177「みんなのプレゼント」クランリーテ


「誕生日おめでとう!」

「ありがとう、みんな~!」



 休み明けの放課後。いよいよ、アイリンの誕生日会が始まった。

 持ち寄ったお菓子をテーブルの上に並べて、お茶を用意する。

 クリームたっぷり、苺の乗ったケーキにロウソクを立てて、定番の歌を唄ってアイリンがロウソクを消す。

 部室がちょっと狭くて、こぢんまりしてるように見えるけど……なんか、私たちらしい感じだ。


 さて、次はいよいよプレゼント。……でもその前に。


「ところでさ、このケーキ誰が買ってきてくれたの?」


 ずっと気になっていた。テーブルの真ん中に置かれたホールケーキ。

 上に乗ったチョコレートのプレートにはきちんと『アイリンちゃん 誕生日おめでとう』と書かれている。

 部室に来た時から箱が置いてあったけど……いいから準備しよーってチルトが言って、そのまま誕生日会が始まってしまった。


「クラリー、それは買ったんじゃありません」

「買ったんじゃないって、ナナシュ……え? まさか」

「ふふっ。このケーキは私の手作りなんです。アイリンちゃんへ、私からの誕生日プレゼントだよ」

「ふぉ? ……ふおおおおお!? 手作り? プレゼント!?」


 ガタン、と椅子を倒しそうな勢いで立ち上がるアイリン。

 私も思わずケーキをまじまじと見てしまう。

 これが、手作り……。


「すごい……。ナナシュ、ケーキ作れたんだ?」

「ケーキは初挑戦です。お母さんに教わりながらだったけど……」

「それでもすごいわよ。驚いたわ」

「ボク、手作りのお菓子ってことは聞いてたんだけどねー。まさかホールケーキ作っちゃうなんて思わなかったよー」

「ナナシュちゃん! すっごく嬉しいよ~!」

「アイリンちゃんが喜んでくれてよかった。ケーキ、切り分けるから待ってください」


 ケーキを切り分けて、紙のお皿に分けていく。残ったのはアイリンに持って帰ってもらおう。と、思ったけど。


「ふおおおおお! 美味しいよナナシュちゃぁぁぁん!」


 あ、という間に食べてしまうアイリン。これはおかわりで残りも食べちゃいそうだ。

 私も見てないで食べよう。


「あ……本当に美味しいよ、ナナシュ。生地もしっかり膨らんでるし。初めてでこれって、やっぱりすごいね」

「ほんとだよー! すっごく美味しい! ナナシュちゃんが頑張って作ってくれたんだーって思うとますます美味しく感じる! 想いが詰まってる! ありがとね、ナナシュちゃん!」

「ふふっ。……私の方こそ、ありがとう。アイリンちゃん」

「ふお?」


 ナナシュのお礼に、アイリンは首を傾げるけど。

 私には、なんとなくその気持ちがわかった。

 ナナシュの隣りに座ったチルトも嬉しそうに笑って、


「よかったねーナナちゃんっ。じゃ、次はボクのプレゼントを受け取ってもらおうかな」

「えっ、チルちゃんも!?」

「アイリン、ナナシュとチルトだけじゃないよ」

「あたしたちみんな、プレゼント用意してるに決まってるじゃない」

「えぇ!? いいよ~そんなの! 誕生日会を開いてくれただけで十分だよ!」

「そんなこと言わないでよ。みんなせっかく用意してきたんだから、ちゃんと受け取ってくれないと困る」

「それに、私のプレゼントはもう食べちゃってます」

「チルちゃんのだけ受け取るなんてずるいなー」

「ふああぁぁぁ! そっか、そうだよね……えっと、じゃあ、うん」


 アイリンは頷いて、少し縮こまる。遠慮することないのに。


「というわけでボクの番ね! ふっふっふ。ナナちゃんに負けないくらい、すごいのを用意したから覚悟してねー」

「ちょっとチル、そんな風にハードル上げない方がいいんじゃない?」

「サキ、ボクはね、すごいものを見付けちゃったんだよ。アイちゃんならぜったい喜んでくれる、最高のプレゼントを!」

「すごい自信だ……」

「いつもこんな感じよ」


 チルトは後ろを向いて、棚をごそごそしている。

 そしてくるっと振り返ると、


「はい! アイちゃん誕生日おめでとー!」

「わっ、おっきい箱!」


 縦長の大きな箱が出てきた。床に置けば膝くらいまでありそう。


「ていうかチルト、来るときそんな大きな箱持ってたっけ?」

「ナナちゃんと一緒に、朝のうちに置いておいたんだよー」


 なるほど、チルトとナナシュは一緒にプレゼント選びをしていたし、そういう打ち合わせをしていたのか。


「なんだろう? チルちゃん、開けてもいい?」

「もちろん! ここで開けて!」


 アイリンが包装を解いていくと、木箱が現れた。それを開けると……。


「これって……木の人形?」


 中から取りだしたのは、木で出来た大きな人形だった。

 胴体は大きな丸太で、そこに少し小さな丸太をつけて腕にして、頭も切り株のような短い丸太、足は何故か細い丸太で不格好な感じの……とにかく丸太を組み合わせて作った人形だった。


