくつかは崩れてしまっているけど規則正しく並んでいる。30列くらいあるんじゃないかな。横も同じくらいの数があるから、敷地はたぶん正方形だ。

 先生にもらった資料に墓地のことも少し書いてあったけど、ここはもういっぱいになっていて、今は違う墓地を使用しているとか。つまり、ここに眠っている人たちは相当昔の人ってことだ。


「ねぇ、チル。ここちょっと……不気味じゃない?」

「まぁ墓地だからねー。幽霊出そうって心配してるの?」

「そうは思わないわよ。でも、なんだかひんやりしてるわ」


 言われてみれば。もう夏も近いという時期なのに、ここはかなり涼しいかも。

 墓石の間は石畳になっていて、その上を歩きながら観察していく。


「……うーん、本当に墓石が並んでるだけだなー。ていうかなにかあればもう探検家が調べちゃってるか」

「でしょうね。さすがに、お墓一つ一つを調べたりはしてないでしょうけど」

「この数の墓を全部暴いているとは思えないねー」


 そもそもここは古代文明とは関係無い、村の人が作った場所だ。丹念に調べたりはしないだろう。せいぜい墓石に書かれた文字を見るくらいかな。


「じゃあ帰ろっか。……あれ?」


 もうなにも無い、帰ろう。そう思って振り返ると……ボクは、墓石の一つに違和感を感じた。


「どうしたのよ、チル」

「サキ、この墓石見て」


 その墓石は、一番手前の列の中央にある墓石。形は綺麗に残っているけど、よく見ると表面がかなり風化してボロボロだ。


「この墓石だけ、なんか古くない?」

「そうかしら? こんなものじゃ……いえ、そうね。隣の墓石に比べると、確かに」


 これが一番奥の墓石ならわかる。同じくらい風化した墓石がいっぱいあったから。

 でも、手前の列の墓石はここまでボロボロじゃない。


「風化の度合いを見るに、奥から使っていったんだと思うんだ」

「普通そうよね」

「ほら見て、この墓石文字もほとんど消えちゃってる。なんて書いてあるんだろ」


 ボクは墓石に掘られた文字をなぞってみる。けど……だめだ、それでも文字は読めなかった。


「あとで村の人に聞いてみよっかなー」

「もしかしたら、大した理由じゃないのかもしれないわよ?」

「あはは、そうかもねー」


 念のため文字をすべてなぞってみる。

 うーん、わからない。やっぱりだめかー。


 そう、思った瞬間。



 ガコッ。



 墓石が、動いた。


「ち、チル? なにしてるのよ! 墓石動かしたらダメじゃない!」

「違うよ! サキも見てたでしょ、勝手に動いたんだよ!」


 勝手に?

 ううん、きっかけがあったはずだ。例えば、文字をなぞることで仕掛けが発動したとか。となれば……。


 ボクは正面から墓石を掴む。


「ちょっと……チル、本当になにしてるのよ」

「んー……あ、やっぱり。簡単に動くよこれ」


 軽く引っ張っただけで、すーっとさらに手前に動いた。

 そして墓石の後ろには、


「階段だ……! 隠し階段だよサキ!」

「そ、そう、みたいね。なんでこんな場所に……」


 墓石のあった位置の後ろ、石畳の通路にぽっかりと穴が開いて、地下に通じる階段が現れた。墓石と一緒に石畳も手前に動いたんだ。墓石を把手みたいにして!

 これはかなり周到な隠し方だ。埋められている棺の位置に階段を作ったら、暴かれた時に見付かってしまう。でも、墓石の後ろ、通路なんて掘り返さない。ちゃんとした手順を踏まないと見付けられないんだ。


「ね、サキ!」

「……嫌な予感がするんだけど」

「降りてみよー!!」

「ダメに決まってるじゃない――あっ、待ちなさいってば!」


 サキの制止なんて聞かず、ボクは階段に飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る