178「最高の誕生日」クランリーテ/アイリン
「はい、アイリン。誕生日おめでとう」
「ありがとう! クラリーちゃん!」
私のプレゼントはサキのよりも小さい。箱とかもなかったから、そのまま包装紙にくるんである。
アイリンが包装を解いていくと、出てきたのは……。
「革のお財布……じゃ、ないみたい。――あっ、これってもしかして!」
「うん、パスケースだよ」
革のパスケース。ストラップがついていて、鞄に取り付けることができる。
「パスケース、ですか……?」
「あぁー! ナナちゃん、ボクたちはあんまり馴染みがないけど、アイリンちゃんは定期券使ってるんだよ!」
「あたしも最近知ったのよね。通学の馬車に乗るための定期券があるって」
チルトとサキの言う通り、城下町に住む私たちには馬車の定期券自体、縁が無い。だからパスケースなんて必要ない。
でも、アイリンは日常的に使っているから。
「定期券、パスケースに入れておけば乗るときの出し入れが楽になると思って。アイリン、そういうの持ってないでしょ?」
「うん! 持ってない!」
……よかった。
昨日、アイリンのことをたくさん考えた。
学校でのアイリン。クラフト部でのアイリン。いつもの、アイリン。
プレゼント選びですごく悩んでいたけど、なんだかフッと力が抜けて。
その時ちょうど目に飛び込んできたのが、パスケースだった。
瞬間、これだ、って思った。
馬車に乗るのに定期券を使っているって聞いていたから、すぐに結びついた。
「みんなのと比べるとちょっと地味かもしれないけど……」
「そんなことないよ! ね、クラリーちゃん、早速使っていい?」
「もちろん」
アイリンは嬉しそうに、鞄から定期券を取り出して、パスケースの中に入れる。
「えへへ、クラリーちゃんからもらったパスケース~。鞄につけて~。できた! よろしくね、これから毎日お世話になるよ~」
と、パスケースに話しかけている。
「な、なんか恥ずかしいな……」
やっぱりちょっと、普通な感じのプレゼントだけど。
……毎日使う物をプレゼントできた。
アイリンの嬉しそうな顔も見れたし、よかったかな。
「みんな本当にありがとう! じゃあ今度は、わたしがみんなにお返しをするね!」
「……ん? お返しって?」
「誕生日会を開いてくれたお礼のつもりだったんだけど、プレゼントまでもらっちゃって、釣り合うかわからないけど」
「なになにー? アイちゃんなにか用意してたの?」
「うんっ!」
お礼なんていいのに。アイリンらしいけど……。
でも、いったいなにを用意したんだろう。
「チルちゃん、ちょっとケーキ持っててもらっていい?」
「うん、いいよー」
テーブルの真ん中に置いてあったケーキをチルトが持ち上げる。
「みんな、テーブルを見ててね。いくよ~!」
アイリンが空いたスペースに手をかざす。
もしかして、魔法を使うつもり?
「あっ……見てください!」
「テーブルが、光って――光が、なにかの形になろうとしているわ」
「うわー! これってもしかして!」
「文字だ……」
テーブルに、光の文字が浮かび上がる。
『みんな ありがとう』
「アイリン! これ、もしかしてマナで書いたの!?」
「うん、そうだよ! ずっと残してはおけないんだけどね~」
アイリンが手をどけると、すうっと文字が消えてしまう。
こんな魔法まで思い付くなんて、さすが……いや、そうか!
あの空の研究室で見た、壁に書かれた文字を真似しようとしたんだ!
「……本当に、さすがアイリンだね」
*
「えへへ、今日はいい一日だったな~」
夕暮れ時。誕生日会がお開きになって、わたしはバスの駅の隣りにある馬車乗り場に向かっていた。
こんな風に誕生日をお祝いしてもらえるなんて思わなかった。プレゼントまでもらっちゃった。
お返しに用意したサプライズ未分類魔法も上手くできた。前々から考えていたんだけど、この休みでようやく形にできた。
本当は紙とかに文字を残せればいいんだけど、なかなか難しい。魔法として維持しないと、どうしても空気中のマナに溶けちゃう。古代文明の人たちはどうやって文字を残していたのかな……。
「あれ、乗らないのかい?」
「……はっ! 乗ります乗ります!」
ぼーっと考え事をしていたら、ニィミ町行きの馬車の前を通り過ぎてしまった。顔なじみの御者のおじさんだったから、気付いて声をかけてくれた。
わたしは馬車に乗り込んで、おじさんの後ろに立つ。
「ん? どうしたんだい?」
「えへへ。はいっ、定期券です!」
わたしはちょっとドキドキしながら、クラリーちゃんからもらったパスケースを見せる。
「はい、確かに。アイリンちゃん、パスケース買ったんだねぇ」
「ううん。友だちにもらったんです。今日、わたし誕生日で」
「お、そうなのかい? 誕生日おめでとう」
「わっ……ありがとう、おじさん!」
御者のおじさんにお祝いしてもらっちゃった。
わたしはぺこりと頭を下げて、後ろの席に座ろうとする。
「おや? アイリンちゃん、誕生日今日だったの。おめでとう、あとで果物でも持っていくよ」
「ほんとですかっ! ありがとうございます!」
よくお菓子とか果物をくれる、近くに住んでいるお婆ちゃん。おじさんとの会話が聞こえてたみたいだ。
そしてさらに、
「誕生日おめでとう」
「おめでとー」
「おめでとうございます」
お婆ちゃんとの会話が馬車に乗っていたみんなに聞こえたみたいで、次々にお祝いしてくれる……!
「なんだ? 誕生日か? おめでとな!」
「見えないけどおめでとー!」
「おめでとう!」
「わわ、外からも!?」
お祝いの声が馬車の外にまで聞こえたみたいで、近くを通る人にも祝ってもらっちゃった。
わたしは立ち上がって、大きな声で、
「みなさん! ありがとうございます! 最高の誕生日ですっ!!」
あちこちから拍手が聞こえてくる。わたしはちょっと恥ずかしくなって、頭を下げて席に座った。
拍手が鳴り止むと、馬車はゆっくりと動き出す。
「……えへへ」
こんなにいっぱいお祝いしてもらったの、初めてかも。
きっかけは、クラリーちゃんがくれたこのパスケースだ。
クラリーちゃんのおかげで……本当に、最高の誕生日になった。
わたしはぎゅっと、パスケースを胸に抱く。
えへへ。
未分類魔法クラフト部
クラフト26「アイリンの誕生日」
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