クラフト26 アイリンの誕生日
172「十の月の最後に」クランリーテ
十の月の終わり、ある日の週末。
私たち五人はいつものように、クラフト部の部室に集まっていた。
ちなみにホシュンは来ていない。
別にあの日のことでギクシャクしているとかじゃない。クラスでは仲が良いし。特にアイリンがぐいぐい話しかけに行くから、三人で行動することが多くなった。
ただ、部の方には少し顔を出しにくいのか、放課後になるとすぐに教室からいなくなってしまう。
やっぱりちょっとやり過ぎちゃったかな。
「あ、そういえばさ、アイリン」
「なになに? クラリーちゃん」
ホシュンがいると聞けないことだったから忘れていた。
あの時アイリンが使った……。
「瞬間移動魔法、だっけ。あれってやっぱり、ナハマ空洞の隠し部屋を真似したの?」
「うんっ! そうだよ~」
ナハマ空洞の隠し部屋。私たちはあの部屋から空の研究室に一瞬で移動した。
研究室が空に浮かんでいたことや、壁の文字など大発見はいくつもあったけど。
私たちを瞬間的に移動させたあの部屋が、一番とんでもない可能性を秘めているのかもしれない。
「へぇー、やっぱそうなんだー」
「ま、それ以外ないわよね。大調査の時に思い付いたって言ってたんだから」
「はぅ……そうなんだろうと思っていたから、詳しく聞くのを忘れていました」
言われてみれば、確かに。ホシュンのこともあったけど、たぶんそうだろうという思い込みから聞くのを忘れていたというのもある。
「あのね、どういう仕組みでみんないっぺんに移動させたのかは、やっぱりぜんぜんわかんないんだ。それでも同じことできないかなーって、色々試したんだよ~」
アイリンはテーブルの上のペンを手にとって、自分の前に置く。
そして、私に向かって手を伸ばした。
「こないだは自分の手元に移動させたけど、違う場所に移動させることもできるんだよ。――えいっ、瞬間移動!」
ペンが消え、同時にコトンと音がして――サキの前にペンが落ちた。
「……な、なかなか狙った場所に移動させられないんだけどね。あはは~……」
「い、いや、それでもすごいよアイリン」
「でもでも、あの部屋の再現とはぜんぜん言えないんだよ? 小さくて軽い物しかダメで、人なんか絶対無理だし、ほんのちょっとの距離しか移動できないよ」
「今は、でしょ? 通話魔法だってそうだったじゃない。この魔法で、あの隠し部屋に一歩近付いた。それはこの世界でアイリンだけなんだよ」
「わたし、だけ? …………ふぉぉぉぉぉ! クラリーちゃぁぁぁん!」
「うわっと」
やっぱり抱きついてきた。来るだろうなと思っていたから、倒れずに受け止めることができた。
「嬉しい! こんなにいいことばっかりでいいのかな~。いま、すっごく最高の気分だよ~!」
「ア、アイリン? ちょっと大げさだよ」
「そんなことないよ~! わたしは幸せものだな~」
大げさなのはいつものことだけど、でも、なんかいつも以上に……
「なんかアイちゃん、いつにも増してウキウキしてるよね~」
チルトが代弁してくれる。すると、私だけじゃなくみんながうんうんと頷いた。
「なにかいいことでもあった? あ、今の話とは別にね」
「えへへ~……わかる? 実はね、もうすぐわたしの誕生日なんだ。誕生日前ってわくわくするよね!」
「……え? 誕生日って、アイリンの?」
「うん! 十の月、最後の日だよ!」
「わーお……休み明け、明後日だねー」
「……だね」
私たちはアイリンに見えないように、こっそり頷き合うのだった。
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