170「新魔法を見せちゃおう」クランリーテ


「この未分類魔法はね、ナハマ空洞の調査の時に思い付いて、創ったんだ」


 私たちは輪になって、アイリンの魔法の説明を聞く。


「使いたい物に予め魔法を使って、マークしておくの。でもね、人が身に付けてる物や、持ってる物はダメだよ。あんまり大きな物や重い物もダメ。軽くて、片手で持てるくらいの物だけかな、今のところ」


 手のひらを上に向けて、閉じたり開いたりするアイリン。

 私たちは黙って頷き、続きを促す。


「でね、チルちゃんに言われた通り、わたしのノートにマークしておいたの」


 アイリンの視線を追って、私たちもそれを見る。

 風の塔の廊下。未分類魔法クラフト部、部室のドアを。


「距離もこのくらい近くないと使えないんだ~……。だからあんまり意味がないっていうか、やっぱり使い道がないっていうか」

「アイちゃん、時間的にヤバイからやっちゃって」

「あ、うん! じゃあいくよー。新魔法~!」


 アイリンが再び手のひらを上に向ける。

 もう、魔法が発動してる……。マナが、ドアの向こう側と繋がる。

 属性魔法とは明らかに違う動きをするマナ。

 アイリンの、新しい未分類魔法!



「瞬、間、移動っ!」



 ……パサッ。


 アイリンの手のひらに。

 


「うっ――わ、なにこれ、アイリン」

「聞いてはいたけど、嘘でしょ……」

「はぅ! な、なにが、起きたんですか? いま」

「あっはは! アイちゃんすごいよ! でも、いま一番驚いているのは――」



「あぁぁぁ! !!」



 ドアの向こうから聞こえてきた、特徴的な語尾の叫び声。


「間違いなく目の前にあったのに! いままさに手に取ろうとしていたのに! なんで、どうして消えたッスか!?」


 アイリンの魔法に驚いていた私たちだけど、中からの声にぽかんとしてしまう。

 チルトは何故か口を手で押さえて蹲り、床をバンバン叩いている。


「どこにもない……! そんなバカなッス!」


 私たちもそう叫びたいよ。

 魔法もそうだけど、まさか、本当に……。


 やがて、ガチャっと扉が開いた。


「はぁ、せっかく忍び込んだのに。どうなってるッスか」

「そうだねー。鍵開け大変だったでしょー?」

「いやいや割と簡単な作りの……鍵……で……」


 部室の中から出てきたのは、もちろんホシュン。

 私たちが廊下にいるのを見て、ビシリと(本当にそんな音が聞こえた気がした)固まった。


「ホシュンー? どうして部室に忍び込んだのかなー?」

「あ……え……なんで、みなさん? ナナシュさんの、家に……行ったんじゃ……」

「えへへ、ちょっと忘れ物しちゃって。わたしが魔法を使って、ノートを瞬間移動させたんだ~」

「しゅん……かん? 魔法? アイリンさん? …………いや、嘘ッスよね」

「え? 本当に魔法だよ~? 未分類魔法!」

「ま、忘れ物に関しては、わざとやってもらったから。嘘っちゃ嘘かなー」

「あ、あぁー……そう、なん、ッスか。にゃ、にゃはは……」

「にゃははー。ってことで、詳しいこと聞かせてもらうよ。部室の中に戻ろうかー? ホシュン」

「にゃっ、チルトさっ、あ、クラリーさんまで! にゃははぁぁぁぁ……っ」


 私とチルトでホシュンの腕を掴み、部室へと引きずり込むのだった。

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