175「頑張っているあの子に」サキ
「ふぅ……。サキ、プレゼント選びって迷うね」
「そ、そうね……クラリー」
『せっかくだから二手に分かれてプレゼント選びしようよー』
そう言い出したのはチルだった。そうすれば一緒に買いに行かなかった人がどんなプレゼントを選んだのか、楽しみが増える。……という理由で。そしてさらに、
『いっつもサキと一緒だし、今回はナナちゃんと買いに行くねー』
そんなことも言い出し、結果あたしは……クラリーとプレゼント選びに来ている。
まさか、こんなことになるなんて。――こんな日が来るなんて!
別に、二人で話すことは普通にある。魔法のことになると長時間話し込んじゃうし。特に四つの箱絡みのことは、一緒にイメージの練習を行い、語り合ったりしている。
……けど、こうして休みの日に、魔法とは一切関係無く、一緒に買い物をするというのは初めてだった。
なんでこんなに緊張してるのかしら……。
あたしはクラリーに、魔法の成績で勝ちたいと思っていた。
同時に、彼女の属性魔法に憧れも抱いていた。
あの頃から多少の変化はあったけれど、気持ちは変わらない。
一番を取ることも。憧れも、消えていない。
ライバルであり、憧れてもいる。それがあたしにとってのクラリー。
だからだと思う。友だちとしてクラリーに接すると、少し緊張してしまう。ドキドキしてしまう。
「いい加減慣れたと思ったんだけど……」
「うん? なにが、慣れたの?」
「な、なんでもないわっ」
いけない、つい口に出してしまった。
クラリーは首を傾げ、すぐにプレゼント選びに戻っていく。その目は、表情は、すごく真剣だった。
……そうよね。今日はアイリンのプレゼント選びに来ているんだから。
あたしも真面目に考えないと。
「ところでクラリー、プレゼントどんなのにするか決めてるの?」
「うっ……ううん、それすら決まってない。ねぇサキ、チルトからはいつもどんなものもらうの?」
「あたし? チルから? そうね、ヘンなものが多いわね」
「え? へんなもの?」
「チルは自分が面白いと思った物をプレゼントしてくるのよ。確かにもらった時は楽しむんだけど、次の日とかに冷静になってみると……なんであんなに楽しんでいたのか、よくわからなくなるのよね」
「あはは……チルトらしいプレゼントだ」
「きっとみんな同じことを思うわ」
今の話をナナシュやアイリンにしても、同じ反応をすると思う。
「でもチルがどうしてそんなヘンなものをくれるのか、気持ちはわかってるから。しょうがなく全部保管してあげてるわ」
「そっか。それは、サキらしいね」
「なっ……。いいでしょ、別に」
あたしは顔が熱くなっていることに気付いて、そっぽを向く。
もう……なんでこんな話をしてしまったのかしら。
「自分が面白いと思った物か……」
「……クラリーまで真似することないのよ?」
「わかってるよ。でも、迷うなぁ。サキは決まった?」
「物はまだだけど、そうね。やっぱりアクセサリーか魔法道具にしようと思うわ」
「アクセサリーはともかく、魔法道具?」
「そうよ」
クラリーが疑問に思うのもわかる。
何故なら、魔法道具は基本的に属性魔法を補佐するものだからだ。
未分類魔法が得意なアイリンにはあまり必要がない。でも、
「魔法道具って、ある程度属性魔法を使えた方がその効果を実感しやすいの。逆に言えば、効果を実感できれば属性魔法を使えるようになってきた、という証明になる」
「……なるほど」
「あの子、最近属性魔法も頑張ってるでしょ? そろそろ魔法道具の効果を実感できるはずよ。頑張った成果がわかるプレゼントにしたいと思ったの」
もちろん、それをアイリンがもらって喜ぶのかどうか、という不安はある。
だからアクセサリーか魔法道具で迷っていた。だけど……。
クラリーが小さく笑う。
「ふふ。すごくサキらしい、いいプレゼントだと思う。きっとアイリンは喜ぶよ」
「そ……そう? だったらやっぱり、魔法道具にしようかしら」
「それがいいと思う。あっちにお店あったよね? 行こう、サキ」
「ええ。……ありがとう、クラリー」
あなたと一緒に買いに来てよかった。おかげで自信が持てたわ。
あとはどんな魔法道具にするか、考えるだけね!
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