176「アイリンのことを考える」クランリーテ
……困った。
アイリンの誕生日プレゼントが決まらない。
「クラリー、少し休憩する?」
「ううん、大丈夫。あ、でも……サキが疲れちゃったよね。長時間付き合わせてごめん」
「あ、あたしは大丈夫よ! 気にすることないわ」
サキはとっくにプレゼントを決めたのに、私はずっと悩んでいる。
嫌な顔一つせず付き合ってくれるサキに感謝だ。
「やっぱり休憩にしよう。あそこのハーブティー、おごるよ」
「だから気にしなくていいってば。……もう、しょうがないわね」
結局サキは自分のお金でお茶を買って、私たちは歩道のベンチに座った。
「はぁ~……。だいぶ寒くなってきたわよね」
「うん、そうだね」
ターヤの季節は、夏は早く、冬は来るのが遅い。とはいえもう十の月の終わり、さすがに寒い日が増えてきた。
「クラリーの誕生日は一の月よね」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、お祝いの準備をしっかりしないといけないわ」
「あはは……ありがと。サキとチルトを祝えなかったの、残念だな」
「いいのよ。こんな風に……その、仲良くなる前だったんだから。来年があるわよ」
「うん。来年の春は、楽しみにしてて」
その頃には私たちも二年生。
どうなってるかな。目標通り、研究室をもらえているといいんだけど。
「ねぇクラリー」
「なに?」
「プレゼント、迷ったら自分がもらって嬉しいものを選ぶといいって聞いたことがあるわ」
「……うん。私もそれ、聞いたことある。でも」
「クラリーはアイリンが喜ぶ物にしたいのよね」
「あ……うん。そうなんだ。プレゼント、自分が嬉しいものでもいいんだろうけど、できれば今回は、そういう選び方じゃなくて、アイリンが嬉しいものを考えたい」
アイリンのことをよく考えて、それで決めたい。
でも考えれば考えるほど、わからなくなっていく。
これはどうだろう、喜んでくれるかな。でもこっちの方がいいかもしれない。アイリンの好みならこれもいいかもしれない。これはダメかな? じゃあこれは、あれは――?
そんな風に頭の中でぐるぐるしちゃって、どんな物にするかさえも決まらなかった。
「なら、少し考え方を変えた方がいいかもしれないわね」
「考え方を……?」
「喜ぶ物って風に考えるからわからなくなるのよ。プレゼントとは関係無く、アイリンのことを考えてみたら?」
「プレゼントと関係無く……?」
プレゼント選びをしているのに?
でも……そうだね。
普段のアイリンのことを思い浮かべれば、プレゼントのヒントがあるかもしれない。
アイリンは未分類魔法が得意だ。ううん、天才と呼んでいいと思っている。
彼女が創り出した通話魔法がきっかけでクラフト部に入って。仲良くなって。
……私も可能性を見いだして。
サキとチルトとも友だちになって、ナナシュも同じ仲間になった。
一方で、アイリンは属性魔法が苦手だった。でも先日、特殊なイメージ方法を編み出して、前よりも使えるようになってきた。なんだかんだで努力するんだよね、アイリンって。
アイリンは城下町じゃなくて、少し離れたニィミ町に住んでいる。
毎朝馬車に揺られてこの街にやって来る。馬車もタダじゃないから、定期券を買ってるって教えてもらった。
でも馬車も時間が決まってるから、こっちでなにかあって帰りが遅くなると、馬車に間に合わなくなる。そんな時は、私の家に泊まったりして……。
最初のうちは速達(馬で手紙を届けてくれるサービス。時間が遅いほど高くなる)でアイリンの家に連絡していたけど、最近はもう、次の日報告してくれたらいいと言われてしまった。……それから泊まる回数が増えた気がする。
学校では結構友だちが多い。アイリン自身は属性魔法が苦手だからという理由で一歩引いていたみたいなんだけど、彼女の明るい性格に、みんなの方は好感を持っていた。二学期になって……いや、一学期の終わりの期末試験、自由課題で魔法を披露した辺りから、アイリンに話しかけるクラスメイトが増えたと思う。
そういえば、ヘステル先生の研究室にも一人でよく行っているらしい。
未分類魔法談議に花を咲かせているとか。そういえばヘステル先生は、どんな未分類魔法を研究しているんだろう……。
私たちといる、いつも見ているアイリンはかなりの感動屋で。なにかあれば抱きついてくるし、涙もろい。……優しいんだよね。
おっちょこちょいというか、危なっかしいところもあって放っておけない。
でもいつも期待以上の、すごい未分類魔法を見せてくれる。目が離せない存在。
全部が、アイリンの魅力だ。
「どう? なにか思い付いたかしら」
「……ううん。でも、なんていうかな。さっきまでの、頭の中のもやもやは消えたっていうか。今なら、すぐに決められる気がする」
私はお茶を飲み干して、立ち上がる。
たくさんアイリンのことを考えた。
アイリンが欲しがりそうな物。喜ぶ物。よく使いそうな物……。
「あ……そうだ。ねぇ、サキ。こういうのはどうかな?」
目の前のお店のショーケースに駆け寄って、私はそれを指さした。
後ろからサキがやって来て、覗き込む。
「これは……そうね、アイリンになら……。クラリー、すごくいいと思うわ」
「だよね? よしっ。サキ、ありがとう! これにするよ」
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