クラフト27 チルトとサキの始まりの冒険

179「とっておきの話」クランリーテ


「みんなおまたせ~!」


 放課後。アイリンは元気よく部室の扉を開けた。

 中にはサキとチルト、ナナシュが揃ってる。


「遅かったわね。アイリン、クラリー……と、後ろにいるのは」

「ど、どうも~ッス。お邪魔します」


 わたしの後ろからピョコンと姿を見せて、頭を下げるホシュン。


「おぉー、ホーちゃんだ。なんか久しぶりだねー」

「いらっしゃい、ホシュンちゃん。確か、クラフト部の部室には来づらいと聞いていましたが……」

「いやぁ、そうだったんッスけどね」

「一緒に行こうって、アイリンが無理矢理」

「えへへ~。だってずっと『遠慮するッス~!』って言うから。もう連れてきちゃうしかない! って思ったんだよ」


 まぁ……アイリンの言うこともわかる。クラスでは普通に話すのに、放課後になると妙に余所余所しくなるのは、私も気になっていたから。


「しょうがないわね。ホシュンがそこまで気にするようになったのはチルのせいなんだから」

「えー? ん~、ごめんねホーちゃん。悪気はまったくなかったんだよ」

「悪気はなかったかもしれないけど、面白がる気はあったわよね?」

「それは認めるけど」


 それを悪気と言うんじゃないかな、チルト。


「とにかくごめんねー、ホーちゃん」

「い、いえいえチルトさん! そんな謝らないでくださいッス」

「でも申し訳ないよ。なにかお詫びができたらいいんだけどなー」

「えぇ?! お詫びなんて…………あ、じゃあ魔剣の話が聞きたいッス! 持ってるんですよね、チルトさん!」

「お、よく知ってるねー。ってこの学校じゃ有名かー」


 冒険科のチルトは魔剣を持っている。そのことは、私たち属性魔法科まで話が伝わっている。一年生の間ではもうすっかり有名だ。


「でもざんねーん。ホーちゃんには見せられないなー」

「!? そ、そうッスか……」


 がっくりと肩を落とすホシュン。それを見て、サキはチルトを睨み付ける。


「ちょっとチル。またそんな意地悪なして」

「いやーごめんごめん。ついさー、ホーちゃんの反応がおもしろくって」

「え? え? 言い方って、どういうことッスか?」


 ホシュンはチルトとサキの顔を交互に見て、頭の上にはてなマークを浮かべている。

 さすがに可哀想になってきた。助け舟を出そう。


「ごめんホシュン。実はチルトの魔剣、ある人に預けてるんだ」

「あ、預けてる……ッスか?」

「そーゆーこと。ボクの手元にないんだ。だから見せられない」

「は、はは……なんだ、そういうことッスか……」


 大きなため息をついてテーブルに突っ伏すホシュン。


「ホシュンちゃん、大丈夫ですか?」

「すみませんナナシュさん。安心しただけだから大丈夫ッス。それにしても、魔剣を預けるって珍しいですね」

「まーねー。あんまり魔剣の貸し借りみたいなことしないからね」

「へ~、そうだったんだ。じゃあチルちゃん、良かったの? あの時預けちゃって」

「モチロンだよ。だって相手は魔法騎士ミルレーンさんだよ?」

「魔法騎士に預けたんですか。それなら安心ッスけど、どうしてまた?」

「ボクの魔剣ってね、遺跡の探索ですっごく便利なんだよ。だからしばらく貸してもらえないかって頼まれちゃってさー」

「なるほど……ッス」


 ミルレーンさんに預けたこと、話ちゃうんだ。と思ったけど、さすがに預けた本当の理由までは教えるつもりはないみたいだ。というか教えられない。


 空の研究室に行くための隠し部屋。チルトの魔剣はその扉の鍵になっている。

 私たちは先に帰らなきゃいけなかったけど、ミルレーンさんたちはまだ調査中。それで魔剣を預けることになったのだ。


 でも……そもそもどうして、チルトの魔剣・浮遊導剣フローティング・ナイフが鍵だったんだろう。確かあの魔剣って……。



「……そういえばチルト。あの魔剣、どこで見付けたの?」


 ナハマではないとは聞いていた。それなのに鍵になっているのが不思議だと。

 じゃあどこで見付けたのかという話はしたことがなかった。


「ボクが魔剣を見付けたのは、ヒミリ村だよ。サキも一緒だったんだけど……あ、そうだ。ホシュン、魔剣は見せられないけどさ、その時のこと話してあげるよ」


 とっておきの話だよと、チルトはイタズラっぽい笑みを浮かべた。

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