168「部活見学タイム」クランリーテ


「おぉー! ここが未分類魔法クラフト部の部室なんすね~!」


 放課後。私とアイリンは、ホシュンを部室に招き入れた。

 部活を見学したいと言うホシュンに、アイリンが――



「け、見学?」

「できるなら体験入部したいッス!」

「体験……入部……。ど、どうしよう、アイリン」

「え? いいと思うけど……あれ? ダメかな、クラリーちゃん」

「ダメでは、ないけど」

「じゃあ決まり! ホシュンちゃん、放課後に案内するよ~」

「ほんとッスか! ありがとうございます~!」



 ――と、あっさり答えてしまった。

 体験入部と言っていたけど、まずは見学ということで。


 部室は昼休みに大慌てで片付けた。

 アイリンは完全に失念していたみたいだけど、通話魔法に関するものは隠しておかなきゃいけない。特にテレフォリング。テーブルの上はアイリンの作業台になっていたから大変だった。


 ……さすがのアイリンも、いきなり通話魔法のことを話すつもりはなかったらしい。片付けている間、私に何度も謝ってきた。

 昼ご飯抜きになったからね。その後の短い休み時間に急いで食べていたら、早弁ならぬ遅弁って言われたし。



「まぁ座ってよ、ホシュン」

「はいッス! ありがとうございます!」


 アイリンが奥に座って、ホシュンはドア側。私はその間に。

 テーブルを挟んで向き合い……。


「…………」

「…………」

「…………あの、普段どんな活動をしてるッスか?」

「ふおっ、活動! それは~……その~」


 チラチラとこっちを見てくるアイリン。

 助けを求められている……けど、私も困った。

 通話魔法関連のことはなにも話せない。

 そうなると、この部の活動って――。


「そうだ、アイリン。なにか未分類魔法を見せてあげたらどうかな」

「ナイス! クラリーちゃん!」

「いいッスね! 是非、見せてください!」

「うん! じゃあ最初はこれかな~」


 アイリンがテーブルの上で手をかざすと、黒い小さな箱が現れる。

 これは……。私はそっと立ち上がって、ホシュンの後ろに回った。


「これが未分類魔法、ですか?」

「そうだよ! これに触れながら声をかけると……ホシュンちゃんー」

「はい?」


 アイリンの声に反応して、黒い箱が消える。

 一瞬、マナが広がる感覚があり――。


『ホシュンちゃんー』


 ホシュンの側で、アイリンの声が聞こえた。


「え……えぇぇぇぇ!? なんっスかいまの!? すごい近くでアイリンさんの声が!!」

「ボイスボックスっていう名前でね、一番近くにいる人に声を届ける魔法なんだよ~」

「こ、声を届ける? すすす、すごくないッスかそれ!」

「そ、そう? えへへ~……」


 ……懐かしい。私も通話魔法以外の未分類魔法を見せてと言って、最初に見せてもらったのがボイスボックスだった。

 さっき座ってた場所にいると私にボイスボックスが届いちゃうから、ホシュンの後ろに移動したんだけど、もういいかな? 席に戻ろうとすると、


「アイリンさん! この魔法、いったいどういう風に作ったんですか?」

「えっとね、これは――」


 あ、まずい。

 私はホシュンの後ろで、手を交差させて×を作る。

 するとアイリンが気付いて、ハッとした顔になる。


「――偶然! なんとなくね、思いついて、作ってみたんだよ~」

「そうなんですね! アイリンさんすごいッス、天才ッス!」

「あはは~……」


 よかった。本当は、通話魔法を創っている時の副産物だから。

 それをそのまま言うわけにはいかない。


「アイリンさん、他には――」


 ガチャ。

 ホシュンがそう言いかけたところで、後ろの扉が開いた。


「おっつかれー。……あれ?」


 部屋に入ってきたのはチルトだった。ホシュンがいることに気が付いて、首を傾げる。


「あー昨日の子だ。なんで部室にいるのー?」

「チルト、彼女は……」

「はい! 未分類魔法クラフト部の見学をさせていただいてるッス!」

「見学? ふーん……」


 ちらりとテーブルに目を向けるチルト。

 大丈夫、通話魔法関連はしまってあるから。


 チルトは黙って棚に鞄を置いて、そのままそこに寄りかかった。

 私はその前を通って、椅子に座り直す。


「ね、ホシュンだったっけ」

「そうです、チルトさん!」

「なんでうちの部を見学しようって思ったの?」

「にゃはは、それはですね。今日転校してきて、クラスの人から話を聞いたんです。なんでも猫アレルギーの薬を作ったそうじゃないッスか! もう医療の革命ですよ!」

「あの薬、アレルギーを治療するわけじゃなくって症状を抑えるんだけどねー」

「それでもすごいッス! いままでにない薬ですよ~」


 すごく気持ちよく褒めてくれるなぁ、ホシュン。

 ナナシュにも聞かせてあげたい。


「まさか昨日お話したみなさんが、そんなすごい人だったとは思わなくて。もっと話が聞きたいって思ったんです!」

「ふおおお! クラリーちゃん、すごい人だってよ!」

「う、うん……そっか、そうなんだ」


 ホシュン……。

 そう思ってくれるのは素直に嬉しい。


「ふーん、なるほどねー。筋は通ってる」

「にゃはは~」


 得意げな笑顔を見せるホシュン。

 それをじっと見つめるチルト。


 ……チルト、もしかしてまだ……?


 ガチャ。


「遅くなったわ。……あら? あなたは」

「昨日の、ホシュンさん……ですね」


 遅れてやってきた、サキとナナシュ。

 ホシュンは素早く立ち上がって、振り返る。


「サキさん、ナナシュさん! お邪魔してるッス!」


 とりあえず、二人にも見学の件を説明しないとかな。

 私も立ち上がって、


「あ、クラちゃーん。お手洗い付き合って!」

「えぇ? 別にいいけど……」


 このタイミングで?


「アイちゃんは二人に説明お願いねー」

「うん! まかせて!」



 その場をアイリンに任せ、私はチルトと一緒に廊下に出る。


「えーと、チルト? なにか話でもあるの?」

「まーねー。後でみんなにも話すけど、まずはクラちゃんにって思って」


 やっぱり。こんな風に連れ出すなんてヘンだと思った。


「あの子のことなんだけどさー」

「……うん」

「アカサ王国の諜報員かも」

「へぇ、アカサの…………って、えぇぇえ!?」

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