173「感謝が伝わるプレゼント」ナナシュ


「それにしても誕生日かー。ボクとしたことが、そんな大事なことを調べ忘れるなんて」

「はぅ……でも、休み前にわかってよかったね。プレゼントを用意する時間ができました」

「やー、ほんとソレだよ。危なかったなー」


 アイリンちゃんの誕生日が休み明けだとわかって。

 当日の放課後に誕生日会を開こうという話になった。


 場所は部室で、お菓子を持ち寄ってささやかなパーティー。

 アイリンちゃんには内緒だけど、みんなそれぞれプレゼントを用意する。

 今日はそのプレゼント選びに、チルトちゃんと一緒に街に出ていた。


「チルトちゃんとサキちゃんは、もう誕生日終わっちゃったんだよね」

「クラフト部に入る前だったからねー。サキは四の月、ボクは五の月の頭。ナナちゃんは三の月だっけ」

「はい。あと、クラリーは一の月だよ」


 今回のことで、みんなの誕生日を確認し合った。

 中学からの付き合いだから、クラリーの誕生日は知っていたけど……。サキちゃんとチルトちゃんの誕生日が過ぎていたのは残念。知り合う前だから、仕方ないんだけどね。


「ナナちゃんはもうプレゼントの目星ついてるのー?」

「目星はついていないけど、お菓子にするって決めてるよ」

「お、そうなんだー。方向性決まってるならすぐ見付かりそうだねー」

「そうでもないよ。誕生日会、みんなでお菓子を持ち寄るってなったでしょう? だからそれとは違う、特別感のあるお菓子にしないといけません」

「あぁー、確かに。でもさ、それならお菓子以外にすればよかったんじゃない?」

「それは……。実はね、チルトちゃん。私、誕生日プレゼントはいつも、お菓子って決めてるんです。クラリーの誕生日にもお菓子をあげました」

「ほほー。そっかー、こだわりがあるんだ」


 こだわりかどうかはわからないけど、私の中では誕生日プレゼントと言えばお菓子だった。

 クラリーだけじゃなくて、友だちにはいつもお菓子をあげている。


「お母さんがね、誕生日にいつもお菓子を作ってくれるんです。あ、もちろんプレゼントとは別でね。だけど私はそのお菓子の方が嬉しくなっちゃってたの。それで、同じように友だちにも喜んで欲しくて、お菓子をプレゼントするようになったんだ」

「習慣になってるってことかー」

「うん、そういうこと。だからアイリンちゃんにもお菓子を贈ろうと思うんだけど……」


 いつもは、これにしようってすぐに決まるんだけど。

 どうしてだろう、今回はすごく迷ってる。


「目移りしちゃってるー?」

「ううん。そういうのじゃないと思うんだ。ただ……」


 魅力的なお菓子はいっぱいある。でも、どれも違う気がしちゃって。

 たぶんそれは、


「……きっと、アイリンちゃんにはどんなお菓子がいいかって、いっぱい考えちゃってるからだと思う」

「え? いっぱい考えちゃってるから??」

「私、アイリンちゃんにはすっごく感謝しているんです。

 クラリーのこと。猫アレルギーの薬のこと。なにより、未分類魔法クラフト部に誘ってくれたこと……」


 クラリーはアイリンちゃんに出会って、将来への希望を見付けた。未分類魔法には可能性がある。マナ欠乏症は治るって。考えるようになってくれた。

 猫アレルギーの薬は、私が見付けた特殊な薬草リジェをもとに、アイリンちゃんの未分類魔法を組み合わせて完成させた薬だ。いまはまだターヤ国内だけだけど、色んな人の手に渡るようになった。


 未分類魔法クラフト部の一員になって、本当に色んなことがあった。

 私自身も成長できて……。


 全部、きっかけはアイリンちゃんだから。


「誕生日プレゼントって、そういう感謝を伝えるチャンスだと思うんです。だからしっかり選びたい。自分も納得できる、アイリンちゃんが喜ぶプレゼントにしたい」

「……そっかー。でもナナちゃん、それって見付かるの?」

「そうですね。見付からないかもしれません。でもその時は、もう一つ考えてることがあるよ」

「あはは、ナナちゃん。そう言うってことは、もうそっちに決まってるようなもんじゃない?」

「はぅ……うん。そうだね。もう一つの考えに、決まりです。チルトちゃん、もう少しだけ付き合ってくれる?」

「もちろんっ」


 決めたよ、感謝が伝わるプレゼント。

 楽しみにしててね、アイリンちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る