「ふおぉぉ! こんなに足細いのにちゃんと立つよこれ!」

「……ほんとだ。どんなバランスしてるんだろう」

「はぅ、本当に倒れないよね?」


 アイリンがテーブルの上に人形を置く。

 今にも倒れそうなのに倒れない、絶妙なバランスを保っていた。

 ケーキの上に倒れそうで、ナナシュがハラハラしている。


「ふっふっふ。アイリンちゃん、驚くのは早いよ。その人形にはまだ秘密があるんだから」

「そうなの!? いったい、どんな秘密が……!」

「実はね、その木の人形。…………関節が動くよ」


 ……関節?

 いや、丸太に関節もなにもないんじゃ……。


「ほ……ほんとだ!! 腕が曲がった!」

「えっ、うそ!?」


 腕はどう見ても真っ直ぐな一本の丸太なのに……ぐにっと、曲がった。


「あっはははは! なにこれー! 腕だけじゃない、足も曲がるし手首もある! あ、腰も回るよ!」

「そんな見た目でちゃんとポージングできるんだ。すごいよねー」


 た、確かにこれはすごい。どういう仕組みになってるか想像もつかなかった。


「まったく、チルったらまたヘンなのを選んだわね。でも――」


「おもしろーい! チルちゃんありがとう! 最高に面白いよこれー!」

「やったっ! アイちゃんならそう言ってくれると信じてたよー」


「――狙い通りだったみたいね」


 アイリンがすごく面白がってる。チルトのプレゼントは正解だったみたいだ。

 ていうか……。


「あ、あのさ、アイリン。あとで、私にも触らせて」

「うん! もちろん! はいっ、クラリーちゃん――」

「待ちなさいって。そういうのは、みんなプレゼントを渡してからにしましょ。次は、あたしのプレゼントよ」


 そう言って、サキは鞄から箱を取り出す。チルトのとは対照的に、手のひらに乗るくらいの、薄い正方形の箱だ。


「なんとなく想像つくなー。サキのことだから、あれかあれだよねー」

「チルは黙ってなさい。はい、アイリン。誕生日おめでとう。良かったら開けてみて」

「ありがとうサキちゃん! じゃあお言葉に甘えて~」


 プレゼントを受け取って、アイリンが箱を開ける。中に入っていたのは……。


「ふおお! ブレスレット、だよね?」


 シルバーのブレスレット。間に一つ宝石がついている。


「さっすがサキちゃん、オシャレだ~!」


 私は買うとき一緒だったから、その時に見ていたけど……サキって本当にセンスがいいと思う。


「サキー。ただのブレスレットじゃないんでしょ?」

「ええ。アイリン、それ魔法道具なのよ。使った属性魔法を増幅させるタイプのね」

「えぇ!? そうなの? 属性魔法の……」

「最近、アイリンも属性魔法をだいぶ使えるようになったでしょ? だからそういう魔法道具を使ってみるのもいいと思ったのよ。イメージの簡略化に繋げられたら、負担も減るはずよ。……あ、で、でもっ、属性魔法用の魔法道具なんていらないって言うなら、普通のアクセサリーとしても使えるわ。だから……」


 黙ってブレスレットを眺めているアイリン。サキの声がだんだん弱くなっていく。

 やっぱり必要ない? ううん、きっと、そんなことは――。


 アイリンが、自分の手首にブレスレットを付けた。


「わぁぁ……魔法道具……わたし、使えるかな?」

「……え、えぇ。あれだけ属性魔法を使えれば、効果あるはずよ」

「そっか……わたし、魔法道具使えるんだ。えへへ、嬉しい! ありがとうサキちゃん!!」

「っ……ど、どういたしまして」


 アイリンは自分の手首を動かして、ブレスレットを眺め続けてる。

 本当に、よかったね。サキ。


「じゅあ、最後は私だね。なんか、みんなのプレゼントがすごくて出しにくいけど」


 私は鞄からアイリンへのプレゼントを取り出した。

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